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和式便器は使いたくないので、それを避けて洋式便器の個室に猛ダッシュで入り、扉を閉める。
切羽詰まっていて鍵をかける余裕はなかった。でも、今は授業中でトイレには私以外に誰もいないので問題ないだろう。
膝の辺りまで下着を下ろし、急いで便座に腰掛けた。
「はぁぁぁぁ……。危なかったぁ」
もう少しで完全に決壊するところだったが、どうにかに間に合った。
あのまま教室にいたら、今頃大変なことになっていただろう。
高校生活が終了せずに済んでよかった。
「ふぅ……」
用を足し終えると、身体が一気に軽くなった気がした。
ホームルーム前に中村くんから話しかけられて困っていた時に続いて、宮園さんはまたしても私をピンチから救ってくれた。
昨日は私が粗相をした時、メイドの小田原さんに連絡して着替えを手配してくれたのだった。
彼女には助けられてばかりである。感謝してもしきれない。
「お待たせ……」
私は洗った手をハンカチで拭きながら宮園さんのところへ戻った。
彼女はトイレ前の廊下で私を待ってくれていた。
「大丈夫だった?」
「うん。ホントありがとう。とっくに限界だったんだけど、なかなか先生に言えなくて……」
「仕方ないわ。とても言い出せる雰囲気ではなかったものね。今日の福田先生、いつもよりピリピリしていらっしゃるみたいだし」
先生をピリつかせてしまったのは私が原因だろう。朝のホームルームで号令が遅くなったり、挨拶の声が小さかったせいで余計に時間が遅れたのだ。
「じゃあ、保健室に行きましょう」
「体調の方は問題ないよ?」
「先生には保健室へ行くと伝えたでしょう。それなのに、すぐに松浪さんが戻ってきたら不自然だわ」
「あー、そういえばそうだね」
嘘を通すには、辻褄を合わせる必要がある。
よって、今の私は保健室で休んでいることにしなくてはいけないのだ。
とはいえ、体調不良でもないのに授業を受けずに保健室で寝るのは、ズル休みをしているような気分になる。
ただでさえ授業についていけてないのに、これ以上サボったら挽回するのは難しい。
「勉強のことは心配しないで。放課後、私がちゃんと教えるから。あと、日直の仕事も代わりにやっておくわね」
「いいの?」
「ええ。いいに決まってるじゃない。松浪さんのためだもの」
そう言って宮園さんは私を安心させようとする。
彼女はなぜ、こんなに優しいのだろうか。私のために色んなことをしてくれるのだ。
どんなお願いでも聞いてくれるかもしれない。ならば、遊園地デートの件も……。
いや、今はまだやめておこう。これは廊下を歩きながらするような話ではない。チケットも教室に置いたままだし。誘うのは当初の計画通り昼休みになってからだ。
保健室の前までやって来た。
宮園さんがドアをノックするも返事はない。
「失礼します」
私たちは部屋の中へ入る。
保健の先生はいなかった。今は席を外しているみたいだ。
「こういう時は勝手にベッドを使ってもいいみたいよ。とりあえず、ここで寝てて」
ベッドの前まで宮園さんに誘導される。
私はブレザーを脱いでハンガーにかけ、上履きを脱いでからベッドで横になった。
宮園さんが仕切り用のカーテンを閉める。これでまわりから私たちの姿は見えなくなった。
カーテンの内側で宮園さんと二人。しかもベッドの上。
これが漫画だったら、この後エッチな展開に……。
またしても私は変なことを考え始めていた。
宮園さんは私の頭を優しく撫でながら「お大事にね」と言った。私は別に病気ではないけれど。
「いつまでここにいればいいのかな?」
ずっと仮病を使って寝ているのはマズい。罪悪感に襲われて落ち着かない。
「そうね。じゃあ、四限目までにしておきましょう。午後は教室に戻って授業を受けてね」
昼休みまでは寝ていろということらしい。
ちょっと長すぎる気もするけど、まぁいいや。授業の内容は宮園さんが教えてくれるみたいだから。もしかしたら、普通に先生の説明を聞いているよりも、宮園さんの解説を聞いた方がよく理解できるのではないだろうか。
「それじゃ、またね」
宮園さんは私を残して保健室を去ることになった。
あ、行っちゃうんだ……。
ドキドキするシチュエーションだったけど、期待していたことは何も起こらなかった。
そりゃそうだよね……。漫画みたいな展開が現実で起こるはずないし。
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