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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
三章 

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アーサーとオリヴィア



「では見て分かった通りだ。私は――――弱い!! そこのお嬢さんよりも遥かに、だ!! ……だから、怒りに任せて私を殴ろうなどと思うなよ? 死ぬぞ? ――――私がな!」


 と、アーサーはなぜかドヤ顔でそう言った。



 明と奈緒、二人の沈黙が部屋の中に広がる。

 そんな二人の様子に、アーサーは少しばかり寂しそうな顔をすると、


「スルー、か。……ふむ。いつも私にツッコミをしてくれていた彼女がいないと、こうも寂しいものなのだな。失ってようやく気が付くものがあるとはよく言うが、まさにその通りだ……」


 そう言って、しんみりとした顔で微笑みを浮かべて見せた。



 明は、そんなアーサーの様子をじっと見つめた。

 生来のものか、それとも演技か。どちらにせよ捉えどころのないその態度は、十分に胡散臭い。会話を通してこちらの油断を誘っているようにも思えるし、何かの目的があって探りを入れているようにも思える。これまでの言動から察するに、アーサーには仲間がいたようだが今は1人のようだ。


 明はアーサーから視線を外すと、奈緒へと目を向けた。



「奈緒さん。この人、どうします?」

「考えるまでもないだろ。敵だろうが敵じゃなかろうが、コイツの話を聞く必要はない。怪しすぎる」

「ええ、それは俺もそう思います」

「二人とも、そういう相談は当人のいない場所か、聞こえない場所でするべきだ。そして、その時はぜひ、オジサンの評価をオブラートに頼む。オジサンは見た目に反して心がガラスのように脆いのでね。うっかり聞こえてしまった時には、しばらくは立ち直れないかもしれない」

「…………それで。一条は、現実の武器になりそうな物に鑑定を使いたいって言ってたよな? それなら、この銃ならどうだ」


 奈緒はアーサーの存在を丸ごと無視することにしたようだった。アーサーとの出会いを無かったことにしたかのように、途切れていた鑑定に関する話題を再開させると太股にぶら下がる拳銃を掲げた。


「銃以外に、ナイフもあるぞ。好きな方を選ぶがいい」


 すると、アーサーが当たり前のように会話に加わってくる。

 明は、アーサーに向けてちらりとした視線を向けたが何も言わず、奈緒へとその視線を戻すと口を開いた。



「確かに、銃なら比較にはなりそうですね。鑑定してみます。…………銃の攻撃力は+2ですね。耐久は3……。やっぱり、モンスターの持つ武器とは比べ物にならないみたいです」

「なるほど……。では、私のナイフはどうだ?」

「もう少し別の道具にも鑑定してみてくれないか? 例えば、この部屋にある服とか。耐久値が高ければ、鎧の代わりになるんじゃないか?」

「なるほど、確かに。試してみます」

「ふーむ、よくない。よくないぞ! 無視はよくないなぁ!」


 アーサーがわざとらしく声を張り上げたが、明たちは目を向けることなく部屋の中にある衣服へと鑑定を使った結果を話し合う。


「服の耐久はどれも1ですね……。着眼点は良かったと思うんですが、それこそ防弾とか防刃ベストとかじゃないと耐久値が変わらないのかもしれませんね」

「防刃や防弾か……。確か、軽部さん達自衛隊が着ていたベストは防弾ベストじゃなかったか?」

「ああ、そう言えばそうですね。戻った時に試してみます」

「……何? 私がふざけすぎたからだ、だと? ハハハ、確かに。オリヴィアの言う通りだよ。つい、いつもの癖でやりすぎてしまったようだ」



 あまりにも無視しすぎたからだろうか。何もない空間へ向けて、一人芝居を始めたアーサーへと、明達はそろって視線を向けた。それから、どちらともなく顔を見合わせて大きなため息を吐き出すと、奈緒が小さな声で呟いた。



「一条。あの人、私たちが相手をしなければずっとあの調子みたいだぞ。さすがに、怪しいを通り越して少しウザくなってきた」

「……そうですね。ひとまず、さっさと話を聞いてお引き取り願いましょうか」


 明は奈緒に向けて小さく頷く。それから、一度咳払いをするとアーサーへと向けて声を掛けた。


「……あの」

「ん? どうした一条明くん」


 一人芝居をやめて、アーサーが明の言葉に振り返った。


「……一条でいいです。結局、何の用があって近づいてきたんですか? 本当にただ、驚かすつもりだったなら、目的は達成したでしょ」

「ああ、うむ。それはついでだ。本当の目的は別にある」



 そう言って、アーサーは居住まいを正すと、背後へと視線を向けて軽く頷いた。まるで、誰かから声を掛けられて、その声に反応しているかのようだ。ときおり、「わかってる」「もう大丈夫だ」と言った言葉がアーサーの口から漏れ出ているのを見るに、見えない誰かがそこに居るのは間違いないのだろう。



「実は、ウェアウルフを倒した君たちにお願いがあるのだ」

「…………見てたんですね」


 静かに、明は言った。

 その言葉に、アーサーは頷いた。


「ちょうど、私が見たのは君たちがウェアウルフの身体を真っ二つにするところだった。それを見て、確信したのだ。君たちと一緒になら、娘を取り戻せるかもしれないと」

「娘? 取り戻すって、いったい誰から――――」



 明の言葉は、最後まで続かなかった。扉の外で蠢くモンスターの気配を察知したからだ。



「……どうやら、その話はアイツらを片付けてから聞くことになりそうだ。扉の外に、結構な数のモンスターが居る」

「……みたいだな」


 奈緒も、モンスターの鳴き声を耳にしたのだろう。表情を改めるようにして真剣なものへと切り替えると、ホルスターから拳銃を引き抜いて構えた。


「どうする? 窓から外に逃げるか?」


 窓の外を見ながら奈緒は言った。


「こっちはまだモンスターがいない。逃げるなら今だ」

「……いや、よく見てください。暗くて見えにくいですが、そこら中に蜘蛛の巣が張り巡らされてる。巨大蜘蛛のものでしょう。あの糸に掛かって逃げ出すことが出来るのかも分からないし、下手に窓から逃げないほうがいいと思います」



 言われて、奈緒は張り巡らされた蜘蛛の糸に気が付いたようだ。小さな舌打ちをすると、窓から視線を外して明を見つめた。



「それじゃあ、どうする? 一気に扉の外の奴らを叩くか?」

「そうですね……。それが手っ取り早いし、確実かもしれない。このままじっとしてれば、そのうち扉を破られて部屋の中になだれ込んでくるかもしれないし……。先手を打ってこっちから仕掛けるのはアリですね」

「よし、それじゃあ――――」


 と、奈緒が口を開いたところで明は奈緒を止めるように手を挙げた。


「待った。奈緒さんは、戦闘に参加しないでください。……奈緒さん、今の魔力で魔法を使えばどうなるのか、試してないでしょ? 奈緒さんが魔法を使った途端、下手をすればこの部屋が吹き飛びかねません。だから、ここは俺が何とかします」

「何とかって、お前……! まだ、ウェアウルフとの傷が!!」

「それは、まあ。どうにかなるでしょ」


 言って、明は笑った。


「雑魚を相手にするぐらいなら、平気ですよ」

「でもっ!」

「ふむふむ。では、扉の外のモンスターは私が――いや()()()が相手をすることにしよう」



 二人の間に声が割り入ったのは、そんな時だった。声の主はもちろん、アーサーだ。

 アーサーは、顎髭を撫でつけるとニヤリとした笑みを浮かべる。



「私達の力を、君たちに見せつけるいい機会だ。どーんと、大船に乗ったつもりで任せてくれ」

「任せてくれって、あんた……。この街のモンスターの強さを知ってて言ってるのか? 筋力も速度も、あんたのステータスよりはるかに上だ。今までは隠密で隠れてきたのかもしれないが、まともに正面から戦って、あんたがモンスターに勝てるはずない。……それとも、持ち前の固有スキルでどうにか出来るっていうのか?」


 明はアーサーの目を見つめながら尋ねた。

 すると、その言葉にアーサーが笑い声を上げる。


「ハハハハハ! どうやら、君の解析は私のスキルを看破するまでにレベルを上げているようだね!! ならば話が早いな。そして、このタイミングであえて、改めて自己紹介をしておこう!! 私の名前はアーサー・ノア・ハイド。気軽に、アーサーと呼んでもらって構わない。そしてこっちが――――」


 言って、アーサーは背後へと視線を向けた。その空間が陽炎の様に揺らぎ、すぐに人の形を作ると半透明に透けたその身体が浮かび上がってくる。



「――――っ」



 明は思わず、息を止めた。アーサーの持つ力を知ってはいても、実際に目の当りにするその存在に驚いたからだ。



 アーサーの背後に現れたのは、若い女性だった。歳の頃は二十代半ばだろうか。アーサーと同じく、東洋人とは思えない顔立ちをしている。身に付けた衣服はワンピースのようだが、その足元は薄っすらと消えて、途切れているのが見えた。


「妻の、オリヴィアだ」


 その言葉に、オリヴィアと呼ばれた彼女はニコリと微笑んで、明たちに向けて小さくお辞儀をした。


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