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相変わらず私の独占欲は強かった。宮園さんが他の誰かと仲良くしているだけで、気持ちが落ち着かなくなり、自分も負けていられないと感じてしまう。
彼女が欲しい。誰にも渡したくない。
強欲な願いを持つ女がここにいる。
宮園さんはそんなことも知らずに今も隣で美味しそうにお弁当を食べている。
あっという間に重箱の一段目が空になった。大盛だった白ご飯も残り半分だ。
彼女が食べるペースは落ちない。
細くて綺麗な彼女が食いしん坊だったとは思わなかった。
少食のフリをして毎日小さなお弁当を持ってきている私とは違い、彼女は常に堂々と自分を貫いている。食べることが好きだということを包み隠さず他人に伝えたのだ。
普段は完璧なお嬢様として振る舞いつつ、同級生の前では意外な一面も見せる。そこがまた魅力的だと思った。私も彼女のような素敵な人になりたい。
もし私が宮園さんと同じ立場だったら、世間の目やまわりからの評判ばかりを気にして「いい子」であろうとしていただろう。
社長令嬢という肩書に囚われない彼女を私は尊敬する。
「そうだわ。放課後の勉強会もここでやりましょう」
宮園さんが提案する。
当初は私たちが所属する二年四組の教室で勉強を教えてもらうつもりだった。
けど、二人きりになれるなら場所はどこでもよかった。
教室でも体育倉庫でも屋上でも。私は宮園さんと一緒なら……。
とはいえ、部室となると懸念すべき点が一つだけあった。
「部活はどうするの? ここは友愛部が使っているんでしょ?」
他の部員がいるなら、すべての計画はご破算だ。
誰にも邪魔されない空間でなければ意味がないのである。
そもそも部外者の私が部室に入ってもいいのだろうか。むしろ私が邪魔になるのではないか。
「問題ないわ。だって、部員は私一人しかいないもの」
「宮園さんだけなの?」
「そうよ。そこでお願いなのだけど……」
彼女は私の両手を握り、こう言った。
「松浪さん。もしよければ、友愛部に入ってくれないかしら?」
勧誘されてしまった。
宮園さんが立ち上げた部活へ。本人から直々に。
当然、断る理由はない。
私は帰宅部なので放課後はいつも暇だった。授業が終われば、ただ家に帰るだけの日々を送っている。
友愛部に入部すれば、宮園さんと一緒に過ごすことができる。
勉強会などの口実も不要だ。無条件で彼女のそばにいられるのだ。
「うん。入る!」
興奮気味に私は答えた。
「ありがとう! 実は私、ずっと松浪さんと仲良くなりたいと思っていたの。でも、なかなかお話する機会がなかったでしょう? これからは、この部活で私たちの友愛を深め合いましょうね」
そう言って宮園さんが私を抱きしめる。
「はうっ!」
素っ頓狂な声で私は鳴いた。
いきなりのことで腰が抜けそうになった。
私たちは肌が触れ合うほど密着している。
彼女の髪や首筋から甘い香りが漂ってくる。
いい匂い……。これが宮園さんの香りかぁ。
うっとりしながら、彼女に身を委ねる。
彼女の体温と柔らかい感触が私の全身に伝わる。
さっきのキスとハグは夢だったけど、今度こそは現実であってほしい。
そう思いながら抱きしめられていると……。
「ひゃっ?! 何してるの?」
「こちょこちょこちょ」
突然、宮園さんが私の脇腹をくすぐってきた。
「や、やめっ……! あははは!」
こそばゆい感覚に耐えきれず、とうとう私は笑い出した。
「ダメ……。ダメだってぇ……。ひうぅぅぅ! あははっ!」
私はくすぐりの弱いのだ。
笑い過ぎて目に涙が滲む。
「……やっぱり可愛い」
宮園さんが呟く。
「え?」
「松浪さんの笑ってる顔、思ってた通り可愛かった」
か、可愛い……!?
宮園さんが私を褒めてくれた。
嬉しい。すごく嬉しい。あと、恥ずかしい。
ユリエルさんも私の笑顔が可愛いと言った。もっと笑うべきだとも言っていた。
宮園さんが可愛いと言ってくれるなら、彼女の前ではもっと笑顔でいようかな。
「私は松浪さんのことが知りたい。たくさんおしゃべりして、たくさん遊んで、色んなことを教えてほしいの」
「どうして知りたいの? 私のことなんて」
「理由はないわ。ただ知りたいと思った。それだけなの」
私の目をまっすぐと見つめる宮園さん。
その眼差しは私に動揺と興奮、恥じらいをもたらすのだった。
「まずは……そうね。松浪さんって、今好きな人とかいるのかしら?」
「えっ……? す、好きな人?」
そんなの言えるわけないよ……。
だって、私が好きなのは宮園さんなんだから。
「い、いないよ?」
「いない……のね」
「うん……」
ここは誤魔化すしかないだろう。
まだ告白なんてできるはずもない。
「じゃあ、誰かと付き合ったことはある?」
「ううん。ない……。一回も」
これは本当だ。私に恋人がいたことはない。
初めて恋をした相手が宮園さんなのだ。
「私もないの」
「そうなの? 意外だね」
「意外? どうしてかしら?」
「だって、宮園さんはこんなに綺麗だし……。すごくモテるんじゃないかなって……」
「私のこと、綺麗だと思ってくれてるの?」
「うん。もちろんだよ」
誰がどう見ても彼女は綺麗だ。
同性の私が惚れてしまうくらい。
「嬉しいわ。松浪さんに褒めてもらえるなんて」
そこまで喜ぶとは思っていなかった。
彼女は色んな人から褒められながら育ってきたはずだ。今さら私が言ったくらいで何とも思わないだろうと考えていた。
よっぽど嬉しかったのか、宮園さんは両手で頬を抑えながらニコニコと笑うのだった。
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