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紗友里が由利香と部室で昼食を取っている頃、部屋の外で待機するユリエルの前に魔法陣が出現した。その魔法陣の中からは悪魔の少女リリィが姿を見せたのだった。
リリィはユリエルの存在に気づくと、ニッコリと笑った。
「あら、ユリエルじゃない。やっぱり今日もここに来てたのね」
ユリエルは憎たらしい笑顔の悪魔を睨む。
その目には怒りが込められていた。
「リリィさん……。あなた、よくもやってくれましたね」
「えー? 何のことぉ?」
とぼけるリリィ。
ユリエルは彼女をますます腹立たしく思うのだった。
「紗友里さんを襲った犯人はあなたですよね? どうして命まで奪う必要があったのですか?」
それは昨晩のことだった。入浴中の紗友里はユリエルが目を離した隙に何者かによって殺害されたのである。
ユリエルは紗友里を蘇生し、彼女を襲撃したのはリリィであるという情報を聞き出した。
被害者本人による証言があるのだ。犯人はリリィで間違いないと確信している。
「あれは事故よ。殺すつもりはなかった」
リリィはあっさりと犯行を認めたが、殺意については否定した。
「人間を死に至らしめるほどの魔力を行使しておきながら、殺すつもりはなかったと言うのは無理があると思います。本当のことを言ってください。あなたの狙いは何です?」
「嘘じゃないわよ。あたしは紗友里が欲しいだけ。だから、魔法で強制的に精神を支配することにしたの。でも、あたしは器用じゃないから力の加減を誤ってしまったのよ」
ユリエルの目を見ながらリリィは答えた。
デタラメを言って誤魔化しているようには見えない。だが、それをすんなりと聞き入れるわけにはいかなかった。
「そんな都合のいい言い訳をどうやって信じろと……」
「別に信じてくれなくてもいいわ。そもそもアンタ、どうやって紗友里を生き返らせたわけ? 今朝も普通に登校してるみたいだけど」
「あなたには関係ありません。紗友里さんをあんな目に遭わせておきながら、よく平然としていられますね。悪魔にとって人間の命はおもちゃに等しいということがよくわかりました」
反省の色すら出さないリリィに憤るユリエル。
紗友里を殺してしまったことについて詫びる気配が一切ないことが許せなかった。
「あたしだって、これでも罪の意識を感じているのよ? 昨日は動揺して眠れなかったんだから」
リリィは自らの過ちを後悔していることをアピールする。
「もう二度と紗友里さんには近づかないでください。彼女を危険な目に遭わせるわけにはいかないので」
「嫌よ。まだあの子が生きてるなら、私は諦めない。必ず手に入れて見せるわ」
「頑固な方ですね。わかりました。そこまで言うなら、紗友里さんのことはあなたにお任せしましょう。ただし……」
ユリエルは全身を流れる「気」を右手に集中させた。
「この私を倒してからの話です」
黄金色に輝く一筋の光を手のひらから放つ。
それは邪悪な魂を焼き尽くす聖なる光だった。
これをまともに食らえば、悪魔は消し炭になる。
リリィと正々堂々と戦ってもユリエルに勝ち目はない。しかし、持てる限りの力を使って奇襲攻撃を仕掛ければ、彼女を倒せるかもしれない。
一か八かの賭けだった。ユリエルは一度きりのチャンスを伺っていた。
今ここでリリィを焼き払う。計画の邪魔になる存在は早めに消すしかない。
光はリリィに直撃した。
不意を突かれた彼女は回避することができなかった。
勝った。
ユリエルは確信する。
「いきなり失礼ね、ユリエル。レディに向かって何てことするのかしら」
「なっ……! どうして?」
リリィはまさかの無傷だった。
綺麗な顔を保ちながら、ニコリと笑っている。
「もしかして、あたしに勝てると思ったの?」
「そんな……。確かに当たったはずなのに」
「ええ、モロに当たったわ。避ける暇なんてなかったし。けどね、眩しいだけで、ちっとも痛くなかったの」
あり得ない。聖なる光に貫かれた悪魔が平気でいられるはずがない。
最大の力を振り絞って放った攻撃がダメージ一つ負わせられないなんて。
「あたしに喧嘩を売るつもり? いい度胸してるわね。そこは褒めてあげる」
目を赤く光らせたリリィがユリエルに歩み寄る。
「こ、来ないで……ください……」
脚が震える。悪魔の放つ凶悪なオーラがユリエルの戦意を喪失させた。
「やっぱり天使も死ぬのは怖い? 生存本能ってものがあるのかしら」
「お願い……します……。ころ、殺さないでください……」
ユリエルは目に涙を浮かべながら命乞いを始めるのだった。
「ふふふ。泣いてる顔もすっごく可愛いわぁ……。最高に素敵よ、ユリエル。あはっ! これからどうやってアンタを調理しようかしら。考えただけで、ゾクゾクしちゃうわ。まずは、手足をノコギリで切断してぇ、目玉をくり抜いてぇ、それから鉄の槍で串刺しにしてぇ、最後は炎で炙っちゃおうかしら♪」
「ひっ……!」
この悪魔は残虐の限りを尽くそうとしている。
鬼畜で外道な趣味である。
「なーんて、冗談よ。あたしがそんなことするわけないじゃない。こんなに可愛い子を死なせるなんて勿体ないでしょ。だから安心して。あたしはアンタを殺したりしないから」
リリィはユリエルの頭を撫でた。
それから涙で濡れた頬にキスをする。
「あああっ……♡」
全身を震わせて絶頂するユリエル。
悪魔のキスによって不思議な魔力を注ぎ込まれてしまったようだ。
「さっきのことは許してあげる。その代わり、アンタもあたしと契約しましょう」
「は、はひ……。契約……します……」
「ふふっ。いい子ねぇ。これからたくさん可愛がってあげる……」
ユリエルはリリィの手に落ちた。
天使が悪魔の奴隷に成り下がったのである。
「もうすぐ紗友里たちが部屋から出てくるわ。そんな顔してたら変に思われるわよ」
リリィは廊下で果てたユリエルを正気に戻す。
腰を抜かしたユリエルは体中から色々な液体を垂れ流し、しばらく動けなくなっていた。
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