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パッチリとした目で私を見つめる森さん。
何か言いたそうな顔をしているが、無言を貫いている。
すごく気まずい。この空気を早くどうにかしないと。
「あの……」
私はか細い声で森さんに呼びかけた。
すると、彼女は仕切りのカーテンを閉めて、私が寝ているベッドに潜りこんできた。
「えっ? えええ?」
「私も体調不良だから」
理解が追い付かない。
体調不良なのはわかったけど、どうして同じベッドで寝る必要が? 隣のベッドが空いているのに。
「もうちょっと横にズレて。狭い」
一人用のベッドなのだから、二人で寝たら狭いのは当然である。
と思いつつも、小心者の私は森さんの勢いに押されて右方向へ移動するのだった。
あのオシャレでイケてる女子の森さんがすぐ近くにいる。
間近で見るのは初めてだけど、やっぱり綺麗だった。
彼女からは香水の匂いが漂ってくる。甘い香りだ。
「あのさ」
「は、はい……」
今まで一度も話したことがない人とベッドで寝ながら会話をすることになった。
異様な緊張感に襲われる。
何これ? どういう状況なの?
「松浪さんってさ、友達いるの?」
いきなりの質問だった。
どのような意図があって、彼女はそんなことを尋ねてきたのだろうか。
「い、いますけど……」
宮園さんのことを思い浮かべながら私は答えた。
「一応いるんだ。ま、そうよね。友達が一人もいない人なんて存在するわけないもんね」
森さんは保健室の天井を見ながら言った。
友達がいない人はいない、か。
それがいるんだよね……。実は私、この前まで友達ゼロでした。
もし宮園さんに声をかけてもらっていなければ、今もぼっちだったはずだ。
ややこしくなりそうなので、そのことは黙っておこう。
「じゃあ彼氏は?」
「いません……」
今まで男の子とは縁のない生活を送ってきた。小中高とずっと共学なのに。
「だと思った。男っ気とか全然なさそうだし」
森さんの目に自分がどんな風に映っているのかわからないが、見た目が地味だから彼氏はいないと判断されたに違いない。
対する森さんは、可愛くて男の子たちからモテモテだ。恐らく今も付き合っている人がいるのだろう。私とは生きている次元が違う。
「でも、モテるでしょ?」
「いえ……」
「そうなの? 可愛いのにね」
可愛いと言われたのは何度目だろうか。ここ最近多い気がする。
お世辞なのか本音なのか、森さんの発言はどっちなんだろう。
「別に私は可愛くなんか……」
「はぁー、勿体ない。ホント勿体ない。宝の持ち腐れね。素材はいいのに、なんでもっと自分をアピールしないのか不思議だったのよね」
そう言って森さんは私の方へ身体を向けた。
両手で私の顔を掴み、無理矢理首を左へ回転させる。私たちは目が合った。
顔が近い。綺麗な人と見つめ合うのはドキドキする。
キラキラとした瞳がそこにある。長いまつ毛とカラーコンタクトがアクセントになっていた。
「私が松浪さんをオシャレな女子にしてあげる。だから、ぶりっ子は卒業して、いつも堂々としてなさい」
「ぶりっ子……」
私、そんな風に思われてたんだ……。
これは誤解である。私はただ、引っ込み思案なだけだ。人と話すのが苦手なのだ。
「元から可愛いんだし、可愛い子ぶる必要なんてないじゃん。あとはメイクとファッションさえ磨けば男子からモテモテ間違いなし。私を信じてついてきて。弟子にしてあげる」
自信に満ちた表情で森さんは言った。
やけに張り切っている様子だけど、モテたいという気持ちはない。男子から注目を浴びたいとも思わない。
宮園さんが私を好きになってくれればいい。私が欲しいのは彼女の愛だけだ。
「ごめんなさい。私はいいです」
「えー、どうしてよ?」
「モテたいとは思っていないので……」
正直に伝える。
申し訳ないが、森さんのテンションに合わせることはできない。
彼女のセンスなら地味な私をオシャレな女の子に変えることができるのかもしれない。けれど、当の私はギャルの世界に関心がないのだ。
「意味わかんないんだけど。それでも女子なの? 可愛くて、キラキラで、オシャレな自分になりたくないの?」
憤慨する森さん。どうしても私を仲間に引き込みたいようだ。
私のことはいいから、他の子を磨いてあげればいいんじゃないかな?
「私は大丈夫です……」
「うがー! マジでムカつくぅー! 私のどこがいけないのよぉぉぉ」
森さんが悪いわけではない。私が目指すものと彼女の理想がマッチしていないだけだ。
「松浪さんのバカ! もう知らないもん!」
暴言を吐きながら森さんはベッドを降りた。
上靴を履き、そのまま保健室から出ていくのだった。
「今のは何だったのかな?」
私はユリエルさんに尋ねた。
「彼女は紗友里さんとお友達になりたかったのかもしれません」
「友達……」
全然気づかなかった。
素直にそう言ってくれればよかったのに。
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