09
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家に帰ると私は自室に籠り、宮園さんにラインで送るメッセージの内容について考えた。
最初だから、いきなり馴れ馴れしい文章はダメだよね。かといって、堅い感じになるのもよくない気がするし……。
「うう~。どうしよう、ユリエルさん」
「深く考え過ぎですよ。こういうのは、シンプルに一言で済ませばいいんです」
この部屋には私以外誰もいないので、姿を現したユリエルさんと対面で会話することができた。
脳に語りかけられるよりも、こっちの方が落ち着く。見えない人と声を発さずに言葉を交わすのは奇妙な感じがするからだ。
「軽い女だと思われたら嫌だなぁ」
「そんなこと心配しなくて大丈夫ですから、もっと気楽にいきましょう。相手はそこまで深く考えていません」
「そうなの?」
「はい。『よろしくね』みたいな感じでオッケーです。これで悪いイメージを持たれることはありません。凝ったメッセージを送るよりもずっといいです」
なるほど。そういうものなんだ。
「……あの、紗友里さんって現役の女子高生ですよね? こういうことには慣れているはずですよね? 天使からアドバイスを貰うのって変じゃないですか?」
「だって今まで友達いなかったんだもん。こういうの初めてだから、私にはよくわからないよ」
女子高生は友達がたくさんいて、コミュニケーションスキルが高くて当然、というのは偏見である。
私のようなぼっちのコミュ障もいるのだ。
「せっかく可愛いんですから、もっと自信を持ってください。紗友里さんはエッチな子ですけど、そのくらいであなたを嫌いになる人はいません。むしろ、可愛くて変態だなんて最高じゃないですか」
「変態とか言わないで! 私、そんなんじゃないもん!」
「いやいや。どう考えても変態でしょう。今日は煩悩を抑えていらっしゃいましたけど、私は以前から紗友里さんの脳内を覗き見ていましたから。それにしても、驚きましたよ。なかなか豊かな想像力をお持ちのようで……」
口元を手で隠しながら、ぷぷぷ、と笑うユリエルさん。
小馬鹿にするような目で私を見ている。
「頭の中まで見ないでよぉ……」
「調査のためです。そうするしかなかったんです」
「調査……?」
「いえ、何でもないです。そうそう、確か紗友里さんって、女の子同士の恋愛を描いた漫画がお好きなんですね」
「はうっ……」
ずっと隠してきた趣味のことまで知られていた。
もう私のことは何でもお見通しなのかな。
「この本棚にある漫画が全部そうですよね。私もあなたの記憶を通して漫画の内容を確認させていただきましたが、ホントに素晴らしい作品ばかりでした。これこそ私が求める世界。ガールズラブは最高ですね」
「ユリエルさんもこういうのが好きなの?」
「はい、大好物です! 女の子と女の子が恋をして、お互いを愛し合う。とても美しいではありませんか」
「じゃあ、天使のユリエルさんが女の子同士の恋愛を手助けする理由って……」
「百合が大好きだからです!」
あっ、ふーん……。
つまり、私利私欲のためってことなんだね。
私が宮園さんと結ばれて欲しいと願うのは、ユリエルさんが楽しみたいからなんだね。
「そ、そそ……そういうわけではありませんよ? もちろん女の子と女の子がイチャラブしている光景を見たいという気持ちはありますが、そもそも私たち天使は人間に幸せを運ぶために活動をしているのです。なので、紗友里さんにも幸せになっていただきたいんです。やましい気持ちなんてないですよ?」
「なーんか怪しいなぁ」
「お二人がラブラブになれば、紗友里さんは幸せになり、ユリエルは眼福を得ることができます。これはまさにウィンウィンの関係でしょう?」
まぁ、確かに誰も損はしていないよね。
私は宮園さんと親しくなりたい。ユリエルさんのために宮園さんと恋愛をするわけじゃないけど、そこは別にどうでもいい。
今はユリエルさんの協力が必要だ。私一人では何もできないだろうから。
「そうだね。私もユリエルさんも幸せになれるといいね」
「紗友里さん……!」
「でも、絶対に変なことはしないでね。私も自分がネタにされるのは恥ずかしいから……」
「変なこととは何でしょう?」
「えっ? いや、だから……その……。ううん、やっぱり何でもない!」
「あー、そういうことですか。もぉー、嫌ですねぇ。私は天使ですよ? 煩悩まみれの紗友里さんとは違うんですから。ガールズラブをネタにして、そういう一人でエッチ的なことなんていたしませんよ」
「わ、わかってるなら言わなくていいよぉ……!」
ううっ……。余計な一言のせいで無駄に恥をかいちゃったよ。
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