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宮園さんは友人たちと机をくっつけて昼食を取っている。
ここから離れた席にいるので会話の内容は聞き取れないが、彼女たちはとても楽しそうだった。笑顔が眩しい。
小島さん、森さん、矢崎さん。この三人が宮園さんを中心とする仲良しグループのメンバーである。皆オシャレで可愛くて、今どきの女子高生って感じがする。
特に森さんはティーン向けファッション雑誌の読者モデルを務めており、宮園さんに引けを取らないほどのルックスを持っているのだった。
小島さんと矢崎さんもメイクや髪型はいつもバッチリ決まっていた。どの角度から見ても可愛くて、抜け目ないなぁと感じさせられる。
このクラスで宮園さんと釣り合うのは、やっぱりあの三人くらいだろう。
私を含む他の人間が今さら彼女たちの友情に割り込めるはずもない。
そもそも、宮園さんに話しかけろといわれても、彼女とどんな話をすればいいのかわからない。ただでさえ私は人とコミュニケーションを取るのが苦手なのに、相手があの宮園さんなら緊張し過ぎてまともに会話できないと思う。
宮園さんとは今年から同じクラスになった。彼女の名前と評判は一年生の頃から認知していたけど、意識するようになったのはつい最近のことだ。でも仲良くなりたいと思っているだけで、直接会話したことは一度もない。ずっと勇気が出せなかった。
『なるほど。彼女に話しかけるきっかけと勇気がほしいというわけですね。それまで全然しゃべったことのない人に声をかけるのですから、確かにそれなりの口実がないといけません。ですがご安心を。私が考えた作戦なら、これらの課題もクリアできるでしょう』
どんな作戦なの?
『それは放課後、お家に帰ってからお伝えします。ここは人目がありますから、紗友里さんも集中できないでしょうし』
うん。そうかも。大事なことだから、誰もいない場所で落ち着いて話がしたいな。
作戦の内容をじっくり聞いて、頭の中で整理する時間も必要だ。今ここで作戦会議を開くのはベターではない。
『なので、紗友里さんもお昼ご飯食べちゃってください』
あ、そうだった。
ユリエルさんと脳内で会話していた私は弁当箱を机の上に置いたまま、ずっと固まっていた。
空腹状態だったことを思い出す。授業中もお腹が鳴りそうになっていたんだよね。
休み時間が終わる前に早く食べてしまおう。
私にとって、お弁当を食べる時間が学校生活における唯一の楽しみであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
帰りのホームルームが終わり、放課後を迎えた。
カバンに教科書や筆記用具などを詰め込み、帰り支度をする。
部活動に所属していない私は、このまま帰宅するだけだ。
一緒に遊ぶ友達はいない。だから、いつも寄り道せずまっすぐ家に帰っている。
『せっかくの女子高生ライフなのに、放課後も一人ぼっちなんてもったいないですね』
仕方ないじゃん。友達ができないんだもん。
私だって、もっと青春っぽいことがしたかったよ。
『でも、これからは違います。やがて紗友里さんは宮園由利香さんとお友達……さらには恋人同士になるのですから。憧れの高校生活はすぐそこですよ』
そう、だね。そうなればいいよね。うん、そうするんだ。
ユリエルさんの言葉を聞いて希望が湧いてきた。同時に何としてでも願いを叶えたいという意志が芽生え始めるのだった。
人生で一度切りの高校生活。
このまま終わってしまうのは嫌だ。
青春をかけた戦いが今、始まろうとしている。
私は力強く拳を握った。
カバンを持ち、教室を出る。
廊下には宮園さんが立っていた。
ここで誰かを待っているのだろうか。
目が合う。しかし、私はすぐに視線を逸らした。
彼女に自分の姿を見られるだけで恥ずかしい。
そして、そのまま彼女の顔を見ないようにして、この場から立ち去ろうと思った。
ところが……。
「待って松浪さん」
「……え?」
宮園さんが私の名前を呼び、手を掴んできたのである。
予想外の展開に私の頭はパニックを起こしかけていた。
(ウソ……。私、宮園さんに手を握られてる……?)
「ちょっといいかしら」
「ふえっ……。ふええええええ?」
何で? 何でこんなことになってるの?
宮園さんが私に話しかけてくるなんて。
こんなの予定にないよ。私の方から宮園さんに声をかけるつもりだったのに。そのための作戦をこれから立てるはずだったのに。
「呼び止めちゃってごめんなさい。実は松浪さんに話があるの」
「は、話……ですか?」
私は涙目になっていた。
緊張、不安、焦り、動揺。これらがぐちゃぐちゃに入り混じり、情報と感情を処理することができなくなった結果、目に涙が滲み始めたのである。
『先制攻撃を受けるとは……。どうやら作戦の変更が必要になりそうです』
ユリエルさんは冷静に状況を分析している。
それがせめてもの救いだった。彼女まで慌てていたら、私はますます不安になっていただろうから。
「私たち、同じクラスなのにまだ連絡先を交換してなかったでしょう? だから教えてほしいなと思って。ダメかしら?」
連絡先? 交換?
もしかして、宮園さんは私の連絡先を知りたがってる?
そんな……! どうして?! なぜ宮園さんはカースト最底辺の私と連絡先を交換しようなんて言い出したの?
夢? 幻? それとも罠?!
『紗友里さん、少し落ち着いてください。これはとても喜ばしいことですよ!』
想像の遥か斜め上を行く展開に私は混乱を極めるのだった。
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