20
感想をお待ちしております。
「紗友里さん、起きてください。二度寝してる場合じゃないですよ」
ユリエルさんに呼ばれて目を覚ます。
ベッドの上で「アレ」をした後、力が抜けて寝落ちしてしまったらしい。
ホットパンツのボタンとチャックが開いたまま、少し下にズレていた。その隙間から下着が見えている。私は慌ててチャックを閉めた。
枕元の時計を見る。八時半を過ぎていた。
待ち合わせ時間まで残り三十分を切っている。
「た、大変だよぉ! どうしてもっと早く起こしてくれなかったの?!」
「すみません。私もその……用事が長引いてしまって。まさか紗友里さんが寝ちゃってるとは思いませんでした」
ユリエルさんは申し訳なさそうにしているが、悪いのは全部私だ。
ああ、何してるんだろう。絶対に遅刻しちゃいけない日なのに。
急がないと間に合わない。
早起きして余裕があったはずが、こんなギリギリになるなんて。
朝ご飯を食べている暇もない。家から駅までダッシュで十分くらいかかる。
デート前に走って汗をかくのは嫌だ。駐輪代が勿体ないけど、今日は自転車で行こう。
「もう出るよ」
私はベッドから飛び降りる。
「あ、紗友里さん。寝癖が……」
「え、ウソ?! ユリエルさん、直して!」
ドタバタしながら支度をする。
階段を下りて、そのまま玄関に向かう。
いつもの癖でローファーを履きそうになったが、学校へ行くわけではないので、今日はスニーカーを履いていこう。
「いってきまぁーす!」
リビングにいるお母さんに呼びかける。
「さゆちゃん? 朝ご飯はいいの?」
「急いでるからいい!」
「そう。いってらっしゃい」
お腹が空いていないわけではない。少し何か食べておきたかったが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
玄関ドアの近くに停めてある自転車に跨る。これは中学時代に通学用で乗っていたものだ。高校に入学してからは徒歩で学校へ行くようになったので、最近は乗る機会がめっきり少なくなっていた。
ベコンとタイヤが沈む。空気が抜けているみたいだ。これだとペダルを漕いでも思うように進まないだろう。
「んー! どうしてこんな時に~!」
タイヤに空気を入れるポンプを探す。
あれ? どこ? 確かこの辺にあったはずなのに。
焦っている状況で物を探しても視野が狭くなりがちだ。落ち着いて探せば見つかるはずものでさえ見つけることができない。
「ない! ない! どこにもないよぉ」
私は喚き散らした。
「こうなったら駅まで飛びましょう。私に掴まってください」
「飛ぶ? 何言ってるの?」
バサッと天使の翼を大きく広げるユリエルさん。
まさか、それで飛んでいくってこと?
「紗友里さん一人ぐらいなら背負って飛べます。時間がありません。行きましょう」
「む、無理だよ」
「宮園さんを待たせてもいいんですか? デート初日に遅刻なんてイメージ最悪ですよ」
「う……」
空を飛ぶなんて怖すぎる。うっかり落ちたらどうしよう。
けど、宮園さんに嫌われることに比べれば少しも怖くない。彼女のことを思えば、私は空だって飛べるのだ。
「さぁ、乗ってください」
「うん……!」
私はユリエルさんの背中に乗る。
「重くない?」
「軽いので大丈夫ですよ。ではしっかり掴まっててくださいね」
ユリエルさんが翼を羽ばたかせると、ふわりと身体が浮き上がった。
私たちは空高く舞い上がる。
家の屋根や木、電柱が全部下に見える。
こんなに高い位置から街を見下ろすのはもちろん初めてだった。
「駅はあっちだよ」
遠くの方に見える大きな建物を指差して、ユリエルさんに方向を指示する。
「了解です」
彼女は私を乗せて、駅の方面へ舵を切った。
お読みいただきありがとうございます。
感想をお待ちしております。




