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百合×百合オペレーション  作者: 平井淳
第一章:ドキドキ放課後勉強会作戦

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感想をお待ちしております。

 誰にでも優しくて温厚な性格の宮園さんが友達と仲違いをするとは思えない。たとえ意見の食い違いや相手への不満があったとしても、彼女なら丸く収めるはずだ。


 森さんたちの方を見る。彼女たちの会話はいつものように弾んでおり、変わった様子はなかった。宮園さんがいないことを除けば、普段と何ら変わらない仲良しグループの光景である。


 宮園さんだけが仲間外れにされる理由は見当たらない。グループの中心人物は彼女だった。その人を抜きにして他の三人が群れることなど、これまで一度もなかったのだ。


 今日はたまたまかもしれない。朝のホームルームまで時間がないので、おしゃべりをしても仕方がないと考えているだけの可能性もある。


 引っかかることはあるけど、多分心配いらないだろう。宮園さんは落ち込んでいるようには見えないし、この状況を特に気にしていないようだ。


『しばらく彼女を見守りましょう。悩んでいるようなら、紗友里さんが相談に乗ってあげればいいのです』


 もしもの時は私が宮園さんを支えよう。

 それが友達というものだ。


 今までの私はずっと一人だった。誰にも頼ることができないまま、自分だけで頭を抱えていた。


 でも、悩みを打ち明ける相手がいれば、辛い気持ちが緩和されることを知った。ユリエルさんが私の味方になってくれたから。


 今度は私が宮園さんの味方となり、彼女から頼られる存在になりたい。


 始業のチャイムが鳴る。その直後、担任の福田直美ふくだなおみ先生が教室にやって来た。


「おはよう、皆。早く席に着いて」


 立ち上がっておしゃべりをしていた生徒たちが、先生の合図を受けてバラバラと自分の席に戻っていく。

 

 福田先生は黒板の前に立つと「じゃ、出席取るわよ」と言った。


 今日も一日が始まる。

 いつもと同じ日常だ。


 だけど、私にとっては特別な一日になろうとしている。

 今日は私と宮園さんの「初めて」の日なのだ。

 

 あ、初めてっていうのは、変な意味じゃないよ?

 そういうのは正式にお付き合いをしてからだと思うし……。


 私は心の中でユリエルさんに弁明した。


『言われなくてもわかっています。そんな勘違いしませんよ。紗友里さんじゃないんですから』


 冷静な声が返ってきた。

 私は教室で人知れず赤面した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 とうとう昼休みの時間になった。

 私は今から宮園さんとお弁当を食べることになっている。


 弁当箱が入った巾着袋をカバンから取り出し、宮園さんの様子を伺う。

 彼女は約束を覚えているだろうか。


 もし忘れているなら、私の方から声をかけるべきだ。でも、あまり気が進まない。まるで私が宮園さんと一緒に食べたがっているみたいだもの。


『本当は食べたいんでしょう?』


 そうだよ。けど、何だか恥ずかしいんだもん。まるで自分のことが、ご主人様に構ってもらいたがっている子犬みたいに思えてくるんだよ。


『紗友里さんが甘えん坊だと知れば、宮園さんもキュンときちゃうはずです。なので、素直に尻尾を振ればいいと思います』


 本当? それなら、じゃあ……。


 と、思いかけた時だった。


 宮園さんが風呂敷に包まれた何かを持って席を立った。

 そして、そのままこちらに向かって歩いてきたではないか。


「お待たせ、松浪さん。行きましょうか」


 彼女は約束を覚えていたようだ。


「あ、うん。でも、行くってどこに……?」

「誰もいない場所。二人だけの秘密基地かしら」


 宮園さんは「ふふっ」と笑いながら答えた。


「ついてきて」

「あっ……」


 私は彼女に手を引かれ、教室を出た。

 他の生徒たちが行き交う廊下を手を繋いだまま通り抜けていく。

 

 夢を見ているような気分だった。

 目の前には、ずっと憧れていた宮園さんがいて、私は彼女に触れている。


 遠い存在だった宮園さんと、こんなに接近できるなんて。


 彼女の細い指が私の手に絡みついて離さない。

 手のひらに温もりが伝わってくる。私と同じで、彼女もまた命を宿す生き物だということを実感するのだった。


 もう、このままずっと握っていてほしかった。

 二人で手を繋いでいれば、宮園さんが私だけの宮園さんになったような気がしたから。


 今、彼女に触れているのは、この世界で私一人だけ。他の誰よりも宮園さんと密接な距離に私はいる。


 私は彼女を独占したい。また、私は彼女に独占されたい。


 二人を強制的に繋ぎ合わせる鎖のようなものがあればいいのに。


 鎖で繋がれた首輪を嵌める私を宮園さんが引きずりながら歩く。

 その鎖は宮園さんの手首に巻かれた金属の輪と結びついており、切り離すことができない。

 どこへ行くにしても、私たちは二人一緒なのだ。


 宮園さんをどこにも逃がしたくない。ずっと私から離れられないようにしたい。私は宮園さんから離れたくない。宮園さんに飼い殺されたい。永遠に。


 彼女は私だけのご主人様であってほしいから。


「ここが私たちの部屋よ」


 しばらく歩いて辿り着いたのは、旧校舎にある一室の前だった。

 古びた部屋の扉には黒いペンで「友愛部」と書かれた紙が貼られていた。

 

「どういうことなの?」

「私、この前自分で部活を作ったの。その名も『友愛部』。文字通り、友愛の精神を深め合うことを目的とした部活よ。で、ここが部室」

「正式な部活動なんだよね……?」

「もちろん。学校からちゃんと認可されているわ。顧問の先生もいるの」


 聞いたことのない部活名だと思ったら、宮園さんが作ったものだったんだ。

 でも、何のために?


「とにかく中へ入りましょう。こんなところで立ち話してるわけにもいかないわ」


 私は宮園さんに背中を押され、部屋の中へ踏み入った。


お読みいただきありがとうございます。

感想をお待ちしております。

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