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昨夜は興奮してあまり眠れなかった。それもそのはずだ。今日は宮園さんと昼休みにお弁当を一緒に食べ、放課後には勉強会を開く約束をしているのだから。
今朝は寝不足のため頭が回らない状態で登校した。教室に着くと自分の席に座って少し仮眠を取ろうとしたが、そのうち宮園さんが教室にやって来ることを思うと、やはり眠れなかった。寝ている姿など彼女に見られたくない。
宮園さんが登校してくるのは、いつも決まって朝のホームルームが始まる五分前である。
時計をチラリと見る。そろそろ来る頃だ。
毎朝、私は彼女が来るのを待っている間、ずっとそわそわしているが、今日は今まで以上に落ち着きがなかった。
昨日初めて彼女と会話したばかりだ。意識せずにはいられない。
どうか、緊張し過ぎて変な方向に暴走したりしませんように……!
「おはよう」
宮園さんは今日も普段通りの時間に教室に入って来た。
クラスメイトたちが次々と挨拶を返していく。彼女が登校してくるだけで皆が笑顔になるのだった。
着席した宮園さんはカバンからスマートフォンを取り出し、何やら操作を始めた。
その直後、私はブレザー制服のサイドポケットに忍ばせていたスマホが振動するのを感じた。
スマホを見ると、なんと宮園さんからラインでメッセージが届いていた。
『おはよ』
朝の挨拶を意味する三文字の言葉だった。その隣には太陽の絵文字が添えられている。
ラインではなく直接言ってくれても構わないのだが、それは少し難しいだろう。
私の席が窓際の最後列であるのに対し、宮園さんの席は廊下側で前から四番目の位置にある。
登校してきた彼女が教室に入ってから自分の席へ向かう間、私の席を横切ることはないため、挨拶を交わすタイミングが掴めないのである。
とはいえ、ラインで挨拶するのも悪くはない。何の不満もなかった。
彼女が私を気にかけてくれたことが何よりも嬉しかったから。
(宮園さん、私にも挨拶してくれたんだ……)
身体の芯がジワリと熱くなる。途端に眠気が吹き飛んだ。
私は大急ぎで彼女に「おはよう」とメッセージを送り返す。
すると、宮園さんはスマホを手にしたまま私の方へ振り向き、ニコリと微笑みかけてきた。
それを見てハッと驚いた私は、とりあえずペコリと頭を下げておいた。
目が合っちゃった。嬉しくて恥ずかしくて、そして温かい気持ちになる。
ずっと憧れていた人と通じ合えるのって、こんなに幸せなことだったんだ。
『よかったですね、紗友里さん。彼女はあなたのことをかなり気に入っているようです』
ユリエルさんの声が聞こえた。
うん……。こんな展開になるなんて、昨日までなら考えられなかったよ。
私たち、もしかして両想いなのかな?
『それはさすがに気が早いですよ。いつもネガティブなのに、こういう時だけはやけにポジティブですね。宮園さんが紗友里さんを好いているのは確かですが、それが恋愛感情であると決まったわけではありません』
そうだよね。私ったら、これだけのことで浮かれちゃって馬鹿みたい。
現実的に考えて、今まで一切絡みがなかった私のことを宮園さんが恋愛対象として見ているはずがない。それ以前に彼女の恋愛対象が女性であるという根拠すらないのだ。
もし宮園さんの恋愛対象が男性だったら、私は土俵に上がることすらできない。
むしろ、その可能性の方が高い。同性愛者の割合は圧倒的に少ないのだから。
そう考えると急に胸が苦しくなってきた。
私と彼女が結ばれるには、あまりにも困難が多すぎる。
やっぱり無理かもしれない。そんな気がしてきた。
『またネガティブ病ですか。能天気になったりナーバスになったり、忙しい人ですねぇ』
私には情緒不安定なところがある。ダメな自分に嫌気が差して落ち込んでいたかと思えば、唐突に謎の自信や希望が湧いてきて気分が高揚することがある。
感情のジェットコースターに振り回され、その落差の激しさが私をより一層疲弊させる。
我ながら困った性格をしているな、と思う。
『ところで紗友里さん。一つ気になることがあるのですが……』
どうしたの?
『いつも宮園さんと仲良くしている三人が今朝は彼女の席に集まってきません』
ホントだ。何でだろう?
森さんと小島さんと矢崎さん。この三人は宮園さんが登校してくると、真っ先に彼女のところへ駆け寄ってくる。
しかし、今は三人とも宮園さん抜きで会話を楽しんでいた。一方、宮園さんも彼女たちのトークに加わることはせず、自分の席から一歩も動かないのだった。
お互いにお互いをまったく気に留めていないように見える。
あるいは理由があって無視しているのか。
喧嘩でもしちゃったのかな?
宮園さんでも友達と揉めるようなことがあるのだろうか。
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