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保健室から森さんが出ていき、緊張が解けた私は眠くなってきた。
今の時刻は午前九時二十分。昼休みまで時間があるので、しばらく仮眠を取ろうと思う。これなら体調不良で寝込んでいる生徒を演じることができるし、どうせ起きていてもベッドの中でできることは何もないからね。
「お家のベッドでは、あんなことやこんなこと、一人でしてるじゃないですかぁ」
ユリエルさんが揶揄ってきた。
そうだけど、さすがに誰かが来るかもしれない場所では自重するよ。見つかったら大変だもん。だから、ここでは暴走はしない。
私は一つ欠伸をした。今は眠くて妄想する気力も湧いてこないのだ。
おやすみなさい。十二時になったら起こしてね、ユリエルさん。
「物干し竿の次は目覚まし時計ですか。私はあなたのパシリじゃないんですよ」
それはわかっている。でも、つい頼りたくなってしまう。
引っ込み思案の私が気兼ねなくお願いをすることができる相手はユリエルさんくらいだ。
「紗友里さんが私に気を許してくれているというのなら、悪い気はしませんが」
そうだね。私はユリエルさんのこと好きだよ。
「もう……しょうがないですねぇ」
ユリエルさんは少し嬉しそうな声で言った。
意外とチョロい天使だった。
瞼を閉じる。
いい夢が見られるといいな。そう思いながら、私は眠りに就いた。
◇ ◇ ◇ ◇
「あのね、宮園さん。今週の土曜日なんだけど、私と遊園地に行かない?」
昼休み。友愛部の部室。
お弁当を食べ終えた私は勇気を出して遊園地デートの話を切り出した。
二枚のチケットを机の上に置く。
「まぁ。どうしたの? これ」
宮園さんが問う。
「お母さんからもらったんだ。商店街の福引で当たったみたい」
「すごいわね。でも、一緒に行く相手が私でいいの?」
「うん。宮園さんがよければ、是非」
彼女以外に誘う人はいないし、彼女だからこそ誘ったのだ。
もし断られたら、私がこのチケットを使うことはないだろう。
「じゃあ、ご一緒させていただこうかしら。私、今まで一度も遊園地には行ったことがないの。一体どんな感じなのかしら。とても楽しみだわ」
意外なことに彼女は遊園地は初めてであるらしい。
友達と何度も行っているのかと思っていたが、そうではないようだ。
もしかすると、お金持ちの人はもっと豪華な施設に遊びに出かけているのかもしれない。
ともあれ、無事に遊園地へ行く約束をすることができた。
まずは一安心である。
「遊園地までは最寄り駅からバスが出てるんだ。九時に姫山駅前の時計台で待ち合わせってことでいいかな?」
「ええ。わかったわ」
天気予報によると土曜日は晴れるらしい。絶好のデート日和になりそうだ。
当日の服装は昨日ユリエルさんと相談して決めた白いシャツとホットパンツである。
宮園さんはどんな格好で来るのかな?
私はすでに興奮している。これが宮園さんとの初デートだ。絶対に成功させたいと思う。
「遊園地に行くなら、観覧車に乗ってみたいわね。あとジェットコースターも外せないわ。映像を見たことがあるのだけど、乗っている人たちは叫び声を上げていて、とても楽しんでいる様子だったわ。だから、前から気になっていたのよ」
「うん。そうだね。私も乗りたいと思ってたんだ」
ユリエルさんから観覧車とジェットコースターには必ず乗るように言われている。その理由は聞かされていないけど、何か意味があるに違いない。これも作戦のうちだろう。
宮園さんも興味を示しているので好都合だ。スムーズに実行に移すことができそうである。
「ありがとう、松浪さん。私を誘ってくれて」
「ううん、こちらこそ」
彼女と遊園地へ行けることになり、私は飛び跳ねたくなるくらい嬉しかった。
「二人だけ、なのよね?」
「そうだよ」
「つまり、デートってことね」
「え……」
宮園さんの口からそのような言葉が出てくるなんて思いもしなかった。
私一人が勝手にデートだと思い込んで舞い上がっているだけだと思っていた。
「私と松浪さんのデート、素敵な思い出にしましょうね」
「デートって、そんな……」
私は思わずニヤニヤとしてしまう。
これは彼女なりのジョークなのだろうか。
「私は本気で言っているのよ」
「本気?」
「松浪さんとデートがしたいの」
「あ、あはは……。いきなりどうしたの? 何か変だよ、宮園さん」
「変なのはわかってる。でもね、自分の気持ちは誤魔化せないものなのよ」
宮園さんはどこか悲し気な表情を浮かべながら、私を見つめていた。
「許された時間を悔いなく過ごしたい。だから、松浪さんには悪いけど、妥協は一切しないから」
そう言って、彼女は私にキスをしてきた。
私は驚きつつも、黙ってそれを受け入れる。
これは夢もしくは妄想だろう。
現実の宮園さんが私にキスなんてしてくるわけがない。
「ごめんなさい。また我慢できなくなってしまったみたい」
宮園さんは私を強く抱きしめる。彼女の体温が私に伝わる。
それは夢にしてはやけに生々しい感触だった。
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