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百合×百合オペレーション  作者: 平井淳
第一章:ドキドキ放課後勉強会作戦

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感想をお待ちしております。

「この際、ネガティブな感情も捨てちゃいましょう。もっと自信を持ってください。自分を愛してください」 

「それはちょっと……難しい、かな」


 私は自分のことが好きになれない。長所という長所が一つもないから。

 何もできない。何も残せない。何も語れない。無力で空虚な自分を情けなく感じている。


 どうして私はとことんダメな人間なんだろう。

 そう思うたびに自分のことが嫌になってしまう。


「自己分析が足りていないようですね。このままだと宮園さんのハートを射止めることはできません。自分のよさを理解していないのに、どうやって好きな人に自分自身をアピールするのですか?」

「だって、ホントに何もないんだよ? 私ってビックリするくらいダメダメなんだもん」


 勉強も運動も苦手。コミュニケーションを取るのも下手。友達もまともにいない。何か特技があるわけでもない。


 誰からも好かれず、誰からも必要とされない人生を送ってきた。

 私の存在価値ってあるのかな?


「病気ですね。あなたは病気です。ネガティブ病です」


 ユリエルさんは呆れ顔で言った。

 変な病名を診断されちゃったけど、彼女が言っていることは間違っていない。

 私は病的といえるくらい後ろ向きな気持ちだった。常に負の感情を抱え込んでいる。


「そうだね。病気だと思う。一生治らない」


 不治の病を背負って私は生きていく。

 自分一人で、誰にも理解されないまま……。


「いいえ。あなたには私がいます。私が治してみせす。紗友里さんの病気も悪い癖も全部」

「できないよ、そんな簡単に」

「簡単ではないかもしれません。ですが、私は天使です。天使は人を幸せにします。乗り越えられない壁を乗り越えさせることができるんです。ここは一つ、私を信じてください」


 ユリエルさんは私を優しく抱きしめた。


 とても温かくて柔らかい。あと、いい匂いがする。

 洗濯したばかりの羽毛布団にくるまっているような気分だ。


「それに、紗友里さんにもいいところはありますよ」


 抱きしめたまま、彼女は言った。


「……どんなところ?」


 私は問う。


「人の幸せを妬んだり、妨害しないところです。人間は誰でも嫉妬心を持つものですが、紗友里さんはそれを悪い方向に注いだりはしません。宮園さんと仲の良い人たちを見て、あなたは羨ましいと感じていますが、決して彼女たちを妬んだり、恨むようなことはしていません。それはとても立派なことです」

「そうかな……? それって普通のことじゃないのかな?」

「残念ながら、そういう普通のことができない人間は多いのです。今の時代、人々の暮らしは豊かになりましたが、心はずっと貧しくなっています。他者の幸せを妬ましく思い、不幸を願う人間がたくさんいますから。悪意のある言葉で人を傷つけたり、承認欲求を満たすために虚勢を張り合うのです。彼らは誰も幸せになれない争いを繰り返しています」


 否定はしない。

 私も同じことを思っていたから。


 どうして人は人を傷つけるのだろう。相手が悲しい思いをすることに気づかないのだろうか。


 自分と他人は違う。同じ人なんていないのに。

 だからこそ、お互いを尊重し合うべきじゃないのか。


 自分より幸せな人がいてもいいじゃない。自分が不幸になるわけじゃないんだから。

 そもそも、幸せって誰かと比較するものじゃないと思う。人には人の幸せがある。


 幸せは分け合うものであり、奪い合うものではない。

 たとえ自分が幸せじゃなかったとしても、他人の幸せを邪魔するのは間違っている。

 

 私は底辺の人間だ。誰からも羨ましがられることのない惨めな存在である。

 でも、自分より恵まれた人生を送る人たちの足を引っ張るのは、もっと惨めな生き方だと思う。だから、私はそんな風にはなりたくなかった。


「それでいいんですよ。その気持ちさえ忘れなければ十分です。他に何もいりません」


 ユリエルさんは私を慰めるつもりで言っているのだろう。他に褒めるところがないから、そう言い聞かせるしかないのかもしれない。


 それでも私は救われたような気がした。

 彼女は私の心が読めてしまう。何もかも見透かしてしまう。恥ずかしいし、とても迷惑だ。


 けれど、そのおかげで私のことを理解してくれる。

 この世のどこにもいないと思っていた私の味方が、すぐ目の前にいるんだ。


 彼女の抱擁をとても温かく感じるのは、体温のせいだけではない。


 

お読みいただきありがとうございます。

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