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お風呂を出た後、自室でユリエルさんと遊園地デートの反省会をすることになった。
今日の出来事を振り返り、次の作戦に生かすことが主な目的である。
小さな白い円卓を挟んで向かい合う私たち。
ユリエルさんは正座をしながらニコニコと笑っていた。何やら上機嫌である。
それから彼女は、ほんのりと顔を火照らせた湯上りの私を見て「色っぽい」と形容する。
誰かにそんなことを言われたのは初めてなので、何だか照れ臭くなった。
私は同世代の女の子と比べると、顔や体型が子供っぽく、大人の色気とは対極の雰囲気を醸し出している。その証拠として、たまに中学生と間違えられることがあるのだった。
「まぁ、紗友里さんが童顔で小柄なのは事実ですが、だからといって色気がないわけではありません。紗友里さんには紗友里さんの魅力がちゃんとありますよ」
私の魅力?
何があるだろうか。自分ではさっぱり思い浮かばないよ。
宮園さんみたいなモデル体型でもないし、森さんみたいなオシャレ女子でもない。トークの才能もなく、話していてもつまらない。こんな人間のどこが魅力的だというのか。
「今はわからなくてもいいです。ですが、いずれ気づく時が来るでしょう」
ユリエルさんは断言した。根拠は示してくれなかったが、彼女は自信満々に言っているので、その言葉を信じて気長に待つしかない。
「さて、本題に入りましょう。紗友里さん、今日は本当にお疲れ様でした。デートの感触はいかがでしたか?」
「悪くないと思うよ。宮園さんともっと仲良くなれた気がするし」
「ええ。私もそう思います。遠くからお二人の様子を観察しておりましたが、かなりいい感じでしたよ。キュンキュンしちゃう場面もたくさんありました。ユリエルは眼福です」
デートの最中は終始ドキドキしていた。
興奮して鼻血が吹き出たり、宮園さんの予測不能な行動に振り回されたりすることもあったけど、どれもいい思い出である。私はとても楽しかったのだ。
宮園さんの前ではどうしても緊張してしまうけれど、それ以上にワクワクする気持ちの方が強かった。心の底から何かを楽しむことができたのは、いつぶりだろうか。
私たちは何だかんだ相性がいいのかもしれない。一日中一緒にいても、お互い苦にならなかったのだ。
この数日で二人の距離はグッと縮まっている。かなり親密な間柄になったと思う。
「ほら、いいでしょ。宮園さんとのツーショットだよ」
私はスマホをユリエルさんに手渡す。
画面に映っているのは、観覧車の中で宮園さんが撮影し、後からラインで送ってくれた画像であった。
「あら~。素敵じゃないですか」
「プリントアウトして、写真立てにでも入れて飾ろうかな」
これは二人にとっての記念品である。できるだけ部屋の目立つ場所に置いておきたい。
「おやぁ? こっちは隠し撮りですか?」
ユリエルさんは勝手にスマホの画面をスクロールし始めた。
観覧車の窓から景色を眺める宮園さんの横顔を私がこっそり撮影したものが表示されていた。
「他の写真は見ちゃダメぇ……」
ユリエルさんの手からスマホを取り上げようとする私。しかし、綺麗に躱されてしまった。
「好きな人の写真があれば、色々捗りそうですよね! 今夜はコレでするのですか?」
「ちっ、違うもん! そういう目的で撮ったわけじゃないよ」
「ホントにぃ? 見栄を張らなくていいんですよ。したくなったら、いつでも言ってくださいね。私は空気を読んでその場から退散しますから」
ニヤニヤと笑うユリエルさん。
余計なお世話である。そういうからかい混じりの気遣いは迷惑でしかない。
「他にもいっぱい撮ってますねぇ」
ユリエルさんは次々とスマホの画面上で指先をスライドさせる。いや、だから勝手に見ないでほしいんだけど……。
「ちゃんと許可はもらったよ。ユリエルさんも見てたでしょ?」
「いいえ。私は観覧車の中で何があったのかは知りません。第三者による妨害を受けたので……」
「妨害? 誰から?」
「あの悪魔です」
「リリィちゃんのこと?」
「ええ。でも心配いりません。もう手出しはさせませんから。紗友里さんのことは私が必ず守ります」
私は一度、風呂場でリリィちゃんに襲われている。あの時は危うく身体を明け渡すところだった。
彼女はまだ私を狙っているのだろうか。もしかしたら、再び入浴中に襲われるかもしれない。
ユリエルさんの目が届かない場所で一人になるのは不安だ。
警戒すべき相手はリリィちゃんだけではない。旧校舎のトイレで遭遇した花子さんもそうである。
あの子は私に危害を加えようとしている感じではなかったけど、もし「トイレの花子さん」の噂が本当だとしたら、やはりあの女の子の正体は幽霊なのだろう。私はお化けが苦手なので、できることなら花子さんには二度と会いたくない。
「またお漏らししちゃったら大変ですからねぇ」
「うっ」
恥ずかしい記憶が甦り、顔が熱くなる。あの失態は無事に消し去りたい黒歴史と化した。
「提案なのですが、替えの下着をカバンに入れておくのはどうでしょう。これなら万が一のことがあっても安心ですし」
「そうだね……」
みっともない話だけど、ユリエルさんの言うことは最もだった。
ここは素直に助言に従うことにしよう。
タンスの引き出しを開けて下着を一枚取り出す。
ピンク色の布地に小さな白い水玉模様が描かれたものだ。まだ新しい。
私はそれを小さく折り畳み、通学カバンの内ポケットに入れた。
この前みたいなことがまた起こる可能性がないとは言えない。前回は宮園さんが気を利かせてくれたおかげで助かったが、何度も同じ失敗を繰り返せばさすがの彼女も呆れてしまうだろう。
「備えあれば患いなし、です」
「うん。でも、このパンツの出番が来ないことが一番だけどね……」
トイレは必ず休み時間に済ませておこう。授業中に我慢できなくなったら大変だ。あと、部活の前にも行くべきだ。
とにかく宮園さんの前で情けない姿を見せたくない。精神的ダメージがとてつもなく大きいから。
「悪いことばかりとは限りませんよ。むしろ、漏らしたおかげで美味しい展開に繋がるかもしれません」
「何言ってるの? そんなことあるわけないよ」
「宮園さんに着替えを手伝ってもらえます」
「余計に恥ずかしいでしょ」
「ふふふ。恥ずかしいからいいんです」
「えっと……。言ってる意味がわかんないんだけど」
「想像してみてください。宮園さんの前でやらかしちゃった光景を」
「はぁ」
言われた通り、私はイメージを浮かべる。
放課後の部室。宮園さんの前で漏らしてしまった私。
『あらあら。松浪さんったら、また我慢できなかったのね』
『ごめんなさい……』
『お着替えしなくちゃね。私が手伝ってあげるわ』
宮園さんは私のスカートの中に手を伸ばす。それから、そのまま濡れたパンツを下げて……。
「わああああああっ!」
私は思わず叫んでしまった。
なんてものを妄想しちゃったんだろう。
「どうです? 悪くないでしょう」
「今のは、その……」
「さ、続きをどうぞ」
ユリエルさんはニコリと笑いながら、私に妄想を続行するように促した。
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