02
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お風呂を出た私はパジャマを着てドライヤーで髪を乾かすと、階段を昇って二階の自室に戻った。
部屋に入るなり、勢いよくベッドに倒れ込む。
枕に顔を埋めながら、両足をジタバタさせた。
「はぁぁぁぁ~」
うつ伏せになったまま、大きなため息を吐く。
このやり場のない気持ちをどうすればいいのだろうか。
「今日のこと、まだ気にしているのですか?」
ユリエルさんが問いかけてくる。
「だって……だってぇ……」
私は泣きたい気分だった。恥ずかしい記憶がフラッシュバックして、胸をキュッと締め付けるのだ。
忘れたくても忘れることはできない。気にするなと言われても無理なものは無理である。
「スカートと下着と上履き、全部宮園さんが持って帰っちゃった……。あんな汚くて恥ずかしいもの、宮園さんだけには触ってほしくなかったよぉ」
「辛い出来事だったとは思いますが、彼女の紗友里さんに対する好感度は下がっていないはずなので、心配しなくて大丈夫ですよ」
ユリエルさんはベッドに腰を下ろすと、私の頭を撫でてきた。
「どうしてそう言えるの?」
私は顔を上げて彼女の方を見ながら言った。
「あの時、彼女は不快に感じている様子ではありませんでしたから。むしろ、嬉しそうな顔をしているように見えました」
嬉しい? そんなことあるはずないよ。
他人の汚れた衣類を喜んで持って帰る人なんているわけないもん。
「それがそうでもないんですよ。世の中にはですね、紗友里さんの想像を絶する変態がいるのです」
「どういう意味?」
「さて、どういう意味でしょうね。この話は紗友里さんにはまだ早いかもしれません」
「何でもいいけど、宮園さんは変態じゃないからね」
「ふふふ。果たしてそうでしょうか。もしも、彼女がとんでもない変態だったらどうします?」
それは絶対にない。彼女はいつだって清純だ。
私みたいに卑猥なことを考える人ではない。
「宮園さんのことを悪く言わないで。次言ったら怒るよ?」
「わかりました。言いません」
ユリエルさんはニッコリと笑いながら言った。
何だか怪しい。また軽口を叩きそうな感じがするのは気のせいだろうか。
「それはさておき、今から遊園地デートについて作戦を立てましょう。お二人の記念すべき初デートですね」
「初デート……」
緊張感のある響きだ。
私と宮園さんのこれからを左右する大きなイベントである。
宮園さんと二人でお出かけ。
学校の外で彼女と会うのはこれが初めてとなる。
私服姿の彼女を見たことは一度もない。
当日はどんな格好で現れるのか、とても気になる。きっと可愛くて素敵な服なのだろう。
「デートに誘うタイミングですが、明日の昼休みはいかがでしょう?」
「わかった。頑張ってみる」
私はテーブルの上に置かれた遊園地の入場券を見つめている。
この二枚のチケットが私と宮園さんを結びつける運命の糸になるかもしれないのだ。
それにしても、ちょうどいいタイミングで福引が行われていたものである。
引き当てたお母さんもナイスだ。
まるで時の運が私の恋を後押ししてくれているように思えた。
「お母様がペアチケットを当てたのは偶然ではありません。これは私が仕組んだことなのです」
「ユリエルさんが?」
「はい。お二人の距離を縮めるには遊園地が最適かと思いましたので、天使の力をちょちょいと使っちゃいました」
そんなことしてもいいの?
天使の世界にもルールというものがあるはずじゃ……。
「まぁ、バレなければいいんですよ」
「バレちゃいけないことなんだね……」
身勝手な話である。
後で彼女が偉い人に怒られることになっても私は知らないからね。
「心配いりません。バレそうになっても、いくらでも誤魔化せますから」
ユリエルさんは親指を立てながら言った。
要領はいいけど、モラルや倫理観が欠けている天使だなぁと私は思った。
「チケットの有効期限はまだまだ先ですけど、鉄は熱いうちに打てと言います。宮園さんの都合が良ければ、今週末にでも行っちゃいましょう」
私も早い方がいいと思っていた。
今週の土曜日で提案したいと思う。土曜日がダメなら日曜日だ。
「紗友里さんって、高い所は平気ですか?」
「うん。大丈夫だよ?」
高所恐怖症ではないので、特に苦手意識はない。
「ジェットコースターにも乗れますか?」
「何度か乗ったことあるよ」
身長制限さえクリアできれば、どんなジェットコースターでも問題ないと思う。
「ふむふむ。では、観覧車とジェットコースターには必ず乗ってくださいね」
「いいけど、どうして?」
「それは当日になってからのお楽しみです」
ユリエルさんは得意気な顔で言った。
彼女のことだ。とっておきの作戦を思いついたのだろう。
「次はデートに着ていく服を決めましょう。とりあえずヒラヒラしているミニスカートは禁止です。風でスカートがめくれないか気にしちゃうでしょう? それだとデートに集中できませんからね」
ユリエルさんは私の性格をよく理解している。
私は一つのことを気にすると、他のことが見えなくなってしまうタイプなのだ。
せっかくのデートを楽しめないのは勿体ない。
余計な心配事は最初から作らないようにしておいた方がいい。
色々なアトラクションに乗るので、なるべく動きやすい服装を選ぶべきだろう。
「これとかどうかな?」
私はタンスからデニムのショートパンツを取り出した。
最近買ったばかりのものだった。これからの季節にピッタリだと思う。
「そうですね。ちょっと履いてみてください」
「うん」
この場で履くように言われたので、私はパジャマのズボンを脱いだ。
「あぁ~、いいですね!」
ユリエルさんが興奮気味に言った。
「まだ履いてないのに?」
「いえ、ファッションのことではありません。私が褒めているのは、紗友里さんの生足です!」
「そんなところジロジロ見ないでよ」
「特にこの太もも! 白くて細い。そして柔らかい! 見た目も触り心地も抜群ですねぇ」
ユリエルさんは私の右太ももにしがみついて、頬をスリスリするのだった。
「もぉー、何するの! ユリエルさんの変態っ!」
私は彼女を引き剝がした。
驚きと恥ずかしさで身体がカッと熱くなるのを感じた。
「変態? 紗友里さんほどではありませんよ」
「そういう話じゃないよ! いきなり変なことしないで。ビックリしたじゃない」
「すみません。あまりにも綺麗だったので、つい……」
普通にセクハラだ。たとえ女の子同士であっても、相手が天使だったとしても、セクハラはセクハラである。
私にこういうことをしてもいいのは宮園さんだけなんだからね。
下着が丸見えなのは恥ずかしいので、私はさっさとショートパンツを履いた。
「どうかな?」
「控えめに言って最高です。生足万歳ですね」
「ユリエルさんの好みを聞いてるわけじゃないんだけど……」
「いえ、きっと宮園さんも喜びますよ。メロメロになること間違いなしです」
「ホントに……?」
半信半疑ではあるが、ユリエルさんがこれでいいと言っているので、彼女に従うことにしよう。他に何も思いつかないし。
「あとは上の服ですね。デニムのパンツに合うものを選びましょう」
複数のシャツを引っ張り出す。
どれが一番いいか、じっくり考えて決めよう。
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