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ここでお知らせです。あまり重要な話ではありませんが、松浪紗友里のプロフィール設定を変更いたしました。紗友里の身長は152センチとなっておりましたが、148センチとさせていただきます。
第一章の「登場人物」にて、紗友里の人物紹介に関する説明を訂正しております。
訂正を行った理由は「その方が小っちゃくて可愛いから」です。あと、バスの吊革に手がギリギリ届くという本編の記述に合わせるためでもあります。もしかすると、バスの吊革は身長が148センチの人でも余裕で届く高さかもしれませんが、そこは大目に見ていただきたく存じます。
あと、感想をお待ちしております。反応やアドバイス等をいただけると励みになります。よろしくお願いいたします。
「アンタ、なかなかクレイジーな女よね。紗友里と仲良くなるために他の友達との縁を切っちゃうなんて。何もそこまでしなくてもよかったんじゃない?」
リリィは紗友里の勉強机の椅子に座りながら言った。
「仕方がなかったのよ。私は許された時間をすべて紗友里ちゃんに注ぎたい。だから、他の子たちに構っている暇はないの」
由利香はクラスメイトの森亜矢奈と小島望、矢崎ゆいと仲がよかった。彼女たちとは休み時間を一緒に過ごす間柄であった。
しかし、その三人の存在は大きな障壁でもあった。
休み時間や放課後に紗友里と二人切りになるには、他の友人を切り捨てるしかない。全員と平等に接することは不可能である。
そこで由利香は悪魔の力を使い、クラスメイトの記憶を改竄した。
亜矢奈たちが由利香と友人関係にあったという事実を跡形もなく消し去ったのである。
「あたしも長年悪魔やってるけど、アンタみたいな人間と契約を結んだのは初めてよ。そういう力の使い方もあるのね」
「森さんたちは私と仲が良かったことをすっかり忘れているわ。おかげでスムーズに計画を進めることができた」
対価さえ払えば、すべて思い通りになる。
欲望のためならば、悪魔さえ利用する。
紗友里への想いを抑えきれなくなった由利香は、リリィと契約を交わした。
それは新学期が始まって一週間ほど過ぎた頃であった。
「でも紗友里はアンタの交友関係を覚えているみたいよ。アンタが急に友達いないアピールを始めたから、不思議に感じているでしょうね」
リリィが指摘する。
その言い分は的確だった。実際に紗友里は亜矢奈たちのことを由利香に尋ねてきたからだ。
今まで仲良くしていた人間と疎遠になれば、何かトラブルがあったのではないかと心配されるだろう。
しかし、これも作戦の範疇だった。
「紗友里ちゃんの記憶は敢えて書き換えなかったの」
「へぇ。それはどうして?」
「その方が都合がいいからよ。紗友里ちゃんはとても優しい子だから、友達を失った可哀想な私を気にかけてくれると思ったの」
「あはは。あざといこと考えるわねぇ」
リリィは手を叩きながら笑った。
「紗友里ちゃんには、私だけを見ててほしいわ。そのためなら他の友達なんていらない。紗友里ちゃんだけがいればいいの。私に残された時間はあと少ししかない。だから、最後の最後まで紗友里ちゃんを独り占めしたい」
スマートフォンに表示された紗友里の写真を愛おしそうに眺める由利香。
これは今日、観覧車の中で撮影したものだ。
そこに映っている紗友里は、恥ずかしそうに控えめな笑顔を浮かべている。
今までは盗撮ばかりだったので、彼女が正面を向いている写真はこれが初めてであった。
「動画も欲しいわね……。紗友里ちゃんに気づかれずにカメラを回す方法はないかしら」
「いちいちカメラを用意するなんて面倒でしょ。もっと手軽に済ませたいと思わない?」
「どうすればいいの?」
「アンタの眼球をカメラにしちゃえばいいのよ。見たままの景色が映像として残り続ける仕組みね。対価一回分で五分間記録できるようにしてあげる。映像はそのスマホでいつでも再生できるから、とても便利よ」
「なるほど。悪くないわね。考えておくわ」
眼球そのものをカメラにする。その発想はなかった。
これなら、スマホやビデオカメラを向ける必要もない。怪しまれることなく撮影することができるだろう。
「ああ、そうだわ。明後日の夜、紗友里ちゃんがうちへ泊まりに来るの。一緒にお風呂に入って、同じベッドで寝るつもりだから、くれぐれも邪魔はしないでね」
「ってことは、やることやっちゃう感じぃ?」
ニヤニヤと笑いながらリリィが問う。
「そのつもりよ。紗友里ちゃんも喜んでくれるはずだわ」
「でも記憶は後で消しちゃうのよね?」
「そうね。ちゃんと忘れてもらわなきゃ色々と困るもの」
「意味不明ね。何でそんな回りくどいことするわけ? アンタたち、どう見ても両想いなんだから、さっさとコクって付き合っちゃえばいいのに。まさか、まだ自信がないとでも言うつもり?」
リリィの言いたいことはよくわかる。両想いである可能性が高いなら、すぐにでも告白するべきだろう。自分だって本当はそうしたい。
しかし、由利香は紗友里に愛を告げるわけにはいかない特殊な事情があるのだった。
この想いは永遠に胸の内に秘めておかねばならないのだ。
それは宮園家の一人娘として生まれた身に課せられた宿命でもあった。
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