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百合×百合オペレーション  作者: 平井淳
第一章:ドキドキ放課後勉強会作戦

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感想をお待ちしております。

 放課後、宮園さんと再び旧校舎を訪れた。

 私たちはこれから友愛部の部室で勉強会を行うことになっている。


 部室に入る直前、ユリエルさんが脳内に語りかけてきた。


『私はここで待機していますから、何か異変を感じたら宮園さんを連れてすぐに部屋から出てきてくださいね』


 彼女はこれより先に進むことができない。同時に私との意思疎通もできなくなる。

 部屋の中で何が起こっても、私は自分だけで対処しなくちゃいけない。


 不安な気持ちもある。しかし、この機会を逃すわけにはいかなかった。


 ユリエルさんが「お気をつけて」と言う。

 それに対して私は「ありがとう」と心の中で呟いた。

 

 扉を開けて室内に踏み入る。

 その直後、宮園さんによって扉はピシャリと閉められた。


 部屋の入口には結界が張られているらしいのだが、見えない何かに入室を拒まれるような感覚はなかった。私と宮園さんは普通に中へ入ることができたのだった。


 それにしても、相変わらず薄暗くて殺風景な教室である。

 お化けが出ても不思議ではない。旧校舎にある教室で女子生徒が自殺したという噂があるけど、それがここだという可能性もないとは言えない。


 そんな場所で一人で過ごすのは心細い。けど、宮園さんがいれば怖くなかった。

 彼女と一緒なら、私はあの世へ逝くことになっても平気なのだ。


 宮園さんがスイッチを押して電気を点ける。

 蛍光灯が部屋全体を白く照らした。かなり古い教室だけど、照明は問題なさそうだ。


 床にカバンを置いて席に着く私と宮園さん。


 お昼を食べた時と同じく、私が右側で彼女が左側の席に座った。きっと、これが今後も定位置になるのだろう。


「数学と英語だったかしら。どっちからする?」

「えっと。じゃあ、英語から……」


 順番はどちらでもよかったが、一番苦手な科目を先に選ぶことにした。


 英語の教科書とノートを机の上に置く。


 宮園さんが「どこがわからないの?」と尋ねてくる。

 私は「全部」と答えた。


 範囲を絞り込めなくて申し訳ないが、本当に全部わからないのだからしょうがない。


 「なるほど」と宮園さんは言って、右手を顎に当てる。

 それから、こう提案した。


「文法の復習をしましょう。一年生で習ったところから順番にね」


 それがいい、と私は思った。


 そもそも基本的な部分を理解してしないから、満足に英文の読み書きができず、テストで点数が取れないのだ。


 まずは基礎固めが必要だ。一からやり直すべきだといえる。


「be動詞は大丈夫?」


 大丈夫かと問われると自信がない。

 何を以って大丈夫と判断すればいいのかわからないものだ。


 さすがにbe動詞の使い分けくらいはできるはずだけど、完璧を名乗れるほどのレベルではないと思う。

 ここは見栄を張らずに素直に教えを乞うことにしよう。


「大丈夫じゃないかも。解説をお願いします……」


 私は彼女に向ってゆっくり頭を下げた。


「いいわよ。ちゃんと理解できるまで、じっくり説明するわね」

「ごめんね。ホントに最初の最初からダメダメで……」

「気にしなくていいわ。時間はたっぷりあるのだから。それに、松浪さんに頼ってもらえて私も嬉しいの」


 迷惑をかけていると思っていた。だが、宮園さんは迷惑だと感じていないらしい。

 彼女は私から頼りにされるのが嬉しいと言った。


 宮園さんがちゃんと向き合ってくれて私も嬉しかった。お近づきになることさえ憚られる存在だった彼女が、こうして私のために放課後の時間を割いてくれている。


 これほど幸せな場面が自分の高校生活に訪れるなんて想像もしていなかった。


「遠慮せずに言ってね。私、何でもするから」

「う、うん……」


 グイッと私に顔を近づけながら宮園さんが言った。

 近すぎる距離に戸惑う私だったが、改めてこうして彼女の顔を見ると、綺麗だなぁとため息が出そうになる。


 今、すごくドキドキしている。これから勉強を教えてもらうところなのに、緊張と嬉しさで平常心を保っていられないよ……。


「ごめん。その前にちょっとトイレ行ってくるねっ……」


 席を立つ私。

 逃げ出すつもりはない。だけど、少しだけ時間がほしい。

 気持ちを整えてから出直したかった。


 廊下にはユリエルさんがいる。いきなり出てきたら、やっぱり何かあったのかと心配されるかもしれないけど、問題はないと伝えよう。


「ダメ」

「え……?」


 宮園さんが私の手首を掴んできた。

 そこそこ強い力で。


「行っちゃダメ」


 彼女はジッと私の目を見ている。


 どうして放してくれないのだろう。

 私はちゃんと戻ってくるよ? 勉強が嫌だから逃げるわけじゃないよ?


「下校時間になるまで部室から出るのは禁止よ。それが友愛部のルールなの」


 そんなルール聞いてない。


「トイレに行きたい時はどうするの?」

「ここでしちゃえばいいのよ。後ろの掃除用具入れにバケツがあるわ」

「え、えぇ? それは無理だよぉ」

「大丈夫よ。私は気にしないから」


 そういう問題じゃない。

 普通に恥ずかしいし、私が困るのだ。


「でも……」

「さぁ、もう一度席に座って。勉強会を始めるわよ」


 私は彼女に引き戻され、椅子に腰かける。


「トイレ我慢できそう?」

「今のところは……」

「じゃあ、我慢できなかったらお仕置きね。ふふ」  


 宮園さんは意地悪そうな顔で笑った。

 

 私はそれを見てゾクゾクするのだった。

 まるで私が普段している妄想に出てくる宮園さんみたいだったから。


 ドM心をくすぐる表情だ。


 むしろ、私はお仕置きしてほしいくらいだ。彼女に色んなイタズラをされてみたい。

 今ここで滅茶苦茶にされたい。


 そんな思いが胸の奥にじわじわと湧いてくるのだった。

お読みいただきありがとうございます。

感想をお待ちしております。

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