25話 翠嵐鳥(4)
元は活気のある炭鉱村なだけあって、宿も相応の規模で作られていた。
各地へ流通させるために商人などが多く出入りするためだ。
今ではファウスマラクトの被害もあって旅人さえ寄り付かないため、宿泊者は殆どいない。
一同は席に着くと、重苦しい息を吐いた。
「色々と話すべきことはあるんだが……先ずはリスティル、お前の話からだ」
グレンはリスティルに視線を向ける。
未だに何も語らないのは、何か理由があるのだろうか。
少なくとも、これまでに彼女の口から"未来予知以外の力がある"とは聞かされていない。
「……ふむ、そうだな」
未だにその表情は硬い。
如何にして事情を説明するか、その言葉を慎重に思案しているようだった。
先ほどの術は明らかに異質だ。
未来予知も常人からすれば信じ難い能力だったが、今回の術は何故だか不安を感じさせる。
ヴァンでさえ困惑しているのだから、説明無しというわけにはいかないだろう。
「私が診た限りでは……あの村人たちは体内に一定以上の穢れを保有していた」
「それが、さっき言っていた微かな穢れってやつか」
村人たちを前に、リスティルは穢れの気配を感じていた。
それ自体は『穢れの血』と比べれば些細な量だ。
穢れに満ちた今の世界では、微量の穢れを取り込んでしまう者は珍しくない。
「それ自体は問題ではない。私が力を行使するに至ったのは、その穢れが指向性を持っていたことが理由だ」
「……どういうことだ?」
「あの村人たちは、何者かによって"悪心の種"を植え付けられていたということだ」
心底不愉快といった様子でリスティルが舌打つ。
面倒そうに溜息を吐いて、説明を続ける。
「穢れは魂の深層に蓄積する。当然だが、生者から穢れを回収することは出来ない。哀れな村人たちを救うには、私が力を行使する必要があったというわけだ」
その話が事実であれば、クリームヒルトを救えるのではないか。
淡い期待を抱くも即座に否定される。
「……前にも言っただろう、私の力は万能ではないと。今回の術にも様々な制約が存在する」
もし可能であれば、既に提案しているだろう。
穢れの程度によっては不可能なのかもしれない。
「先程用いた術は世界の理とも言うべき枢軸に干渉し、強引に穢れを取り除く。魔術的な過程を全て無視して事象を改変したわけだ」
「そりゃすげえ術だが……」
その術は明らかに異質すぎた。
リスティルという存在そのものに疑念を抱いてしまうほどに。
彼女の言葉が事実であるなら、それこそ人間という範疇に留まらない。
神話や伝承の類に存在する超越的な存在。
そういった類であれば、リスティルという人物を説明出来るだろう。
「……だが、制約は極端なものだ。今回は穢れの量が少ないために干渉できたが、何かしら生物として変異を引き起こす程度の量には意味を成さない」
蓄積すると『穢れの血』として何かしらの変異を引き起こす。
外見上の変化は稀だが、内側は人間という種から大きく逸脱してしまっている。
ヴァンやクリームヒルトのように能力に目覚めている状態では、リスティルの術を以てしても干渉は不可能だ。
「それに私は――」
言葉にしようとして、リスティルは口を噤む。
その先を吐き出すことは出来なかった。
「――いや、これ以上の説明は不要だろう。兎も角、これが私の用いた術の原理だ」
少し不満そうに説明を切り上げる。
聖女としての矜持が、本心を打ち明けられないように枷となっていた。
その様子から何かしらの事情があるのだろうとヴァンは察する。
彼の敬愛するリスティルは、いずれ偉大な功績を歴史に刻む人物だ。
仲間に弱っている姿を見せまいとする意志を讃える反面、心のどこかでは何故だか寂しく感じていた。
「……術の行使は負担がかかる。悪いが、今夜は先に休ませてもらおう」
そう言って彼女は席を立つ。
まだ食事を取っていないが、それどころではないらしい。
調子が狂っている事にも術の影響があるのだろうか。
尋ねようにも、今の状態では厳しい。
リスティルは皆の返事を聞かずに背を向けると、宿の二階へ上がっていく。
「明日には調子を取り戻してくれるといいのですが……」
ヴァンは額に手を当て、不安を誤魔化すように髪をぐしゃぐしゃと掻く。
これまでの旅路で、リスティルは常に強者として在り続けていた。
戦闘においては無力だというのに、真正面から『穢れの血』と対峙するようなことも幾度となくあった。
そんな彼女は崇拝するには理想的な存在だった。
いっそ依存していると言ってもいいくらいで、ヴァン自身もそれは理解している。
心の底から敬愛すると同時に、精神的な安定を求めて同行していた節もあった。
そこに"人間らしさ"を見出した時、自分の中でどのような変化が起きるのか予想出来ず、同時に恐れてもいた。
「……とりあえず、ご飯にしよう? 明日以降のために、無理してでも詰め込んでおかないとね」
このまま考えていては負の面に堕ちるだけだ。
クリームヒルトは気丈に振舞いつつ、冗談めかして空腹を主張する。
「そうだな。飯を食いながら、少し情報を整理しておくべきだろう」
宿に移動している最中に大方の事情は聞くことが出来た。
ファウスマラクトの襲撃に居合わせた村人から有用な情報が得られている。
それらを整理しつつ、討伐に備えて作戦を練るべきだろう。
――『翠嵐鳥』ファウスマラクト。
翡翠のような透き通った翼と、丸々とした黒い胴体部分を持つ怪鳥だ。
その鉤爪は牛や馬でさえ容易く鷲掴みにし、巣に持ち帰ってしまうほどの力を誇る。
聞いた話では、金属鎧に身を固めた戦士が鎧ごと貫かれて絶命したという。
「私が討伐してきた中でも、今回の標的は特に厄介かもね。変異の度合いも他の魔物とは段違いだよ」
クリームヒルトは道中で見かけたファウスマラクトの姿を思い出す。
あの巨躯が相手では、生半可な攻撃では意味を成さない。
これまで多くの傭兵が敗走してきたことも頷ける。
「優先して翼を狙うべきだ。地面に落とせれば、後はどうにでもなるだろ」
優秀な戦士を揃えたところで、剣の間合いに入らなければどうしようもない。
しかし、村人たちから聞いた限りでは、鉤爪で急襲する以外で地面に降り立つことは先ず無いという。
あれだけの体重で空を飛び続けるほどの体力があるのか。
或いは、特異な能力によって補助をしているのか。
魔術師がいない現状では、地面に落とさなければまともに戦うことは厳しいだろう。
グレンはヴァンに視線を向ける。
「お前の能力でどうにかならねえか?」
「幾つか手段はありますねぇ。まあ、いずれにしても結構な負担を強いることになりますが」
得意げに笑みを浮かべる。
こういった手合いには器用な戦い方の出来るヴァンが適任だろう。
「一つは麻痺毒。ファウスマラクトの体に直接注入して動きを鈍らせます」
ヴァンは懐からナイフを取り出す。
穢れの力によって強化された麻痺毒は、通常のものより強力な作用を齎す。
「便利ではあるのですが……あの巨体では、どこまで効果があるか微妙なところですね」
対人間であれば十二分に効果を発揮できるだろう。
ヴァンの力は基本的に人型、若しくはそれに準ずる大きさの敵を想定している。
監獄でもそうだったが、見上げるほどに巨大な化け物を相手にするには厳しいかもしれない。
「何度も麻痺毒を注入するってのは難しいのか?」
「不可能ではないですが、厚みのある羽毛に阻まれてしまうので。持久戦になれば分が悪いかもしれません」
ヴァンの得物では、あの巨体を瞬時に動かなくするほどの麻痺毒を注入することが難しい。
さらにナイフを奥まで突き入れるには羽毛が邪魔になる。
動きを鈍らせるまでに此方が消耗しきってしまう危険もあった。
「あまり時間を掛けるわけには……いかねえよな」
クリームヒルトに視線を向けるが反応はない。
虚ろな目でどこかを見ていたが、ふと我に返ると焦ったように手を振る。
「あ、えっと……ごめん。少しぼうっとしていた」
意識が危うい。
この様子では長くは持たないだろう。
何故、クリームヒルトのような善人が残酷な運命を辿らなければならないのか。
苦痛を耐えながら人々のために剣を振るう。
そんな彼女が報われずに人生を終えることなどあってはならない。
本来であれば、疾うに意識を失っていてもおかしくないのだ。
辛うじて理性を繋ぎ止めているものの、浸食は既に深部にまで達している。
「先に休んでおけ。あとは俺とヴァンで話をしておく」
「……大丈夫。まだ起きていられるから」
クリームヒルトは自分の頬を二度叩いて、意識をはっきりとさせようとする。
しかし、何故だか痛みが殆ど感じられない。
あまり話し合いを長引かせるわけにもいかない。
ヴァンから見て、グレンやクリームヒルトの実力は信頼に足るものだ。
何か想定外の問題が生じたとしても、二人であれば臨機応変に対応してくれることだろう。
「……最善の手段に絞りましょう。時間を稼いでもらえれば、僕がファウスマラクトを地に落とします」
「どれくらい稼げばいいんだ?」
「状況次第ですが……ある程度の観察を終えてから術式を構築するので、その間は僕抜きで耐えてください」
よほど自信があるらしい。
ヴァンは得意げな表情で話を進める。
「――僕がファウスマラクトから"翼"を奪います」
残忍な声色で言い、ヴァンは嗤う。
それから詳細な内容を詰めていき、十分に作戦が練り上がったところでお開きとなった。
◆◇◆◇◆
既に夜も深い。
明日に備えて休息を取るべきだが、各々が不安を抱えてしまっている。
精神的な負担は時間経過と共に去ってくれるほど都合の良い相手ではない。
グレンは自室のベッドに横たわり、瞑目しつつ今後のことを思案する。
彼の抱える不安はクリームヒルトのことだった。
傭兵稼業において命取りとなるのは"甘さ"だ。
危険な状況に陥った時、情に流されて命を落とすなど素人でしかない。
時には冷酷な判断を下す必要もあるだろう。
もしクリームヒルトが理性を失ってしまったなら。
穢れに染まりきって、襲い掛かってくるようなことがあったなら。
果たして、自分は彼女を殺めることが出来るだろうか。
――冗談じゃねえ。
想像するだけで不快感が込み上げてきてしまう。
きっと彼女は殺されることを望むだろうが、託される側のグレンとしては考えたくもないことだ。
仕事と割り切るには関わりすぎてしまった。
無論、役目を放り出すようなことはしない。
どれだけ苦痛を伴うとしても、それだけは誠実でありたいと願っている。
その後に後悔に打ちひしがれるのは彼の自由だ。
各地を巡り歩いていた時、グレンは誰かと組むようなことは避けてきた。
他者の死を恐れているからだ。
血に塗れた亡骸を腕に抱いて慟哭する。
そんな経験は一度だけでいい。
グレンは自身の両腕を見つめる。
無残に内臓を貪られて命を落とした妹の、脱力しきった冷たい肌の感触。
その絶望は未だに生々しく思い出せるほどだ。
こんなもの、何度も味わっていいものではない。
絶対に避けなければならない。
しかし、どうすればクリームヒルトを救うことが出来るのか分からなかった。
嫌な考えを頭から振り払って、ゆっくりと深呼吸をする。
ファウスマラクトを相手にするのだから、出来れば万全の状態で臨みたかった。
だが、微かな気怠さが残るだけで眠気には程遠い。
ふと、宿の廊下に気配を感じた。
遅い時間だというのに何か用でもあるのだろうか。
何んとなしに耳を澄ませていると、足音が自分の部屋の前で止まったことに気付く。
少し待つが、誰かが入ってくる様子はない。
グレンは疑問に思いつつ、ベッドから降りてドアノブに手を掛ける。
「あっ……」
開けてみると、そこには体を震わせたクリームヒルトが佇んでいた。
ドアに伸ばしていた手を慌てて引っ込めると、気まずそうにグレンの顔を見上げる。
どうやら声を掛けるか悩んでいたらしい。
「何か気になることでもあるのか?」
「ちょっと眠れなくて……入っていいかな?」
「俺は構わねえが……」
年頃の女性を夜遅くに招き入れるのはどうなのかと考える。
しかし、そこにいるのは民衆に祭り上げられる稀代の英雄ではない。
心細げに体を震わせている一人の女性だ。
さすがに放っておくわけにもいかないだろう。
グレンは入るように促すと、自分は木製の固い椅子に腰掛けた。
「ごめんね、こんな遅くに」
「お前の事情は知ってるんだ。謝ることはねえよ」
今更だったが、一人部屋で休むのは心細かったことだろう。
リスティルが本調子であれば同室させるはずだったが、彼女も今晩は様子がおかしい。
そのため、クリームヒルトは一人で休むことになってしまった。
クリームヒルトはベッドに腰掛けると、少し安堵したように頬を緩めた。
「さっきのことを気にしてんのか?」
グレンが問い掛ける。
先ほどの村人たちの様子は尋常ではない。
今回は何者かによって仕組まれていたようだったが、英雄という肩書に嫉妬して因縁を付けてくる輩もいるだろう。
「……これまでも、同じようなことが何度もあったんだ」
英雄として在り続けることへの苦悩。
誰にも打ち明けられなかった弱み。
それは、確実に彼女の精神を蝕んでいた。
「困っている人に手を差し出して感謝をされる。それが当然のことだと思ってたんだ。でも、手を差し伸べられなかった人からすれば、それは不愉快に感じるのかもしれない」
初めの頃は良かった。
悪しき力に目覚めたことを絶望するよりも、命がある限り前向きに生きていくのだと選択した。
助けられた人々はクリームヒルトの善良な心に感謝をして、それが更なる動力となって英雄としての活動を邁進させた。
人間の心は公平ではない。
手を差し伸べられたものがいる一方で、彼女の関わりの無い場所で命を落とす者もいる。
もしあの時に……と想像してしまう者もいないわけではない。
――やはり真面目過ぎる。
今にも泣きだしてしまいそうなクリームヒルトの姿を見て、グレンはどうしたものかと思案する。
英雄という肩書は一人の人間が背負うには重すぎるものだ。
まして、彼女のような心の弱い者には猶更だ。
それによって過剰な期待を生んでしまう。
悪意の有無に関わらず、裏切られたと感じてしまう者も存在する。
「全てを抱えようなんて傲慢な話だ。無責任な理想の押し付けにまで応える必要はねえよ」
「それでも、私は助けたかった。『なぜ助けに来てくれなかったのか』って言われた時は辛かったけど……それを言った人は私よりも辛い思いをしたはずなんだ」
最愛の者を失った痛みに耐えられるはずがない。
先ほどの少年のように、自身の心が壊れないように責任を外部に求める者もいる。
その痛みさえも引き受けることで、皆が抱いた英雄像に近付こうとしていたのかもしれない。
だからこそ、クリームヒルトは"都合の良い"英雄に成り下がってしまった。
彼女の善意を踏み躙るような輩が徐々に増えていったのだ。
「……何人も見殺しにしてきたのに英雄気取りかと、そう言われたんだ」
明確な悪意を持って暴言を吐き掛けられたのはそれが初めてだった。
気付いた時には時既に遅し。
彼女を取り巻く民衆の中に、少数だが悪意を持つ者が生まれていたのだ。
必死に英雄として振る舞い続けたために、耐えようのない傷を負ってしまった。
「私は"英雄"っていう肩書に酔っていたのかもね。分不相応な力を与えられて、人々から喝采を浴びて気持ち良くなっていただけなんだ。本当の英雄は……きっと、この程度のことで悩んだりはしない」
「そんなことは……」
グレンは言葉に詰まってしまう。
各地に伝わる伝承の類には、そうした困難を乗り越えた剣士などの話で溢れている。
エルベット神教の掲げる原理聖典にも『殉教者』カルネを始めとした多くの逸話が残されている。
クリームヒルトの言う通り、現状を打破出来なければ真の英雄とは言い難い。
だが、グレンは彼女の思いを知っている。
苦悩も知っている。
耐え難い痛みに擦り切れながらも前へ進み続ける強さを知っている。
運命は残酷だ。
穢れの力が無ければ彼女は常人の域を出ないはずだった。
このまま進み続ければ、待ち受けるのは深い絶望と狂気に満ちた奈落のみ。
クリームヒルトは強さに憧れて剣の道を選んだ。
そんな彼女が『穢れの血』に目覚めてしまったのだから、あと少しだけ背伸びをしたくなってしまうのは当然だろう。
持つ者の側にいるグレンでは、どういう言葉を紡げばいいのか分からなかった。
「……ごめん。こんなことを相談しても、グレンさんは困っちゃうよね」
悲しげに眉尻を下げる。
グレンは強者であって、こういった苦悩とは縁が無いのだ。
あまり困らせるわけにはいかないと、クリームヒルトは諦めたように話を切り上げようとする。
だが、弱り切った心では夜の闇を耐えられない。
徐々に侵蝕していく穢れの恐怖に、平常心を保つことは難しいだろう。
このまま部屋に帰すには危うすぎる。
「お前は一人で抱えようとしすぎだ。俺に気を遣うより、今は自分の心を優先してやるべきだ」
「私は……」
強く在りたい。
自身の思い描いた英雄を演じ続けたい。
そうしなければ、人間らしい感情を失ってしまいそうだった。
心の内に渦巻く嫌な欲求が常に纏わり付いて離れない。
最後に残された願いだけは、たとえそれが分不相応な望みであっても手放したくなかった。
しかし、どうしても縋りたいという想念が膨らんでしまう。
困らせたくないと思う一方で、自分の事情を知ってくれているグレンであれば甘えてもいいのではと思ってしまう。
「……ちょっとだけ、無理を言っていいかな?」
少し恥ずかしそうに、潤んだ瞳でじっと見つめる。
微かに頬を上気させていた。
「俺に出来ることなら何でも言ってくれ」
「えっと、その……頼みづらいこと、なんだけれど……」
言葉を詰まらせながら、自分の心を整理していく。
英雄として知れ渡っている今、在りのままの自分でいられるのは彼の前だけだ。
本心を打ち明けられたら、きっと心が楽になる。
いずれ穢れに蝕まれて魔物に堕ちるとしても、望みが叶うなら泡沫の夢でもいい。
そんな甘い考えに、遅れてきた理性が制止を掛ける。
「……ううん、やっぱり大丈夫」
火照った体を冷ますように熱を帯びた息を吐きだす。
ゆっくりと深呼吸を繰り返して、夜の冷気を胸一杯に迎え入れた。
「こんな遅くにごめんね。そろそろ部屋に戻るよ」
「……無理してねえか?」
「少し落ち着いたから平気。それにファウスマラクトの討伐が控えているから、あまり夜更かしもしていられないしね」
そう言って、クリームヒルトは気丈に笑みを浮かべた。
退室する際に振り返りたい欲求に駆られたが、これ以上情けない姿を見せるわけにはいかないと強引に押し殺す。
まだ耐えられるはずだと自分に言い聞かせ、明日に備えて僅かな休息を取った。




