ミノタウロスの報酬
折り取った二本の角は、まだ温かく、根元から血が滴っていた。明はそれを新聞紙で包み、背負っていたリュックに慎重に収める。
「『解体』か……久しぶりに使うな」
明は呟きながら、スキルを発動させた。手に青白い光が宿る。これは魔物の身体構造を瞬時に把握し、最も効率的な解体手順を導き出すスキルだ。光に導かれるように、明の手が動き始めた。
まず、包丁でミノタウロスの皮に切れ込みを入れる。『解体』スキルが示す線に沿って刃を走らせると、硬い皮が嘘のようにするりと剥がれていく。三枚分の皮を丁寧に剥ぎ取り、血を拭き取ってから丸めてリュックに詰めた。
次に腱を取り出す。ミノタウロスの強靭な筋力を支えていた腱は、弓の弦や高位武器の素材として重宝される。アキレス腱から二本分を切り出し、これもリュックへ。
「血液も必要だな」
明は空のペットボトルを取り出し、まだ新鮮な血を採取した。獣の血は錬金術や魔法薬の材料として使える。500ミリリットルのボトル二本分を確保し、しっかりと蓋を締めてリュックに入れた。
最後に、小さく光る石を死体の胸部から取り出した。――魔石だ。世界反転率が低く、まだ成長しきっていない親指大の小さな結晶だが、これが最も価値がある。
リュックを持ち上げてみる。角二本、皮三枚、腱二本、血液ボトル二本。かなりの重量だが、まだ少し余裕がある。明は周囲を見回し、道端に落ちていたビニール袋を拾った。その中に魔石と、予備の包丁、そして解体の際に出た残りの素材――骨片や使えない部分の肉片なども袋に入れた。後で何かの役に立つかもしれない。
(ギリギリ入ったな。リュックがパンパンだが)
リュックのジッパーを閉め、背負ってみる。ずっしりと重いが、今の筋力値なら問題ない。
「インベントリ」
明が呟くと、目の前に半透明のウィンドウが現れた。五つの登録枠が表示された、簡素なものだ。このシステムを使用することで、選んだアイテムを次の周回開始時に引き継ぐことができるようになる。
(インベントリの登録枠は五つまで。だが、容器にまとめて入れたものは『一つのアイテム』として認識される)
これも十八回にもおよぶ周回の最中に見つけた、裏技の一つだ。
明は素材の詰まったリュックと、ミノタウロスの戦斧をインベントリに登録した。
(これで斧と、リュックに詰めた全ての素材を次の周回に持ち越せる。特に角と魔石は、高位の武器製作には欠かせない。血液も魔法薬の調合に必要だし、皮と腱は防具の材料になる)
インベントリに登録されたアイテムは、容器の中身も含めて、全てが次の周回開始時に明の手元に現れる。この特性を利用すれば、周回を重ねるごとに強力な装備を蓄積していくことも可能だった。
とはいえ、今はまだそれらを使う時ではない。明は戦斧を肩に担ぎ、素材の入ったリュックを背負い直した。
「さて、次は……」
荷物が増えれば機動力が下がる。
まずは、その問題を解決しなければならない。
明はスキル一覧を開いた。現在のポイントは60。ポイント3つで『解体』スキルを取得したが、ミノタウロスを倒して得た大量のポイントは、まだまだ残っている。
明は画面を操作して、3ポイントを消費すると『収納術』スキルを取得した。続けてスキルレベルを上げていく。
レベル2に3ポイント、レベル3に3ポイント、レベル4に3ポイント……延々と続く作業だが、これも必要な投資だ。レベル10に到達するまでに、合計で30ポイントを消費した。
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スキル:収納術Lv10を取得しました。
条件を満たしました。
上位スキル:亜空間収納術 の取得が可能になりました。
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「よし、これで……」
明はさらに30ポイントを投入し、『亜空間収納術』スキルを取得した。
瞬間、明の前に黒い渦のような空間が現れた。手を差し入れると、まるで水面に触れるような感触がある。しかし、その向こうには確かに別の空間が広がっていた。
「懐かしいな、この感覚」
明は背負っていたリュックとミノタウロスの戦斧を黒い渦の中に放り込んだ。重さを感じることなく、アイテムが渦の中に消えていく。
手を引き抜くと、渦は消えた。明が意識を集中すると、再び渦が現れる。手を入れて探ると、先ほど収納したリュックと戦斧が確かにそこにあった。
(これで身軽になった。このスキルがあれば、戦闘中でも瞬時に武器を取り出せる)
合計で60ポイントも消費してしまったが、後悔はない。亜空間収納術は、これからの戦いに欠かせないスキルだ。
「ステータス」
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一条 明 25歳 男 Lv13(31)
体力:62(+32Up)
筋力:108(+42Up)
耐久:77(+12Up)
速度:98(+32Up)
魔力:17【24】(+12Up)
幸運:32(+12Up)
ポイント:0
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固有スキル
・黄泉帰り
システム拡張スキル
・インベントリ
・シナリオ
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スキル
・戦闘感覚Lv1
・身体強化Lv2
・解体Lv1
・収納術Lv10 (MAX)
・魔力回路Lv1
・魔力操作Lv1
・剛力Lv1
・疾走Lv1
・魔力撃Lv1
・短剣術Lv1
・亜空間収納術Lv1
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ダメージボーナス
・ゴブリン種族 +3%
・虫系モンスター +3%
・狼種族 +3%
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(ポイントは全て使い切った。『身体強化』や『魔力回路』のレベル上げは諦めるしかないか。でも、異次元収納の利便性を考えれば、これが最善の選択だ)
明は満足げに頷いた。総合レベルが31まで跳ね上がり、各能力値も飛躍的に向上している。特に『大物食い』トロフィーの恩恵が大きい。
明は腕時計を確認した。午前0時35分。世界が変わってから、まだ20分しか経っていない。この時間帯なら、まだ大半の人々は状況を理解できていないはずだ。
明は街の中心部へと走り始めた。目的地は、駅前の繁華街。そこには今頃、大量のゴブリンが侵入しているはずだ。この世界を効率よく攻略していくなら、まずはそこに居るはずの彼女を救わねばならない。
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ミノタウロスの毛皮
・分厚く硬質な皮。防具素材として優秀で、斧や槍の衝撃にも耐える。盾に仕立てれば三撃は持つ――それ以上は保証できない。
・分類:魔物素材
・魔素含有量:1~3%
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ミノタウロスの腱
・乾燥させれば鋼線並みの強度になるが、湿気を含むと脆くなる。弓弦に使うと二十射は耐えるが、それ以上は切れる。油で処理しておけ。
・分類:魔物素材
・魔素含有量:1~3%
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ミノタウロスの血液
・高い生命力を宿し、薬や儀式素材に用いられる。煮詰めれば強壮剤になるが、分量を誤れば内臓を焼くことになる。
・分類:魔物素材
・魔素含有量:2~4%
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収納術Lv1
・パッシブスキル
・袋詰めが上手くなる。スキルレベルが上がると、もっと上手くなる
・取得条件:ポイント3で獲得(本来は5ポイント)
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亜空間収納術Lv1
・アクティブスキル
・個人用の亜空間を所持する。亜空間に収納できるアイテム数と重量は、スキルレベルに依存する。
・取得条件:収納術Lv 10に到達。ポイント30で獲得(本来は60ポイント)
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