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廊下で待つこと約五分。着替えを済ませた紗友里と由利香が部屋から出てきた。
「お待たせ。終わったわよ、麻衣さん」
由利香は大きく膨らんだビニール袋と小さな黒い袋を手に提げていた。
大きい袋の中には濡れてしまった紗友里のスカートや下着が入っているものと思われる。袋の口はしっかりと結んであった。
黒い袋には濡れた体を拭くために使用したティッシュペーパーか何かが入っているのだろう。こちらも口は固く結ばれた状態である。
由利香はこれらをすべて持って帰るつもりのようだ。衣類はともかく、ゴミは教室のゴミ箱にでも捨てておけばいいはずなのだが、自分で出したゴミは自分で始末するべきだと考えているのだろう。さすがは宮園家の令嬢だ。礼儀やマナーへの意識が高い。
「あの……すみませんでした。着替えを用意していただいて、ありがとうございます」
おどおどした様子で赤いジャージ姿の紗友里が言った。
彼女は麻衣に向ってペコリと頭を下げる。
麻衣は紗友里を見て、純粋で大人しそうな子だという印象を受けた。
こげ茶色のセミロングヘアをした小柄な少女。素朴でとても可愛らしい見た目をしている。
「初めまして。小田原麻衣と申します。いつも由利香様がお世話になっております」
「い、いえ……。こちらこそ宮園さんに仲良くしてもらえて嬉しいです。あ、私は松浪紗友里といいます」
「今後とも由利香様のことをよろしくお願いいたします、松浪様」
麻衣は深々とお辞儀をした。
主人の大切な友人だ。これからも二人には良好な関係を保っていてほしい。
「今日はお家まで送るわ。学校の前に車が停まってるから、松浪さんも乗って」
「え、でも……」
「もう外もすっかり暗くなったことだし、一人で歩いて帰るのは危険だと思うわよ。松浪さんは可愛いから、変な人に誘拐とかされないか心配なの」
「かっ、か、可愛い……?」
顔を赤らめる紗友里。
両手で顔を覆い、恥ずかしそうに俯いた。
何だこの可愛い反応は……。
麻衣は紗友里を見て、とある危機感を覚えた。
これは反則だ。あまりにも可愛すぎる。
あざとさを感じさせない天然な仕草。小動物のような愛くるしさと澄んだ瞳。
彼女に惹きつけられない者などいないだろう。
非常に心配である。由利香は紗友里に夢中になってしまうのではないか。いや、すでに夢中になっている可能性もある。ひょっとすると手遅れかもしれない。
まだ間に合うなら、今ここで正気に戻すしかない。
まずは由利香の状態を確認する。
特に異常はなさそうだった。いつもと変わった様子はない。
それでも油断はできない。要注意人物として紗友里をマークするべきだ。この先、由利香が変な気でも起こしたら大変である。
「松浪様。どうぞ遠慮なさらず、お乗りください」
麻衣の方からも乗車を勧める。
早速、車の中で紗友里の様子を観察しようと考えたからだ。
「は、はい……。じゃあ、お願いします」
断り切れなかった紗友里は、大人しく宮園家の送迎車に乗ることにした。
「松浪さんのお家はどの辺りなのかしら?」
「えっと、学校のすぐ近くだよ」
紗友里と由利香が廊下を歩き始める。
麻衣は後方から二人の様子をジッと見つめながら、彼女たちをゆっくりと追うのだった。
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