03
感想をお待ちしております。
「こっちの白いTシャツがいいかもしれません」
ユリエルさんが白い無地の半袖Tシャツを勧めてくる。
私は上のパジャマを脱ぎ始める。ボタンを一つずつ外していくが、誰かに見られながら着替えるのは恥ずかしかった。
「あっち向いててくれないかな?」
「仕方ないですね」
回れ右をして私に背中を向けるユリエルさん。
意外にも彼女はすんなりと言うことを聞いてくれた。
お風呂や着替えなどで服を脱ぐ時はいつもそうしてもらえると助かる。
「着たよ」
こっちを向いてもいいと合図する。
ユリエルさんは振り向くと、私の姿を見て「あ~」と納得した様子で言った。
「いいんじゃないですか。シンプルですが、とても似合っています」
「宮園さんも褒めてくれるかな?」
「ええ、きっと」
「じゃあ、これでいこう」
「いえ、決めるのはまだ早いです。他にも服はありますから」
その後も私は色んなシャツを着てユリエルさんに見てもらった。
しかし、最終的には一番初めに着た白いシャツに決まった。
私らしさを引き立たせるには、やはりシンプルなファッションがいいとユリエルさんは言った。他に決定打になり得る要素が見つからず、消去法で選ぶことになったのである。
「これで服装もオッケーですね。遊園地デートの準備は完了です。お疲れのようですし、今日はもう寝ましょう」
時計を見ると、九時を過ぎたところだった。
いつも十一時くらいまで起きているので、この時間に寝るのは少し早いと感じる。
「まだ眠くない」
「そうですか。では、眠くなるまで何かしましょうか」
「漫画でも読もうかな。ユリエルさんも読みたいでしょ? ガールズラブのヤツ」
「いいんですか!」
ぱあぁっと嬉しそうな顔をするユリエルさん。
「本棚にある漫画、好きなの読んでいいよ」
「ありがとうございますっ!」
彼女は前に私の記憶を通して漫画の内容を確認したらしいが、把握しているのはあくまで一部の作品のみであった。まだ読んでいないものが残っているのだという。
「では、これにしますね」
「あっ……」
棚からユリエルさんが抜き取ったのは、「すごくエッチなやつ」だった。
これはさすがに他の場所に隠しておいた方がよかったかもしれない。
「どうかされましたか?」
「ううん。何でも」
好きなものを読んでいいと言ってしまったので、今さら止めるわけにもいかない。
でも、きっとユリエルさんは「こんな破廉恥なものを読んでいたんですねぇ」と私のことを揶揄ってくるだろう。
ペラペラとページをめくり、漫画を読み進めるユリエルさん。
私は漫画を読むフリをしながら彼女の方を流し見する。
すると、次第に彼女はニヤニヤと笑みを浮かべ始めた。
「紗友里さん」
最後まで読み終えると、ユリエルさんは落ち着いた声で私の名を呼んだ。
「はい……」
今から彼女に何を言われるのだろうか。
私はすごく馬鹿にされるものだと覚悟していた。
「いいですね、これ」
「……あ、うん。ユリエルさんも気に入ったの?」
「ええ、とても。胸が熱くなりました」
返ってきたのは称賛であった。
「紗友里さんの趣味は本当に素晴らしいところを突いてきますね」
感激したユリエルさんが私に握手を求めてくる。
私は思わず握手に応じて彼女の手を握り返した。
「このシーンなんて、めちゃくちゃドキドキするじゃないですか。実際に真似してみたいと思いませんか?」
主人公の女子高生が同級生の女の子に校舎裏で制服を脱がされるページを見せつけてくるユリエルさん。
「真似するって言われても……。できるわけないよ、相手がいないんだし」
「宮園さんが相手だったら最高ですよねぇ」
「……!」
宮園さんと私が……?
イメージしてみる。
校舎裏、誰も来ないかハラハラドキドキする状況で宮園さんに制服を脱がされる私。
『だ、駄目だよ宮園さん……。こんなところで。誰か来ちゃうよ』
『じゃあ、やめる?』
『やめ……ないで』
見つかったらおしまいだ。
だからこそ、興奮が止まらない。
『ほら、もうこんなになってるじゃない』
『あっ……』
妄想が捗る。
私は一気にいやらしい気分になった。
「どうです?」
「うん……。いい、かも……」
って、私は何を言ってるんだろう。
そんなこと正直に答えなくていいのに。
「なら、やりましょう」
「やるって……?」
「宮園さんと漫画のシーンを再現するんですよ」
「な、何言ってるの?」
「私は見たいです。紗友里さんと宮園さんがこれと同じことをしている光景を!」
またユリエルさんが私利私欲で突っ走ろうとしている。
彼女の思惑通りに私が動くと思っていたら大間違いである。
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