牛男
非常灯の照らされた部屋の中で、明と奈緒は互いのことを全て打ち明けた。
奈緒は、明の語る内容の中でもクエストやトロフィーといった単語にまず驚き、深い興味を示していた。
やはりと言うべきか、クエストやトロフィーといったものは一条明にだけ与えられたものだったらしい。奈緒も、生き残った人々とこれまで情報交換をしてきたらしいが、そんな話はこれまで聞いたこともないと首を横に振っていた。
明はさらに、それらによって生じたステータスの変化と、獲得した大量のポイントを消費して取得したスキルを述べていく。
そうして、明が自分の持つ全てのスキルを打ち明けると、奈緒は一度納得するように頷いた。
「……なるほど、な。ただタイムリープを繰り返しただけで、あのミノタウロスを倒したわけじゃなかった、というわけか」
「……それで、奈緒さんのことですが」
「ああ、分かってる。私のステータス項目は――――」
「いえ。実はもう、そのあたりのことは済ませました」
「……いつの間に。ああいや、そうか。さては、私が寝ていたあの時だな?」
その言葉に、明は無言で肯定を示す。
奈緒は小さなため息を吐き出すと、明へと咎めるような視線を向けた。
「プライバシーの侵害だ」
「まさか。ステータスですよ? 解析さえあれば、誰だって見ることが出来る」
「そのステータスが、今は個人情報となんら変わらないだろ。許可なく覗くのは、感心しない」
「そりゃまあ、そうですけど」
明は、奈緒の言葉に唇を尖らせた。
奈緒は、そんな明の様子にため息を吐き出して口を開く。
「……まあ、でもだからって、覗かれることを防ぐ手段が今のところ無いんだ。それに、覗かれた方も解析されたことが分からない。プライバシーの侵害は心外だが、この状況でそれを咎めることなんて、出来やしないか」
そう言うと、奈緒は明の目を見つめた。
「――しかし、お前も気を付けろ。今はここに居る自衛隊員しか知らないが……。他の奴らから解析でもされれば、今以上の厄介事に巻き込まれるぞ。ただでさえ、お前は牛男だって言われて、有名なんだ」
「――――は? 牛男?」
奈緒の言葉に、明が呆けた声を出した。
奈緒はそんな明の言葉に少しだけ怪訝な顔をして、やがて何かに思い当たるような納得をした表情となるとすぐに口を開いた。
「ああそう言えば、お前自身は知らなかったか。……あの夜、ミノタウロスを倒すお前の姿が、あのあとすぐにSNS上に晒されたんだ。たぶん、あそこに居た誰かが動画を撮っていたんだろうな。手ぶれが酷くて、正直見ていられたものじゃなかったが……ハハッ、正直よく撮れてるなって思ったよ」
「いや、だからって誰がそんなことを……」
「その動画が拡散された時に、誰かが言い出したんだよ。猛牛を倒したサラリーマン――牛男だってな。他には、そうだな……。私が見た限りでは、『ミノ男』って言ってるやつもいたし、『素手で牛を殴り殺そうとするヤバいヤツ』って言ってるやつもいたな。まあ、その中でも私が一番気に入ってるお前の異名は『バッファ〇ーマン』だ。あれは、お前が素手でミノタウロスと戦っていたのを考えても、いい異名だったと思う」
そう言って、奈緒は一度言葉を止めると、ニヤリと笑う。
おそらく、寝ている間に解析をしたことによる仕返しのつもりなのだろう。
ニヤニヤとした笑みを浮かべる奈緒は、さらに言葉を続ける。
「軽部さんも言っていたが、他のヤツがボスを倒したって画面は出てきてない。つまり、他の奴にはまだ、ボスを倒せるほどのステータスじゃないってことだ。解析されれば一発だろうな。お前が、噂の『牛男』だってことは」
ことさらに『牛男』の単語を強調しながら、奈緒は言った。
「奈緒さん、あの、勝手に解析したことは謝りますから……。その名前はちょっと……」
「なんで? 良いじゃないか、牛男。カッコイイぞ」
(くっそ……。完全に面白がってるなこの人……。まさか、言い出しっぺはこの人とかじゃないよな!?)
明は、奈緒へと胡乱な目を向けると、やがて大きなため息を吐き出した。
「――――とにかく、解析されないようには気を付けますよ」
とは言っても、今のところ他人からの解析を防ぐ手立てはない。
それは、膨大なポイントを消費して取得できるスキルの数々を見た明だからこそ知っていることだ。
「話を戻しますよ」
咳払いをして明が言ったその言葉に、奈緒は表情を正すと真剣な目を向けた。




