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起立、礼、着席。
号令が終わるとすぐに授業が始まった。
五限目は英語だった。担任の福田先生が受け持つ教科である。
私は数学と英語が苦手なので、今日の放課後はその二科目を宮園さんに教えてもらうつもりだ。
英語の苦手っぷりは特に酷い。テストは毎回赤点ギリギリ。
授業中に先生の話をしっかり聞いていれば、もう少し良い点が取れるのかもしれないけど、煩悩にまみれた私はなかなか勉強に集中することができない。
普段、私は授業が始まると教科書とノートを開いてペンを握ったまま、いやらしいことを想像してしまう。
二年生になってからは、宮園さんと色々なことをしちゃう妄想が中心だった。
妄想の世界に登場する彼女は、とてもサディスティックで女王様の気質がある。
対する私はその女王様に飼われる犬で、鎖の付いた首輪を嵌めている。
女王様から躾という名のご褒美をたくさんもらい、犬の私は大いに悦ぶのだった。
言うまでもなく私はドMだ。縛られたり、叩かれたり、言葉攻めを受けたりすることに快感を覚える。
どうしてそうなったのかはわからない。気づいた時には手遅れだった。
制服姿のまま縄で両手や全身を縛られ、身動きが取れなくなった私に宮園さんがイタズラをするという妄想で興奮することもある。
また、宮園さんから「変態ね」とか「いやらしい子」などと蔑むような感じで言われる妄想も好きだ。
昨日ユリエルさんに変態呼ばわりされた時はムッとしたけれど、宮園さんになら何と呼ばれてもいい。もっと棘のある言葉で罵ってほしいくらいだ。でも、私のボキャブラリーが乏しいためか、妄想の中で宮園さんが吐くセリフは単調なものばかりだった。もっと国語の勉強もした方がいいかも。
さて、今日はこれからどんな妄想をしようかな。
『あのう、紗友里さん? お楽しみのところすみません。聞こえてますか?』
うっ! すっかり油断してた。
昼休みの間ずっと話しかけてこなかったから、ユリエルさんに心の声がダダ洩れになっていることを忘れていた。
……ど、どうしたのかな? 私に何の用?
『あ、はい。さっきお二人が昼休みに過ごされた旧校舎の部室ですが、あそこはかなり危険です。何か不思議な力がはたらいているようです』
ユリエルさんが警告する。
友愛部の部室。
私はそこで彼女に「好き」と言われ、ハグとキスをされるという白昼夢を見た。
また、いつの間にか私は宮園さんの膝を枕にして眠ってしまっていた。
お弁当を食べ終えた後の記憶が途切れるなど、不思議な出来事がいくつか起こった場所である。
やっぱりあの部屋には何かあるのかもしれない。
『実はですね、私は部屋の中に入ることができなかったのです。入口に強力な結界が張られていて、外にはじき返されてしまいました』
私と宮園さんは普通に出入りすることができた。特に抵抗はなかったと思う。
『それだけではありません。紗友里さんが部屋の中に入った瞬間、心の声が一切聞こえなくなったのですよ。おかげで、部屋で何が起こっているのかさっぱりわからず、さすがの私も焦りました』
そうだったの?
じゃあ、私と宮園さんがどんな会話をしていたのかユリエルさんは知らないんだね。
私が記憶を失った原因や居眠りをしてしまった経緯を聞こうと思っていたけど、それはユリエルさんにもわからないみたいだ。
『お役に立てなくてすみません。お二人の様子を観察して分析を行い、その結果に基づいて紗友里さんにアドバイスを送るのが私の仕事なのですが……』
ううん。まぁ仕方ないよ。
それより、部室に仕掛けられた結界? が何なのか調べた方がいいんじゃないかな。
どうして結界が張られているのか。そもそも結界とは何なのか。
わからないことが多すぎる。
ともかく、友愛部の部室がいわくつきの部屋であるということは間違いない。
せっかく宮園さんと二人で過ごせる空間を手に入れたのだから、不気味な謎は解消しておきたいところだ。
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