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遊園地を出た後、由利香は紗友里とともにバスと電車を乗り継いで、姫山駅まで戻ってきた。
「あー、楽しかった」
由利香は伸びをしながら言った。
今日は二人で一日中遊び回った。たくさんはしゃいで、たくさん笑ったものだ。
クタクタになっていてもおかしくないのに、まだまだ遊び足りないくらい元気だった。由利香にとって、初めての遊園地は刺激的で興奮する思い出となった。
また行きたい。もちろん、紗友里と二人で。今度はいつがいいだろうか。
早速、次回の日程を考え始めている。
「じゃあね、宮園さん」
「ええ。さようなら」
駅前で紗友里と別れの挨拶を交わすと、そのまま自分の足で歩いて帰宅することにした。
ここから自宅までの距離はそれほど遠くない。ゆっくり歩いても門限の十八時には余裕で間に合う。車で使用人に迎えに来させることもできたが、こんなことで彼らの手を煩わせるのも悪い気がしたので、やめておいた。
夕日を背に受けながら、由利香は鼻歌交じりに団地の通りを歩く。家に向かう足取りはいつも以上に軽かった。
今日一日の出来事を思い返す。すると、自然と笑みがこぼれてきた。
あれもこれも、いい思い出だ。一生忘れないだろう。
カラスの鳴き声が聞こえる。あの子たちも巣へ帰るところなのかしら、などと思いながら、空を見上げる。頭上には美しい夕焼け空が広がっており、まるで今の自分の心を映し出しているかのように思えた。
今日は大きな収穫を得る一日となった。
紗友里との絆が確固たるものであることを確信したのだった。
「ふふ、紗友里ちゃん」
独り言をつぶやく。無意識のうちに紗友里の名を口にしていた。
「紗友里ちゃん♪ 可愛い、可愛い紗友里ちゃん♪ 大好き、好き好き、紗友里ちゃん♪」
突発的に浮かんできた言葉を歌にする。その歌詞には紗友里に対する並々ならぬ愛が込められていた。
十分ほど歩くと、宮園邸に到着した。
現在の時刻は十七時四十五分。門限まで十五分を残しての帰宅となった。
玄関のドアを開けると、メイドの小田原麻衣が帰りを待っていた。
「おかえりなさいませ、由利香様」
「ただいま」
「遊園地は楽しかったですか?」
「ええ。とっても」
満面の笑みで由利香は答えた。
「それはようございました。では、お荷物をお預かりいたします」
麻衣は由利香からバッグを受け取ろうとする。しかし、彼女はそれを手放さなかった。
「由利香様?」
「自分で持つからいいわ。私は一旦お部屋に戻るわね。お夕飯の時間になったら呼んでもらえるかしら」
「かしこまりました。もう間もなく準備が整いますので、少々お待ちください」
麻衣に見送られながら、二階へと続く階段を昇る。
踊り場を抜けて、数メートル先のところに由利香の部屋がある。
彼女はドアを開けて中に入ると、すぐに内側の鍵を閉めた。
窓からオレンジ色の夕焼け空が見える。
由利香は背中から扉にもたれながら静かに笑った。
「クスッ」
彼女の顔を夕日が赤く照らす。薄暗い部屋の中で彼女の笑顔が不気味に映えた。
カバンの中から綺麗に折りたたまれた白いハンカチを取り出す。
それを開くと、真っ赤な染みが姿を見せた。
これは紗友里の血だ。
血が溢れ出した彼女の鼻を抑えた時に付着したものだった。
「紗友里ちゃんコレクション、また新しいのが増えたわね」
由利香は赤く染まったハンカチを両手で天井に向かって掲げ、それを眺めながら恍惚とした表情を浮かべる。
そして、ハンカチの血が付いた部分を顔面に押し付けた。
「紗友里ちゃん、紗友里ちゃん、紗友里ちゃん、紗友里ちゃん、紗友里ちゃん、紗友里ちゃん、紗友里ちゃん、紗友里ちゃん、紗友里ちゃん、紗友里ちゃん、紗友里ちゃん!」
スー、ハー、スー、ハー、と息を深く吸っては吐き、ひたすら血の匂いを鼻腔に擦り付ける。
「はぁ、はぁ。紗友里ちゃんの血、いい匂いがするぅぅぅ……」
鉄臭いハンカチを一心不乱に味わう。
今まで経験したことのない快楽が由利香を狂わせる。
それからベッドにダイブし、仰向けになる。
「紗友里ちゃんっ……紗友里ちゃんっ……! んんんっ!」
寝転がりながら、ハンカチの香りを嗅ぎつつ、自らの手で局部を刺激する由利香。
すぐに絶頂を迎え、激しく身悶えるのだった。
「はぁ、はぁ……。まだ足りない。足りないわ。紗友里ちゃんの成分をもっと摂取しなきゃ……」
ベッドから降りてヨロヨロと歩いて向かったのは、クローゼットの前だった。
扉を開くと、中にはおびただしい数の紗友里の写真が貼られていた。
登校する紗友里。下駄箱の前で上履きに履き替える紗友里。教室で席に座りながら窓の外を眺める紗友里。授業中、上の空状態の紗友里。昼休みに一人で弁当を食べる紗友里。食後、机で寝たふりをする紗友里。体操着姿でストレッチをする紗友里。更衣室で着替える紗友里。図書室で本を読む紗友里。一人で下校する紗友里……など。
これらはすべて由利香がスマートフォンで隠し撮りしたものである。
紗友里に気づかれないよう、陰からこっそりとカメラを回し続けてきた。
撮影を始めたのは紗友里と同じクラスになった今年の四月。気づけば毎日、盗撮をしているのだった。
クローゼットの中には小さな洋物のタンスが置かれている。
一番下の引き出しを開けると、水色の女性用下着と黒いストッキング、制服のスカート、上履きがジッパー付きのポリ袋に個別包装の状態で保管されていた。
これらは紗友里が学校で失禁した際に入手したものである。
彼女には汚れた衣類を洗濯してから返すと言って持ち帰ったが、実際に返却したのは由利香が「特別な力」を使って用意したレプリカであった。よって、ここにあるものがオリジナルだ。
「紗友里ちゃん……」
コレクションを眺める。
どれを使って紗友里を味わおうか、と考えながら舌なめずりをしている時だった。
背後に何者かの気配を感じた。
由利香は振り返ると、「来たわね」と呟く。
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