24
感想をお待ちしております。
五年前に家族で来た時もこの店で食事をした。私はデミグラスソースのかかったオムライスを食べたのだが、それがとても美味しかった。是非宮園さんにも食べてほしい。果たして、今もメニューに残っているだろうか。
「いらっしゃいませ。二名様ですね」
まだ昼前なので、店内はそれほど混雑しておらず、いくつか空席があった。
店員さんにテーブル席まで案内された私たちは、そこに置かれていたメニュー表を手に取る。
「半熟ふわとろオムライス(デミグラスソース仕立て)」という品を発見した。料理の写真も載っている。恐らく、これが以前私が食べたものと思われる。
「このオムライスが美味しいんだ。おすすめだよ」
「わかったわ。それにしましょう」
私と宮園さんは二人とも同じメニューを注文することにした。
「他にも頼みましょうよ。フライドポテトとコーンバターも美味しそうだわ」
「二人だけでそんなに食べ切れるかな?」
「私がいれば平気よ」
ああ、そっか。宮園さんは見かけによらず食いしん坊だもんね。
彼女はいつも昼食を重箱に詰めて持ってきているが、ペロリと完食してしまう。
それに比べれば、これから注文する料理は量が少ないだろう。
私はベルを鳴らして店員さんを呼ぶ。
オムライスを二人前、フライドポテトとコーンバターをそれぞれ一皿ずつ注文した。あと、飲み物も。私はメロンソーダで宮園さんはオレンジジュースである。
「少々お待ちください」
店員さんはオーダーを聞き取ると、一礼して去っていった。
「待ち遠しいわね。どんな味かしら」
「きっと宮園さんも気に入ると思うよ」
お嬢様である彼女は普段、庶民向けのレストランには来ることがないのだろう。だから、こういう店で食事をするのは新鮮な感じがするはずだ。
「そういえば、今日はクラスでカラオケ大会があるそうね」
それは中村君が企画した親睦会のことである。
一応私も誘われたが、遊園地のことがあったので返答に迷っていた。すると、宮園さんが現れて上手に断ってくれたのだった。
「宮園さん、本当にカラオケには行かなくてよかったの?」
「ええ。人前で歌うのはあまり好きじゃないの。松浪さんもそうでしょう?」
「私も苦手かな。でも宮園さんが参加するなら自分も参加しようと思ってた」
「なるほど、私次第だったってことね。勝手に松浪さんの分まで欠席にしてしまったけれど」
「おかげで助かったよ。こうして遊園地に来られたんだし」
我慢してカラオケに行くよりも、宮園さんと遊園地で過ごす方がよっぽど楽しい。
私は彼女と遊べるなら、それだけで満足だ。クラスの人たちとも仲良くした方がいいかもしれないけど、友達は宮園さんさえいればいい。
「そうね。私もカラオケより遊園地に興味があったから」
「遊園地自体が初めてって聞いたけど、いつもどこで遊んでいるの?」
素朴な疑問だ。お金持ちの宮園さんがどこで何をして遊ぶのか、庶民の自分には想像もつかない。彼女が友達とカラオケやボウリングに行くとは思えないのだ。
「遊ぶことはないわ。そもそも松浪さん以外に友達がいないもの」
「え? でも、森さんや小島さんと……」
私はこの頃、宮園さんが森さんたちと会話すらしていないことを思い出した。仲良しグループだったはずの彼女たちが、急に関わらないようになった理由を気にしていたのである。
喧嘩でもしたのだろうか。そんなこと考えながら、私は彼女たちの動向に注目していた。
「森さんたちがどうしたの?」
宮園さんはとぼけるような感じで言った。
「ごめん。何でもない」
やっぱり何かあったんだ。彼女たちのことを記憶から消し去りたいと思うくらい、嫌な揉め方をしたのかもしれない。
これ以上は触れないでおくべきだ。宮園さんを傷つけてしまう可能性がある。
「私はずっと一人ぼっちだったわ。松浪さんが友達になってくれて、本当によかった」
「そ、そっかぁ……」
あくまで友達がいなかったと言い張る宮園さん。
このような見え透いた嘘をつくのは、それなりの理由があるからだと考えるべきだろう。
私は苦笑いしながら話を合わせるしかなかった。
「これからたくさん思い出を作りましょうね。私たち二人で……」
宮園さんは私を見つめながら、どこか影を感じさせる笑顔で言った。
彼女もまた、何かしら心の闇を抱えているようだ。
成績優秀でクラスで人気者のお嬢様。
いつも笑顔で明るく振る舞っているけれど、その裏では重圧やしがらみを感じながら生きているのかもしれない。
私は思った。
私が彼女にとってのオアシスになろう。私が彼女を守ってあげよう。
「うん。いっぱい作ろう。二人で」
安心してね、宮園さん。
私はずっとあなたの味方だから。どこにも行ったりしないから。
死ぬまでずっと一緒。いいえ、死んだ後もずっと一緒だよ。
宮園さんは私を必要としてくれている。私だけを友達だと思ってくれている。
クラスで孤立していた私を彼女が救い出してくれたように、今度は私が彼女を救い出す番だ。
彼女は人気者だ。人気者で注目を浴びるがゆえにストレスを感じているのだ。
だったら、私が彼女を「孤立」させてあげればいいんだよね。
そうだよ、宮園さん。宮園さんには私だけがいればいいの。
私以外の友達なんていらないよね。煩わしい人間関係なんて捨てちゃいたいよね。
全部私にぶつけてよ。嫌なことがあったら、私をサンドバッグにしていいんだよ。叩いて、殴って、踏みつけて、汚い言葉で罵って、思い切りぐちゃぐちゃにしてもいいからね。
私はそれが気持ちいいと思っちゃう子だから。
宮園さんのためなら何でもするよ。
私たちはニコニコと笑い合う。
お互いに他人には言えない闇を抱えながら。
お読みいただきありがとうございます。
感想をお待ちしております。




