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「紗友里さんには心の殻を破っていただきたいのです。大胆というのは、破廉恥なことをしろという意味ではありません」
「だ、だよね……。ビックリしたよ」
私は苦笑いを浮かべるしかなかった。
反射的にいやらしい発想をするのはやめて、これからは冷静に考えよう。
「宮園さんとの距離を縮めたいなら、紗友里さんの方から彼女に歩み寄るべきです。こちらが好意的な態度を示せば、向こうも応えてくれます」
「私は最初から好意的に接しているつもりなんだけどなぁ」
ラインでのやり取りを見る限り、宮園さんの反応はよかった。少なくとも警戒はされていないと思う。
なのに、何がいけないというのだろう?
「今の紗友里さんは、あまりにもよそよそしい感じがします。同級生なのに敬語を使うのは変です」
「でも、いきなりタメ口で話しかけたら礼儀知らずだと思われるかもしれないし……」
「本当にそう思いますか?」
「え? 違うの?」
「よく考えてみてください。さっき初めて学校の廊下で話した時も、ラインでメッセージを送る時も宮園さんは敬語を一切使っていませんでした。それで紗友里さんは彼女のことを無礼な方だと感じましたか?」
そんな風には思っていない。宮園さんの口調に違和感はなかった。彼女に対するイメージは変わらないままだ。
「ううん。変な気を遣わずに普通に話してくれたから、嬉しかったよ」
「でしょう。宮園さんにとっても同じです。紗友里さんがフレンドリーに接してくれたら彼女も喜びますよ」
目から鱗だった。私はずっと宮園さんによく思われたくて、敬語を使って話すようにしていたけど、彼女はそんなこと求めていなかったんだ。
同級生でしかも仲良くなろうとしている相手に敬語を使うべきではない。友達らしく親しみやすい口調で会話をすればいいんだ。
「紗友里さんはスクールカーストという概念を強く意識されているようですが、そんなの気にする必要ありませんよ。学校社会に身分なんて存在しないのです。全員、同じ学生なのですから」
「……同じじゃないよ。学生のグループの間には見えない境界線があるの。越えられない壁っていうのかな。私と宮園さんでは格が違い過ぎるよ」
宮園さんは容姿端麗で成績優秀で友達が多い人気者。それに対して、私は勉強が苦手で見た目も冴えないし、友達もいない。まさに正反対だ。これが同じ学生と呼べるだろうか。
「壁ですか。誰がそんなものを作ったのでしょう。何かの役に立つのですか?」
壁は意図して作られたものではない。気づけば出来上がっていたのだ。
「役には立ってない……かな」
確かにスクールカーストが私にいい影響をもたらしたことは一回もない。
そういえば、いつからそんなものに囚われるようになったんだろう。
「目に見えないものを妄信するのはやめましょう。元来、人と人は平等なのです。身分や立場を気にして、何かを諦めたり空気を読む生き方を選んでも、得になることは一つもないのです。くだらない価値観に縛られる人生は今日でおしまいです」
ユリエルさんの言う通りだ。
私は自分を抑え込んでいた。誰かに命令されたわけでもないのに。
学校生活がつまらないのは、自分でつまらないものにしていたからなんだ。
友情も恋愛も自由に楽しみたい。遠慮や自重なんてしたくない。それが私の正直な思いだった。
宮園さんのことも「身分の違い」を言い訳にして諦めてしまうの?
そんなの嫌だ。納得できない。
私は手に入れたい。宮園さんとの友情を。宮園さんとの思い出を。
そして、宮園さんそのものを……。
「わかったよ、ユリエルさん。私、これからは素直になる」
「はい。とてもよい心掛けですね」
自分が望む生き方を選ぼう。
私はそう考えることにした。
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