準備完了
――チリン。
明け方近くになって、ようやくクエストが終了した。
10ポイント獲得したことを知らせる画面を消して、明はドカリとアスファルトの上に座り込む。
(やっと終わった……。やっぱり、空を飛ぶモンスターは苦手だ。攻撃手段が限られる)
明は手に入れたポイントを割り振るべく、ステータス画面を開いた。
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一条 明 25歳 男 Lv3(10)
体力:21
筋力:27
耐久:26
速度:27
魔力:3
幸運:11
ポイント:21
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固有スキル
・黄泉帰り
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スキル
・戦闘感覚Lv1
・身体強化Lv1
・魔力回路Lv1
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ダメージボーナス
・ゴブリン種族 +3%
・昆虫系モンスター +3%
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キラービーのクエストを進めている最中に、明は『身体強化』を獲得していた。
さらには『虫嫌い』というトロフィーを獲得したことで、昆虫系のモンスターにはダメージボーナスが発生するようになっている。
大量のポイントは、前回のゴブリンのクエストで得たものと、今回のキラービーのクエストで得た結果だ。
明は画面を見つめて呟いた。
「順調だな」
死亡回数は最小限。獲得ポイントは最大限。
このペースなら、ミノタウロス戦までに40ポイント以上は確保できる。過去の周回と比較しても、圧倒的な効率だった。
(『身体強化』のスキルレベルを上げておこう)
スキル習得コストが半減したとはいえ、レベルアップには依然として大量のポイントが必要だ。『身体強化』をLv2にするのに必要なのは10ポイント。今回稼いだ分が全て消える。
それでも、明は躊躇しなかった。
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スキル:身体強化Lv2を取得しました。
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『身体強化』のスキルレベルを上げた。
次のクエスト対象を倒すには、この強化が不可欠だった。
変化したステータスを確認し、ウィンドウを閉じる。残りのポイントには手を付けない。使い道は既に決まっていた。
「次はボアだ」
明は呟き、意図的にボアの牙にかかった。
◇
ボアとの戦いは、キラービーとは違い単純なものだった。
『戦闘感覚』によって攻撃のタイミングを見切り、躱し、ゴブリンから奪った棍棒で反撃する。
ボアの耐久値は30と高いが、『身体強化』スキルのレベルを上げた明の筋力値のほうが上だ。いくら硬い毛皮を持つボアといえど、今の明の敵ではない。
ドゴッ!
「ピギィ!」
棍棒で横っ面を殴られたボアが、悲鳴を上げて逃走を図る。だが速度でも明が勝っていた。
追撃して、すかさず振り下ろす。
ドゴッ! ドガッ、バキッ!
「ブ、モォオ……」
棍棒で滅多打ちにされたボアが、ついに息絶えた。
これで100匹目。無事、クエストクリアだ。
ポイント10を獲得した画面を確認すると、明は手にしていた棍棒を投げ捨てた。
空を見上げて、疲労を押し出すかのように細い息を吐き出す。
「ステータス」
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一条 明 25歳 男 Lv5(14)
体力:25
筋力:61
耐久:60
速度:61
魔力:7
幸運:15
ポイント:25
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現在の総合レベルは14。
ポイントは十分にあり、各能力値の数字も申し分ない。『疾走』や『剛力』などといった能力値上昇系のスキルを取得すれば、今すぐにでもミノタウロスを倒すことができる。
(どうしようか)
明は画面を見つめて考えた。
まだ、この街のモンスターでクエストを発生させる余地がある。
(発生させることが出来るクエストは……レベル15のロックバード、レベル17のブラックウルフか……。どちらもE級で、報酬は10ポイントだな)
残機を一つ捨ててでもやるべきか、やらざるべきか。
明は画面を見つめたまましばし黙考し、やがて結論を出した。
「……やっておくか」
序盤のポイントは貴重だ。貰えるものは貰っておいたほうがいい。
明はその足で街をふらつき、見つけたモンスターの前に姿を現し、殺された。
明が選んだのは、ブラックウルフだった。
レベルのことを考えればロックバードを相手にクエストを発生させるのが一番だったが、現状対処は困難だ。今の明には、空飛ぶモンスターへの攻撃手段がない。
その点、地上を駆けるブラックウルフなら何とかなる。多少の速度差は『戦闘感覚』でどうにかなるし、群れで行動する習性も効率的な狩りには好都合だった。
「ガウッ!」
群れの中の一匹が飛び出してくる。
明はその動きを『戦闘感覚』によって予測し、ブラックウルフが次に飛び掛かってくるであろう場所に向けて、全力で棍棒を振り払った。
バキッ!
「キャインッ!」
すると、まるで吸い込まれるようにして飛び込んできたブラックウルフが、その顔面に強烈な一撃を受けて、地面に転がった。
すかさず明は地面に倒れたブラックウルフへと駆け寄り、そのどてっ腹を思いっきり蹴り飛ばす。
野蛮な戦い方だ。けれど、現状はこの戦い方しかできない。
この街に現れるモンスターは、武器を持たない獣系ばかりだった。武器を手にして戦うのは、ゴブリンとミノタウロスだけ。
武器を作るための素材を集めるのにも時間がかかるし、『武器製作』で武器を作ろうにも『インベントリ』のない今は、次のループ先へと武器を持ち込めない。
そう考えると、最も時間効率が高いのは、開始早々に出現したばかりのゴブリンを襲って棍棒を奪い、その棍棒を手にクエストモンスターを倒し続けることだった。
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E級クエスト:ブラックウルフ が進行中。
討伐ブラックウルフ数:100/100
E級クエスト:ブラックウルフ の達成を確認しました。報酬が与えられます。
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クエスト達成報酬として、ポイントを10獲得しました。
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「これで、この街でできることは全部終わりだな」
明はクエストの終了画面を見つめて、呟いた。
「ゴブリン、キラービー、ボア、ブラックウルフ……。残機4つを消費して、クエストで獲得したポイントは40。レベルアップが18回。総獲得ポイントは、しめて58ポイントか」
ブラックウルフを一定数倒したおかげで、狼種族に有効な『狼狩り』のトロフィーも手に入った。
しかし残念だったのは、ミノタウロスにも有効な『狩人』というブロンズランクのトロフィーを獲得することができなかったことだ。そのトロフィーさえあれば、獣系モンスターに対してダメージボーナスが+5%も発生するようになる。
(あのトロフィーを獲得するには、500匹以上の獣系モンスターを狩り続けないといけない。今はそんな余裕がないから、諦めるしかないな)
それでも、勝算は十分だ。
明は画面を見つめて、満足げに微笑んだ。
「次はミノタウロス戦に備えないとな」
明は手に入れたポイントを使用するべく、さっそくスキル一覧を開いた。
『疾走』スキルと『剛力』スキルを選択し、取得する。二つ合わせて10ポイントの消費だ。明はさらに続けて4ポイントを消費すると『魔力操作』スキルを手に入れた。
――残り21ポイント。
しばしの間、黙考する。
それから自身のスキルビルドの方針を固めると、明は10ポイントを消費して『短剣術』を、そしてさらに10ポイントを消費して『魔力撃』を取得した。
明はできあがった自分のステータス画面を見つめた。
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一条 明 25歳 男 Lv5(19)
体力:30
筋力:56
耐久:55
速度:56
魔力:12
幸運:20
ポイント:1
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固有スキル
・黄泉帰り
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スキル
・戦闘感覚Lv1
・身体強化Lv2
・魔力回路Lv1
・魔力操作Lv1
・剛力Lv1
・疾走Lv1
・魔力撃Lv1
・短剣術Lv1
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ダメージボーナス
・ゴブリン種族 +3%
・虫系モンスター +3%
・狼種族 +3%
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「悪くないな」
このスキル構成なら、ギガント以下のボスなら楽に相手することができるだろう。
明は画面を消すと、大きく伸びをした。
ここからが本当の始まりだ。
ミノタウロスを倒せば、『黄泉帰り』のセーブ地点が更新される。それはすなわち、この世界の運命が変わり始めるきっかけでもある。
(今回は失敗しない)
明は頬を叩いた。
決意は固いが、気負いすぎてもいけない。それが自分の悪い癖でもあることを、今の明は十分に理解していた。
明はゆっくりと街を歩き、ミノタウロスに見つかった。
そして意識を失うその瞬間まで、明はミノタウロスを凝視し続けた。
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虫嫌い
・分類:トロフィー
・ランク:ブロンズ
・取得条件:昆虫系モンスターを50匹討伐する
・効果:昆虫系モンスターからの敵対心+20
昆虫系モンスターへのダメージボーナス+3%
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狼狩り
・分類:トロフィー
・ランク:ブロンズ
・取得条件:狼種族モンスターを50匹討伐する
・効果:狼種族モンスターからの敵対心+20
狼種族モンスターへのダメージボーナス+3%
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