02
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私がうっかり中村君の連絡先を受け取ったせいで、宮園さんを怒らせてしまった。
彼女は私と中村君の関係を誤解しているかもしれない。
「あのね、宮園さん。さっきのは……」
何とか弁明を試みる。
理解してもらうには、事の経緯をきちんと説明をするしかないだろう。
「わかっているわ。松浪さんは悪くないもの」
その声は淡々としていた。何だか会話を拒まれているような感じがした。
やはり根に持っているみたいだ。
どうしよう。まともに話を聞いてくれそうにない。宮園さんは恐らく、本気で怒っている。
涙目になる私。このまま永遠に彼女の機嫌が戻らないのかと思うと、胸が苦しくなった。
私には宮園さんしかいない。彼女に見限られたら、この先何を頼りに生きて行けばいいのだろう。せっかく学校が楽しくなってきたところなのに。
もう一度宮園さんの方を見る。彼女はカバンから教科書とノートを取り出して机の上に置くと「どうしたの?」と問いかけてきた。
彼女は微笑んでいるが、目に光が宿っていなかった。
真冬の海を思わせるような瞳を私に向けてくる。
「えっと……」
声を詰まらせる私。
こんな宮園さんを見るのは初めてだ。彼女の視線は驚くくらい冷たくて、心臓が凍えるのではないかと思った。
黙ってちゃダメだ。早く何か言わなければ……。
優しくて明るい宮園さんを失うのは、死ぬことよりも恐ろしい。
だから、ちゃんと示す必要がある。私の想いを。本心を。
どうかわかってほしい。私の友達は宮園さん一人だけなのだ。
他の人と親しくするつもりはないし、ましてや男の子と連絡先を交換するなんてあり得ない。
中村君は悪い人ではないけど、友達になりたいとは思っていない。どこまでいっても彼はただのクラスメイトである。
「その……」
次の言葉を絞り出そうとした時、始業を知らせるチャイムが鳴った。
担任の福田先生が教室に入ってくると、おしゃべりをしていた生徒たちは一斉に自分の席へと戻っていくのだった。
完全にタイミングを逃してしまった。もう私語は許されない。先生は何だかいつもよりピリピリしており、教室の空気は重かった。
号令がかかり、起立、礼をしてから着席をする。
「あなたたち、先週の土曜日にカラオケボックスでバカ騒ぎしていたらしいわね」
眉間にしわを寄せながら先生は言った。
土曜日。カラオケボックス……。クラス会のことを指しているようだ。
「店から学校に連絡があったわ。高校生の集団がカラオケルームを散らかして、片付けもせずに帰った……と。割れたグラスや食べ残しが床に散乱していたそうよ」
それは酷い話だ。あまりにもマナーが悪すぎる。
私はその場に居合わせていなかったが、クラスメイトたちがそんなことをするとは思えなかった。
「待ってください。それは俺たちじゃありません」
中村君は立ち上がり、反論した。
「うちら、ちゃんとマナー守ってましたけど」
「他の学校じゃないんですかぁー?」
クラスメイトたちは否認している。
やったのは彼らではない。私もそんな気がしていた。
「店側の誤解だと言いたいのね?」
「はい。きちんと調べてもらいたいです」
先生の顔をまっすぐ見ながら、中村君は答えた。
嘘をついていないからこそ、そこまで堂々としていられるのだろう。
「わかりました。もう一度、店と話をしてみます」
教え子たちの言い分を信じることにした福田先生。
簡単に犯人を決めつけようとしないのは、いいところだと思う。
「マジで意味わかんねぇよなぁ」
「どこの学校だよ、それ」
あちこちから不満の声が聞こえる。
しかし、そこには安堵感が混じっているのがわかった。まだ疑いが解けたわけではないが、先生に信じてもらえたことで気が緩んだのだろう。
私もチャンスが欲しい。宮園さんに信じてもらえるように、自分の気持ちを伝えたい。
休み時間になったら、今度こそ言おう。
彼女の信頼を取り戻すために。
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