VSウェアウルフ
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前回、敗北したモンスターです。
クエストが発生します。
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C級クエスト:ウェアウルフ が開始されます。
クエストクリア条件は、ウェアウルフの撃破です。
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ウェアウルフの撃破数 0/1
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同時に、明の眼前にはその画面が表示される。
その画面に目を奪われていると、明の全身が一気に粟立ち、ウェアウルフがこちらへと視線を向けたことに気が付いた。
まるで獲物を見つけたと言わんばかりに、ニタリと笑みを浮かべるその表情は、ウェアウルフの残忍さを物語っている。
(――――マズいッ!)
自身が置かれた状況を悟るのと、その言葉を口にするのはほぼ同時。
「疾走!!」
瞬間、すでに眼前へと迫っていたその拳を明は反射的に躱した。
だが、ウェアウルフの攻撃は止まらない。さらにもう一度、下から撃ち抜かれるように振るわれたその拳を明は寸前で避けると、伸びたウェアウルフの腕を片手で掴み、地面に叩きつけるように放り投げた。
「ゲハハハハ!」
ウェアウルフの口から笑っているかのような声が漏れた。
地面に叩きつけられる寸前、ウェアウルフは身体を捻り、地面へとその片手を付いて受け身を取ると、全身のバネを活かして跳びあがるように明たちの元から距離を取った。
「――ッ! 奈緒さんッ!! 一度離れて!!」
叫び、明は斧を両手に握り締めると、一気に前へと飛び出す。
対して、ウェアウルフもまた前に出てきていた。
斧と爪。
両者の持つ武器が激しくぶつかり、甲高い音と共に、赤い火花が夜の街に舞い散る。
明とウェアウルフは至近距離で互いを睨み合うと、どちらともなく腰を捻ってハイキックを繰り出した。
――ゴッ!
肉をぶつけあう短い音。
同時に発生する凄まじい衝撃がビリビリと明の足を痺れさせて、ミシリと骨のひび割れる感覚を覚えた。
(――くそッ! アイツの筋力に対してこっちが耐久負けしてるから、直接打ち合うには分が悪すぎる!!)
瞬時に働き始める自動再生の恩恵を感じながらも、明は短く舌打ちをした。
(やっぱり、斧か剣で攻めていくしかないか!)
鈍い痛みを明は奥歯を噛みしめ我慢する。
そうしながらも、明は素早く斧を振るうとウェアウルフの身体を斬りつけた。
(浅いッ!)
刃が届く寸前でウェアウルフが身を引いたのだろう。
薄皮を裂いたような手応えのないその感触に、明はまた舌打ちをした。
「グルァ!」
対して、ウェアウルフもまた明を強敵と認めたようだ。
明の身体を打ち抜かんと、握りしめた拳を振るってくる。
明は、その軌道を瞬時に見極めると、戦斧を構えてその拳を受け止めた。
「ッ!」
しかし、ウェアウルフの攻撃はそれで終わりではなかった。
拳を振るったかと思えば瞬時に次の攻撃へと移り、明を横薙ぎに蹴り飛ばそうとしてくる。
その蹴りも、明は戦斧でどうにか防いだが、そのあまりの威力に押されるようにして身体が僅かにふらついた。
「ガァ!」
その隙を、ウェアウルフは見逃さなかった。
地面を蹴り跳び上がると、明の頭蓋を叩き割らんと片足を大きく振りかざして踵を落としてくる。
「――――っ!?」
全身の産毛が逆立った。
予行演習として挑んだ前世において、この攻撃で頭蓋を割られて死んだことを明は思い出した。
しかしだからこそ、一度経験したその攻撃に反応出来た。必死に身体を捻るようにして、ウェアウルフのその攻撃から回避する。
――ドゴォンッ!!
振り下ろされたその踵は、明の身体を捉えることなく地面に突き刺さった。
凄まじい威力と衝撃に、アスファルトの舗装路は砕かれ石片が周囲に舞う。
明は、その石片から身を庇うようにして背後へと跳び退ると、素早く体勢を整えながらゆっくりと息を吐き出した。
「ふぅー…………」
頬に伝う汗を拭い、斧を構え直す。
(疾走を使うことで、あの攻撃は見切ることが出来たな。だけど、これもそう何度も出来るわけじゃない。疾走は使えば使うほど、俺の魔力を消費しその効果が落ちていく……。今はまだ、速度がアイツよりも上だから攻撃を見切れているけど、戦いが長引けばこっちが不利だ)
明は心の中で呟くと同時に、疾走の言葉を吐き出し残り時間を確認した。
(――――最初の疾走が終わるまで、残り12秒。次が、一度目のラストアタックだ)
心に決めて、明は両足に力を込める。
そして、
「ふッ!」
と息を吐き出すと同時に地面を蹴って、ウェアウルフの元へと駆けた。
「っ、あぁッ!!」
間合いを詰めると同時に斧を振り払い、ウェアウルフの両足を切断しようと試みる。
ウェアウルフは明の行動にすぐさま反応を示すと、地面を蹴って跳び上がった。そして、すぐさま反撃に転じようと空中で腰を捻り、そのまま回し蹴りを放とうとするが、明の方が速い。
「ッ!!」
明は瞬時に体勢を整えると、今度は斧を振り上げるようにその刃を煌かせた。
「グッ、ガァ!?」
刃はウェアウルフの身体を逆袈裟から斬り裂いた。
しかし、刃は骨を断つまでには至らない。ウェアウルフの耐久が、明の筋力と戦斧の切れ味をもってでも越えられないほどに高いのだ。
しかし、それでも確実なダメージは与えている。
その証拠に、ウェアウルフは背後へと吹き飛ばされるように地面を転がると、斬り裂かれた胸元からボタボタと血を垂れ流しながら身体を起こした。
「グルルルルルルル…………」
怒りに燃えるその瞳が、明の姿を捉える。
明は、自身に掛かった疾走の効果が無くなることを感じると、すぐさまもう一度、疾走スキルを発動させた。
(――――これで、俺の疾走状態の速度は526から516へと低下した。アイツの速度が、412だから……。まともに戦える残り時間は、せいぜい10分。その間に、どうにかしてアイツの動きを止めないとな)
ちらりと、明は背後へと視線を向けた。
そこには、血の気を失くして腰が砕けたように座り込んだ奈緒の姿があった。
どうやら、ウェアウルフの発する殺気とその重圧に完全に圧されているようだ。さらに言えば、トラウマによるフラッシュバックも併発しているのか、その瞳孔は見開かれて細かく揺れ動き始めていた。
(――――奈緒さんも、そう長い間持ちそうにない)
固く唇を噛みしめて、明はウェアウルフを睨み付けた。
「ふー……」
そして、戦闘に意識を集中させるように長い息を吐き出し、止める。
「――っ」
直後、弾かれたように明はウェアウルフの元へと飛び出した。
「うぉおおおおおおおおッッ!!」
瞬く間にウェアウルフとの距離を詰めると、明はその手に持つ戦斧を振り抜く。
――――その、瞬間だった。




