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百合×百合オペレーション  作者: 平井淳
第二章:ワクワク遊園地デート作戦

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感想をお待ちしております。

 紗友里の部屋を出たユリエルは背中の翼を広げて夜空を舞う。それからしばらく飛行を続け、近くの公園に降り立った。


 ベンチに腰を下ろす。ゆっくり目を閉じて、深呼吸した。


 子供たちのはしゃぎ声や走り回る音が響く昼間の賑やかな空気とは打って変わり、人気のない夜の公園は静寂に包まれていた。時折、風が吹いて木々を揺らす音が聞こえてくるくらいである。


 今ここには誰もいない。そう思っていたのだが、突然「わぁー」という子供の声がした。


 驚いて目を開くと、小さな女の子が駆け足でユリエルの前を通り過ぎていくのが見えた。

 

「あははは!」


 笑顔でブランコを漕ぎ始めるオカッパ頭の少女。

 小学校低学年くらいだろうか。背丈は紗友里よりもかなり低い。


 夜更けに幼女が一人、公園で遊んでいる。

 通行人に見つかれば、すぐに警察へ通報されるだろう。


 こんな時間に何をしているのか。親はどこにいるのか。なぜ家に帰らないのか。そういった質問を投げかける大人がそろそろ現れてもいいはずなのだが、彼女の存在に気づく者はいない。


 仕事帰りと思われるスーツ姿の男性が公園の前を通り過ぎていく。キコキコとブランコの揺れる音が響いているが、こちらには見向きもしなかった。


 恐らく幼女の姿が見えていないのだろう。彼女はこの世の存在ではなく、成仏できずに現世を彷徨う霊魂なのだから。


「こんばんは」


 微笑みながら幼女に声をかけるユリエル。


「こんばんは。お姉ちゃん、だぁれ?」

「私ですか? 私は天使ですよ」


 自らの正体を包み隠さず伝える。

 この状況で身分を偽る理由はどこにもなかった。


「天使? もしかして、花子を天国へ連れていく気なの……?」


 怯えた表情でユリエルを見つめる少女。


「すみませんが、私にはできません。あの世へ魂を送り届ける権限がないので」

「よかったぁ。花子ね、まだ天国には行けないの。お姉ちゃんを待ってるから」

「そうでしたか。ですが残念ながら、あなたが次に行くところは天国ではありません。地獄です」


 ユリエルは残酷な事実を笑顔で告げるのだった。


「どうして花子は地獄へ行くの?」

「あなたが悪霊だからです。成仏できぬまま何十年もこの世に留まり続けた霊魂は悪霊になってしまうのです」

「花子、悪い子じゃないよ。いい子にしてるよ」


 花子と名乗る少女はつぶらな瞳をしながら言った。


「そうだよ。花子ちゃんはとてもいい子だよ」


 背後から声がした。

 それは聞き覚えのある声だった。


 振り返るユリエル。

 すると、そこにいたのは……。


「さ、紗友里さん?!」


 驚愕するユリエルは大きく目を見開いた。


「あ、お姉ちゃん!」


 花子はブランコから降りると、紗友里のもとへ駆け寄り、彼女の身体に抱き着いた。

 顔を紗友里の胸元に埋めて、すっかり安心し切っている様子だ。


「どうなっているのですか……。なぜ紗友里さんが悪魔に……」


 ユリエルは気づいていた。

 今目の前にいる紗友里が人間ではないということに。


 彼女は自分の知っている紗友里ではない。さっきまで部屋にいた紗友里は紛れもなく普通の人間であった。一体いつの間に悪魔に転生してしまったというのか。


「転生……。まさか!」


 とんでもないことに気づいてしまった。

 ここにいるのは「救えなかった紗友里の魂」が悪魔となって蘇った存在であるということに。


「私のこと絶対に助けてくれるって言ったよね? ユリエルさん」


 悪魔の紗友里は恨めしそうな目でユリエルを見ていた。


「あ……ああ……。何てことに……。すみません。本当にすみません……」


 今となってはもう謝ることしかできない。


 あの夜、ユリエルは風呂場でリリィに襲われた紗友里を助けることができなかった。


 魂のバックアップを取っていたので、それを肉体に移すことで紗友里は蘇生したが、オリジナルの魂は肉体を離れたきりである。再び彼女の身体に戻ることはない。つまり、それは事実上の死を意味していた。


 ところがなんと、死んでしまったオリジナルの紗友里は悪魔に転生してしまったのである。


「私、もう人間には戻れないみたいだね」


 その紗友里は背中からコウモリのような黒い羽が生えている。瞳は赤く染まり、リリィと同じ眼光を放っているのだった。


「紗友里さん……」

「遅いんだよ。何もかも。バッドエンドっていうのかな」

「ああああ……」


 ユリエルはその場で膝から崩れ落ちた。


「でもいいんだ。私は悪魔になっても宮園さんを手に入れてみせるから」


 そう言って悪魔の紗友里は黒い羽を広げ、両腕で花子を抱きかかえながら空へ昇っていくのだった。


 ユリエルは呆然としながら、それを見上げることしかできなかった。

 

 

第二章、完


お読みいただきありがとうございます。

感想をお待ちしております。

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