表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
7章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

334/351

この世界の攻略方法


 ――戦闘感覚。


 このスキルこそがまさに、明の求めていたものだった。


 『戦闘感覚』は、トロフィー限定でしか獲得することができないレアなスキルだ。通常のポイントでは決して手に入らない。


 効果は、戦闘中相手の行動が一手先まで予測できるようになるというもの。いわば、ごく限られた状況下における未来予測を可能にする。


 さらに副次効果として、このスキルには反射神経と反応速度を向上させる効果がある。単純な身体能力の向上とは違う、戦闘に特化した感覚が研ぎ澄まされるのが、このスキルの特徴だった。



(トロフィー取得の条件はかなり面倒だが、それでも、このスキルがあるのとないのとでは雲泥の差がある)



 明がこのトロフィーを初めて取得したのは、8周目の時だった。


 その時の明は、『トロフィー』システムの研究に明け暮れている最中で、周回を重ねるたびにさまざまな試行錯誤を繰り返していた。


 そうした試行錯誤の中で獲得したのが、この『戦闘の達人』だ。


 心で「ステータス」と呟き、明はステータス画面を開いた。



 ――――――――――――――――――

 一条 明 25歳 男 Lv8(1)

 体力:19

 筋力:15

 耐久:9

 速度:15

 幸運:9


 ポイント:14

 ――――――――――――――――――

 固有スキル

 ・黄泉帰り

 ――――――――――――――――――

 スキル

 ・戦闘感覚Lv1

 ――――――――――――――――――



(ようやくスキルを取得するために、ポイントを使うことが出来る)


 明は小さくため息を吐き出して、スキル取得画面を開いた。


 現在のスキルポイントで習得可能なスキルが一覧となって現れる。その中には、以前はポイント5つで取得することができた『魔力回路』の名前があった。


(周回特典の影響も無事に出てるな。ちゃんと、スキル取得に必要なポイントも半分になってる)


 明は『魔力回路』を選択し、取得する。


 

 ――――――――――――――――――

 一条 明 25歳 男 Lv8(1)

 体力:19

 筋力:15

 耐久:9

 速度:15

 魔力:1

 幸運:9


 ポイント:11

 ――――――――――――――――――

 固有スキル

 ・黄泉帰り

 ――――――――――――――――――

 スキル

 ・戦闘感覚Lv1

 ・魔力回路Lv1

 ――――――――――――――――――



(……よし。これで、レベルアップの恩恵が魔力値にも適用されるようになったな)


 ポイント5つだったものが、ポイント3つで取得できた。

 

 ずいぶんと楽になったものだ。以前はたった1つのポイントだけでも、その使い道をどうしようかと頭を悩ませていたというのに。


(まあ、そうじゃないと困るんだけど)


 でなければ、あの苦労が報われない。


 明は残りのポイントには手を付けず、画面を消した。


「さて、それじゃあ次のクエストは……」


 明は呟き、考えた。


 モンスターが現れたこの世界での攻略方法は、実は「どのタイミングで、どのモンスターに負けるか」にかかっている。


 前回の明は、タイムリミットである午後12時まで必死になってレベルアップを続けていた。しかし、それがあまりにも非効率であることを、今では理解している。


 明が持つ『クエスト』システムには特殊な発生条件がある。自分のレベルよりも同格か、もしくは上位のモンスターに殺された場合にのみ、そのモンスターを対象としたクエストが発生するのだ。


 つまり、あえて強敵に負けてクエストを発生させ、そのクエスト対象のモンスターを討伐しながらレベルアップする方が、最も効率的な成長方法となる。


 明は、どのモンスターを相手に選ぶべきかと、過去の記憶を遡った。


「……キラービーだな」


 明はすぐに結論を下した。


 キラービーは、レベル8のモンスターだ。現在の明のレベルから見れば、ギリギリでクエスト発生の条件を満たす相手となる。


 だが、それには一つ大きな問題があった。


 現時点でのキラービーの能力値が、すでに明の能力を遥かに上回っているのだ。


 レベル8のキラービーの筋力値は20。対して、今の明の耐久値はわずか9しかない。


 一撃でも受ければ致命傷は避けられない。


 体力値は19あるため即死は免れるかもしれないが、致命傷を受けて動けなくなれば、それは死と同義だ。


 しかし、それでも明には確信があった。


 次に取得できるトロフィーの内容と、その報酬を知っていたからだ。


 明は地下鉄のホームから地上へと出ると、街を彷徨い始めた。


 そして、ついに見つけたキラービーの前に姿を晒し――あえて抵抗することなく、殺された。



               ◇



 ――チリン。

 三度目の目覚めは、お馴染みの電子音から始まった。



 ――――――――――――――――――

 条件を満たしました。


 ブロンズトロフィー:二度目の死亡 を獲得しました。

 ブロンズトロフィー:二度目の死亡 を獲得したことで、以下の特典が与えられます。


 ・耐久値+5

 ――――――――――――――――――



(よし、これで耐久値が14になったな)


 明は目の前に浮かぶ半透明のウィンドウを一瞥し、それを手で払うように消した。


 キラービーの一撃。前回は耐えられなかった攻撃が、今ならギリギリ耐えられる。


 このままレベルを一つ上げ、『身体強化』を取得すれば、クエストクリアは簡単だろう。


 明は奈緒の小言を背中に受けながら会社を後にした。


 深夜の量販店。いつもの着替えに加え、今回は大量の塩を購入した。


 キラービーを倒すために必要な「素材」を手に入れるためだ。


 店を出ると、明は購入したリュックサックに塩を詰め込み始めた。ドサドサと音を立てて袋から塩が流れ込む。リュックがパンパンに膨れ上がり、肩に食い込むほどの重さになった。


(これで準備の第一段階は完了だ)


 明は重いリュックを背負い直すと、街の中心部へと向かった。時刻は午前一時を回っている。この時間帯なら、目的のモンスターが出現しているはずだ。


 記憶の中の地図を頼りに、雑居ビルが立ち並ぶ地域へと足を進める。


 薄暗い路地裏、ゴミ箱が並ぶ袋小路、人気のない駐車場。モンスターたちは、そういう場所を好んで巣を作る傾向にある。


(たしか、この辺りのはずだが……)


 明は足を止めた。


 何かが、違う。


 空気が、妙に甘い匂いを帯びている。腐った果実のような、それでいて妙に魅惑的な香り。これは――


「見つけた」


 二つの雑居ビルの間、幅三メートルほどの隙間に、それはいた。


 最初に目に入ったのは、巨大な壺だった。ウツボカズラを思わせる形状だが、大きさが異常だ。人間が二人は入りそうな大きさの壺が、地面にどっしりと鎮座している。表面は濡れたように光沢があり、毒々しい紫と緑の斑模様が不規則に広がっていた。


 壺の口は大きく開いており、その縁からは粘液が糸を引いて垂れている。中を覗き込めば、おそらく消化液で満たされているのだろう。


 だが、本当に恐ろしいのは壺本体ではない。


 触手だ。


 壺の根元から伸びた無数の蔓のような触手が、ビルの壁面を這い回っている。まるで血管のように壁に張り付き、時折ピクリと痙攣するように動く。その先端は鋭く尖っており、獲物を捕らえるための鉤爪のような形状をしていた。


 カニバルプラント――食人植物型モンスター、レベル9。


 明はゆっくりと息を吸い込み、知識を頭の中で整理した。


(異世界から来たモンスターは、現実の武器に対して高い耐性を持っている。銃弾も、刃物も、通常の物理攻撃はほとんど効果がない。だが、完全に無効というわけではない)


 例外がある。属性攻撃だ。


 火や氷、雷に毒。これらの属性を持つ攻撃は、耐性を持たないモンスターに対して絶大な効果を発揮する。たとえそれが現実世界の道具を使ったものであっても、属性そのものが持つ力は変わらない。


 火炎放射器でスライムを焼き払い、大量の水で炎の精霊を弱らせる。理論上は可能だ。もちろん、そんな装備を一般人が手に入れられるはずもないが。


 しかし、もっと身近なもので代用できる場合もある。


 塩だ。


 植物型モンスターの多くは、塩に対して致命的な弱点を持っている。高濃度の塩分は浸透圧の作用で細胞から水分を奪い、植物を枯死させる。それは異世界のモンスターであっても同じだった。


 明は慎重に距離を測った。カニバルプラントの触手の届く範囲は約五メートル。その境界線を見極めながら、じりじりと近づいていく。


 触手がかすかに震えた。獲物の接近を感知しているのだ。だが、まだ攻撃範囲には入っていない。


 四メートル。


 三メートル半。


 限界だ。これ以上近づけば、触手が襲いかかってくる。


 明は立ち止まり、リュックを肩から下ろした。ずっしりと重い塩の塊。これが、彼の武器だった。



(一発勝負だ)



 リュックの紐を握りしめ、明は大きく振りかぶった。遠心力を利用して、できるだけ遠くへ、正確に。狙うは壺の口。あの消化液で満たされた内部に、大量の塩を送り込む。


 深呼吸。


 そして――



「行けッ!」



 渾身の力を込めて、リュックを投げつけた。


 重い塩の塊が弧を描いて飛ぶ。


 カニバルプラントの反応は電光石火だった。


 触手が鞭のようにしなり、空中のリュックを絡め取る。獲物だと認識したのだ。リュックは触手に巻かれながら、壺の口へと運ばれていく。そして――


 ドボン。


 消化液の中に、リュックごと大量の塩が沈んでいった。


 一瞬の静寂。


「~~~~ッッ!!」


 次の瞬間、カニバルプラントから聞いたことのない音が響いた。悲鳴とも、咆哮ともつかない、生物の断末魔だ。


 壺が激しく震え始めた。まるで内側から何かが暴れているかのように、表面が波打つ。触手が狂ったように暴れ回り、ビルの壁を叩きつける。コンクリートが砕け、破片が飛び散った。


 明は即座に後退した。暴れる触手の攻撃範囲から逃れ、安全な距離から様子を見守る。


 カニバルプラントの苦しみは、見ていて恐ろしいほどだった。


 最初に変化が現れたのは触手だった。みずみずしく蠢いていた蔓が、見る見るうちに茶色く変色していく。まるで秋の枯葉のように、生命力が失われていく様子が手に取るように分かった。


 次に壺本体。鮮やかだった紫と緑の模様が褪せ、全体が土気色に変わっていく。表面の光沢が失われ、ひび割れが走り始めた。


 触手の動きが鈍くなり、やがて完全に止まった。力なくだらりと垂れ下がり、ビルの壁から剥がれ落ちる。


 そして最後に――


 ボトリ。


 鈍い音を立てて、巨大な壺が横倒しに倒れた。中から茶色く濁った液体が流れ出し、下水のような悪臭が辺りに立ち込める。


 カニバルプラントは、完全に枯死していた。


「よし、第一段階クリアだ」


 明は鼻を押さえながら、死骸に近づいた。仕事用の鞄からナイフを取り出し、枯れた触手や壺の一部を切り取っていく。これらは全て、次の戦いのための材料だ。


 切り取った植物片を鞄に詰め込むと、明は次の目的地へと向かった。


 近くの工事現場。モンスター騒ぎで作業員たちが避難し、今は無人となっている。明は柵を乗り越え、資材置き場へと侵入した。


 目的のものはすぐに見つかった。錆びた鉄骨。長さは約一メートル半、ちょうど槍としても、棍棒としても使えそうなサイズだ。


 明は鉄パイプを手に取り、重さを確かめた。片手で扱うには少し重いが、両手で持てば十分に振り回せる。成長した筋力値が、しかと重さを支えていた。


 次に、カニバルプラントの死骸を鉄骨の先端に巻きつけた。枯れた触手を針金でぐるぐると固定し、壺の破片も一緒に縛り付けた。見た目は不格好だが、これで十分だ。


 枯れた食人植物は、よく燃える。


 その特性は、過去の周回中でもよく利用させてもらっていた。


 明は完成した即席の武器を肩に担ぎ、再び街へと繰り出した。


 今度の獲物は、キラービーだ。


 時刻は午前二時を過ぎていた。この時間帯、キラービーは特定のエリアに出現することを明は知っていた。前回殺された記憶が、鮮明に蘇る。


 明は慎重に歩を進めた。闇に紛れ、建物の影から影へと移動する。


 キラービーは夜目が利く。下手に見つかれば、準備が整う前に襲われる可能性があった。


 ブブブ……


 低い羽音が、闇の中から聞こえてきた。


 明は息を殺した。

 ゆっくりと顔を上げ、音の方向を確認する。


 ――いた。


 街灯の薄明かりの中、巨大な蜂が宙を舞っていた。


 体長は一メートルを超える。黄色と黒の縞模様が毒々しく光り、複眼が不気味に輝いている。腹部の先端には、太い注射針のような毒針が伸びていた。あれに刺されて、前回は死んだ。


 明は鉄パイプを握りしめ、ライターを取り出した。


 カニバルプラントの枯れた死骸に火を点ける準備をしながら、タイミングを計る。キラービーとの距離は約二十メートル。まだこちらに気づいていない。


 しかし、明はあえて物陰から姿を現した。


 キラービーの動きが止まった。複眼がゆっくりとこちらを向く。敵を認識した瞬間、キラービーの翅が激しく震えた。威嚇の羽音が大きくなる。


 ――チリン。


 聞き慣れた鈴の音と共に、青い半透明のウィンドウが明の視界に展開された。


 

 ――――――――――――――――――

 前回、敗北したモンスターです。

 クエストが発生します。

 ――――――――――――――――――

 E級クエスト:キラービー が開始されます。

 クエストクリア条件は、キラービーの撃破です。

 ――――――――――――――――――

 キラービーの撃破数 0/100

 ――――――――――――――――――



 クエストのランクはゴブリンと同じE級だった。


 キラービーが動いた。


 獲物を見つけた肉食獣のように、一直線に突進してくる。翅の羽ばたきが激しくなり、風を切る音が響く。毒針を前に突き出し、明の心臓を狙ってくる――


「始めるか」


 が、明は冷静だった。


 手の中のライターを擦り、火を点ける。そして、鉄骨の先端に巻きつけたカニバルプラントの死骸に、炎を移した。


 ボゥッ!


 乾燥した植物片が、一気に燃え上がった。


 オレンジ色の炎が闇を照らし、即席の火槍が完成する。いや、これは火槍とも呼べない大きさだ。火棍といった方が正しいかもしれない。原始的だが、効果的な武器である。


 明は燃え盛る鉄棍を両手で構えた。


 『戦闘感覚』が発動する。直後、明の視界に不思議な現象が起きていた。


 キラービーの姿が、二重に見え始めたのだ。


 一つは現在の位置。もう一つは、薄く透けた残像のような姿で、少し先の位置に浮かんでいる。


 それは未来の姿だった。


 『戦闘感覚』が見せる、刹那の後のキラービーの位置。どこに移動し、どう攻撃してくるか。その軌道が、光の線のように明の目に映った。


(左に回り込んでから、急上昇。そして上から急降下して毒針を――)


 全てが見えた。


 明は火棍の先を、空中の何もない場所へと向けた。


 キラービーはまだそこにいない。だが、刹那の後には必ずそこを通る。『戦闘感覚』が教えてくれた、未来の軌道。


「ふっ!」


 明は火棍を突き出した。


 タイミングは完璧だった。


 キラービーは、まるで自分から火棍に突っ込んでいくように見えた。回避する間もなく、燃え盛るカニバルプラントの死骸に激突する。


「ギギギッ!!」


 甲高い悲鳴が夜の静寂を引き裂いた。


 炎がキラービーの身体に燃え移る。樹脂のような体液が熱で溶け、翅が炎に包まれた。火達磨となったキラービーが地面に墜落し、のたうち回る。


 ゴロゴロと転がりながら火を消そうとするが、カニバルプラントの油分を含んだ炎は簡単には消えない。やがて動きが鈍くなり、ピクリとも動かなくなった。


 焦げた臭いが辺りに立ち込める。


「一匹目」


 火棍を下ろし、黒焦げになったキラービーの死骸を見下ろしながら、明はそう呟いた。






 ――――――――――――――――――

 戦闘感覚Lv1

 ・パッシブスキル

 ・反射神経、反応速度が向上する。戦闘中の感覚が研ぎ澄まされ、相手の行動が予測できるようになる。強化の幅はレベルに依存する。

 ――――――――――――――――――


 ――――――――――――――――――

 二度目の死亡


 ・分類:トロフィー

 ・ランク:ブロンズ

 ・取得条件:『黄泉帰り』スキルが二回発動する

 ・効果:耐久値+5

 ――――――――――――――――――


 ――――――――――――――――――

 食人植物の破片

 ・カニバルプラントと呼ばれるモンスターの死骸。可燃性が非常に高く、死骸の中心には脂が詰まっているようだ。


 ・分類:魔物素材

 ・魔素含有量:0.1~0.2%

 ――――――――――――――――――




キラービーやカニバルプラントの能力値は、28話の「とある男のモンスター図鑑」で公開されてます。気になる方はご確認ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
懐かしいカニバルプラントですねー多様な使い道が便利 意外と早く死ぬのですね。回数ががっつり減った分ボス倒さずできるだけ死なずにレベルアップしていくかと思ってた
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ