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よく晴れた土曜日の朝。宮園家の邸宅では父と母、娘の親子三人が食堂に集い、朝食が並ぶテーブルを囲んでいた。
仲睦まじい家族だったが、こうして一家全員が揃うのは朝食の時間だけである。
日中は仕事や学校があり、夕食を取る時間もバラバラだ。休日も各自予定が入っているため、ほとんど会話できずに終わる日も少なくない。
食堂の入口付近ではメイドの麻衣が控えていた。彼女は調理場から料理を運んだり、空いた食器をテーブルから下げる役割を担っている。
娘の由利香が焦げ目のついた食パンにバターを塗る。その様子を見て、父親の久志が言った。
「何かいいことでもあったのかい? 由利香。随分とご機嫌じゃないか」
「あら、わかりますか? お父様」
「うん。いつもより楽しそうに見えるからね」
由利香は今日という日を迎えた喜びを抑えきることができなかった。どうやら、それが態度に出ていたようだ。
「今日はこれから、お友達と遊園地に行くんです」
クラスメイトで同じ部活の紗友里に誘われたのである。
由利香にとって、生まれて初めての遊園地だった。
「まぁ、それは素敵ですね。楽しんでくるのですよ」
母の奈津子が言った。
由利香の美貌は母親譲りであった。
「遊園地、か……。そういう場所には今まで一度も連れて行ってあげることができなかったね」
久志は表情を曇らせる。
広告代理店を経営する彼は多忙を極めており、平日も休日も関係なく働いていた。そのため、家族でどこかへ出かける機会がなかった。
「お気になさらないでください。お父様はいつも私たち家族のために頑張っていらっしゃるのですから」
由利香が父に不満を抱いたことはなかった。むしろ感謝の気持ちでいっぱいだった。
久志が娘想いの父親であることを十分に理解していたからだ。
これまで何一つ不自由なく育てられてきた。趣味や習い事、進学先もすべて由利香の希望を叶えてくれたのである。
父の愛情を強く感じている。いつかその恩に報いたいと思っていた。
「由利香は本当に優しい子だ。その優しさに私は何度も救われているよ。ありがとう」
表情をほころばせる久志。
「お父様は今日もお仕事ですか? あまりご無理はなさらないでください」
「ああ、わかっているよ。だけどね、今が踏ん張りどころなんだ。いずれ由利香には会社を継いでほしいと考えている。それまでの間に体制をしっかり整えることが私の役目だ」
父の会社を継ぐ。由利香自身もそのつもりでいた。
経営者となり、会社をより大きく成長させる。それが最大の親孝行であると思っている。
「いずれその時が来る。頼んだよ」
「はい、お父様。必ずご期待に応えてみせます」
屈託のない笑顔で由利香は返事をした。
それを見た久志は満足気に頷くのであった。
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