06
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午前の授業は普段よりも集中して受けることができた。やはり、ユリエルさんの存在があるからだろう。いやらしいことを考えていたら彼女にバレてしまうので、私は雑念をかき消すために先生の説明を真面目に聞き、板書の内容をノートに書き留めることに全力を注いだ。
そんな私に配慮してくれたのか、ユリエルさんは授業中に一切話しかけてこなかった。邪魔をしないでほしいとあらかじめ念じていたのだが、彼女はその声をちゃんと聞き入れてくれたようだ。
そして、あっという間に昼休みになった。
私はいつも通り、自分の席でお弁当を食べることにした。
四限目からずっとお腹がペコペコだったので、ランチタイムが待ち遠しかった。
お弁当はお母さんが毎朝作ってくれている。
今日はどんなおかずが入っているだろう。楽しみだなぁ。
カバンから弁当箱を取り出した時、ユリエルさんが数時間もの沈黙を破り、脳内に直接語りかけてきた。
『紗友里さんって、いつも一人でお昼ご飯食べてますよね。お友達はいないのですか?』
痛いところを突かれた。そこは察してほしかった。
……そうだよ。私は一人ぼっちだよ。一緒に食べる友達がいないんだよ。
高校二年生になって一カ月が過ぎたが、未だに私は新しいクラスに馴染むことができていない。というか、一人ぼっちなのは今年に限ったことではない。一年生の時も友達がいなかったのだ。つまり、高校に入学してから、ずっとこの調子である。
『そんなの寂しいじゃないですか。ドンドン作りましょうよ、お友達』
作りたいけど、なかなか自信が持てないんだよね。
私なんて見た目も性格も地味だし、話も全然面白くないし、特に取柄もないから友達になりたいと思う人なんていないよ。
『いいえ、そんなことないです。紗友里さんはとても可愛くて魅力的な女の子ですよ。確かに派手な感じではないですけど、人の価値はそれだけで決まるものではありません』
か、可愛い……? 私が?
彼女はどこを見て言ってるのだろう。可愛いというのは、宮園さんやその友達みたいな人間のことを指すのだ。でも私は彼女たちとは正反対のタイプである。褒められる要素なんてない。
実際、お世辞以外で誰かに「可愛い」と言われたことは今まで一度もなかった。自分でも自分のことを「可愛い」と思ったことなんてない。
無色で空っぽで目立たない存在。私はそういう人間だ。
『謙遜しているだけなのかと思っていましたが、なかなかの重症ですね、これは。こんなに愛くるしいルックスをお持ちなのに、ここまで自分を卑下する人なんて滅多にいませんよ』
愛くるしいルックス?
それって、ユリエルさんの見る目がおかしいだけじゃないのかな? 普通の人とはズレてるんだよ、美的感覚みたいなものが。
『酷い言いようですね。さすがに傷つきます』
だって、そうとしか思えないんだもん。ユリエルさんが変なんだよ。
でも嬉しかった。誰かに褒めてもらえるのは嫌じゃない。
もし、宮園さんも私のことを褒めてくれたら……。
彼女が私を「可愛い」と思ってくれたら……。
『その可能性は大いにあります。あなたのアプローチ次第ですね』
え、ホント? 宮園さんが私に魅力を感じてくれるかもしれないってこと?
『はい。紗友里さんのことを知れば知るほど、彼女は紗友里さんを好きになるでしょう』
ゴクリ、と唾を飲む。
私のことを宮園さんに知ってもらう。まずはそこから始めなくちゃいけないってことなんだね。
『最初の作戦として何をすべきか、もう明白ですよね。そう、宮園由利香さんへのアプローチです。彼女に話しかけてみましょう』
話しかける……。宮園さんに。
いや、それができれば苦労しないよ。
『詳しい内容は放課後の作戦会議で決めましょう。ま、すでに私はとっておきの策を思いついているんですけどね』
ユリエルさんの声は自信に満ちていた。
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