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「お願い、ユリエルさん。今の会話、忘れてくれないかな? なかったことにしてくれないかなぁ?」
「そう言われましても、都合よく記憶を消すことはできませんから」
ユリエルさんと話していると、次々にボロが出てしまう。
知られたくないことは隠そうとしても隠せないし、誤魔化そうとしたら言わなくていいことまで口に出してしまう。
宮園さんへの想いが恋だと知ったのも、ユリエルさんとの会話がきっかけだった。
もし彼女が現れなかったら、私はずっと気づかなかったかもしれない。
「それにしても、どうして私は宮園さんと恋人になりたいと思ったんだろう?」
誰かに恋をしたのは、これが初めてである。
ましてや相手が女性だなんて思いもしなかった。
「漫画のように女の子同士でイチャイチャしたい。紗友里さんには、ずっと前からそういう願望があったのですよ。ご自分を百合漫画の主人公に見立てて、空想の世界に耽っていたのです。そして、ついに恋人にしたい人物が現実の世界に現れました。それが宮園由利香さんなのです」
当たってるかもしれない。
私は女性が恋愛対象だと思ったことはない。かといって、男性とお付き合いすることも考えたことがなかった。自分にとって恋愛とは漫画や妄想などにおける「架空の出来事」であり、実在する人間を相手にするものではなかったのだ。
百合漫画さえあれば満たされる。私の恋は漫画だけで十分だった。
ガールズラブを題材とした作品が好きな理由は自分にもわからない。
でも、それって他のことにも当てはまるんじゃないかと思う。
私は甘い物が好きだ。ケーキやプリンなどのスイーツが特に好きだ。
どうしてスイーツが好きなのかと聞かれたら、甘い物が美味しいと感じるから、としか答えられない。
ガールズラブも同じだ。私はそういう作品に興奮や尊さを感じるから好きになったのだ。それ以外に言えることは何もない。
漫画の主人公が女の子といい感じになり、キスをしたりする。自分はそれを眺めているのが好きだった。
だけど、宮園さんに出会ったことで私の恋愛観は変わってしまった。
今までは漫画のキャラクターに自己投影して楽しむだけだったはずの恋愛を実際に体験してみたいと思うようになっていたのだ。
「誰かを好きになる。そこに理由など必要ありません。気づけば好きになっていた。それが本能なのです」
「本能だけでいいの?」
「もちろんです。誰を好きになるのか、何を好むのか。すべては本能次第です。生まれ持った感性と自分の正直な気持ちを優先すればいいのです。愛や恋に正解も不正解もないのですから」
ユリエルさんの言葉は私を勇気づけるものだった。
私は不安だったのだ。百合漫画で興奮する自分が恥ずかしいと思っていた。ワケもなく宮園さんを好きになった自分が変だと思っていた。女の子同士で恋愛をするなんて間違っているのではないかと思っていた。
けど、ユリエルさんはそれらをすべて否定した。
恥ずかしいことじゃない。変なことじゃない。間違っていない、と。
趣味も恋愛も思うままに楽しめばいい。そう言ってくれている。
間違っていたのは、意味のない正しさや理由を求める私自身だったのである。
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