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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
六章

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322/351

一条明 -0- ⑰

 


 二人は、午前中をかけて街の半分ほどを回った。


 やはり人の気配は全くなかった。建物は完璧な状態を保っているが、まるで住人だけが消えてしまったかのように静まり返っている。


「不気味だな」


 広場のベンチに座って休憩しながら、明が呟いた。


「建物や道具は全部そのままなのに、人だけがいない」


「この街にはもう、生きてる人がいないのかな」


 田村が推測した。


「アンデットはいるけど、人がいない。あの格好も、見れば元は街の住人だったのは一目瞭然だし、みんな死んじゃったのかも」


 明は周囲を見回した。確かに、生活の痕跡は感じられない。まるで展示用に作られた街のようだった。


「……ひとまず、午後は街の奥を探索してみよう。特に、あの大きな屋敷とか怪しそうだ」


 明はそう言って、街の奥にそびえ立つ立派な屋敷を指し示した。


 他の建物と比べて明らかに格が違う、石造りの三階建ての建物だった。尖塔もあり、まるで小さな城のような威容を誇っている。


「あれは……領主の館かな?」


 田村が屋敷を見上げた。


「可能性は高いな。街で一番立派な建物だし、何か重要な情報が見つかるかもしれない」


 明は立ち上がって、腰の剣を確認した。


「あそこにもアンデッドがいるかもしれない。用心しないと」


「そうだね。慎重に行こう」


 田村も短剣の位置を確認しながら頷いた。


 休憩を終えると、二人は領主の館へ向かった。


 街の奥へ進むにつれて、建物はより立派になり、道幅も広くなっていく。明らかに富裕層が住んでいた区域だった。


「ここの家も全部空っぽだ」


 田村が大きな商人の家を覗きながら言った。


「この街で何が起きたのか、生きている人が居れば聞くことが出来るのに」


「生きてる人間がいるかは分からないが……」


 明は言葉を区切って、あたりを見渡した。


「記録の類は残ってるかもしれない。たとえば、日記とか」


「日記?」


「ああ。肉屋で帳簿が残ってるのを見て、気付いたんだ。この街では、人や食べ物がごっそりと消えてるけど、記録物は残されてる。もし、この街の誰かが日記のような日々の記録を付けていれば、この街の異常の原因が分かるかもしれない」


「なるほどね」


 田村が納得したように頷いた。


「確かに、帳簿は残ってたもんな」


「ああ。特に領主の館なら、重要な記録が保管されてる可能性が高いんじゃないかと思う」


 明は屋敷を見上げながら言った。


「領主クラスの人間なら、街の出来事を詳しく記録してるはずだ」


 二人は屋敷に近づいた。正面の門は開け放たれており、庭園には手入れの行き届いた花壇がある。しかし、ここにも例の青みがかった灰が薄く積もっていた。


「門が開いてる……」


 田村が警戒しながら呟いた。


「逃げる時に開けっ放しにしたのか、それとも」


「アンデッドがいる可能性もある」


 明は剣に手をかけながら答えた。


「『危機察知』は反応してるか?」


「今のところは大丈夫だけど……館の中は分からない」


「何かあればすぐに逃げれるようにしておこう」


「そうだね」


 二人は慎重に庭園を抜けて、屋敷の玄関に到達した。重厚な木製の扉には精巧な彫刻が施されており、この街の権力者の住まいであることがうかがえる。


「扉も開いてる」


 明が扉を軽く押すと、軋みながら開いた。


 館の内部は薄暗く、高い天井と大理石の床が印象的だった。正面には豪華な階段があり、左右には各部屋への通路が続いている。そして、ここにも至る所に灰が積もっていた。


「すげー……本当に領主の館だ」


 田村が感嘆の声を上げた。


「でも、やっぱり人はいないな」


 明は周囲を警戒しながら館内を見回した。豪華な家具や装飾品は全て残されているが、人の気配は全くない。


「書斎を探そう。記録があるとすれば、そこだ」


「了解。どっちから回る?」


「まずは一階から。段階的に上に上がっていこう」


 二人は左の通路から探索を始めた。応接室、食堂、使用人の部屋——どの部屋も豪華に装飾されているが、やはり人はいない。


 そして、館の奥で書斎を発見した。


「ここだ」


 明が扉を開けると、そこには壁一面の本棚と、中央に大きな机が置かれていた。机の上には羽根ペンやインク壺、そして何冊かの分厚い書物が置かれている。


「記録がありそうだな」


 田村が本棚を見回した。


「これだけあれば、何か見つかるだろう」


 明は机の上に置かれた本を手に取った。本は、子供向けに作られた童話だった。


「『神様たちの楽園』……童話か」


 明はページを捲りながら内容を確認した。美しい挿絵と共に、神々と人間の物語が描かれている。




「『むかしむかし、神様と人間は仲良く暮らしていました。神様たちは人間に知恵を授け、人間たちは神様を敬い、みんなで幸せに過ごしていました。


 しかし時が経つにつれて、人間たちは自分たちの力で素晴らしい街や道具を作るようになりました。人間たちが賢くなると、だんだん神様のことを忘れるようになってしまいました。


 神様たちは悲しくなって、自分たちが住む新しい世界を作ることにしました。それは、もとの世界の裏側にある、とても美しい世界でした。


 神様たちは、自分たちを愛してくれる人間たちと一緒に、新しい世界に引っ越しました。そこでみんな、また仲良く幸せに暮らし始めました。


 ところが、新しい世界にやってきた神様の中には、とても悪い神様もいました。悪い神様は人間たちを怖がらせて、いじめるようになりました。


 それを見た他の神様たちはとても怒って、みんなで力を合わせて悪い神様を地底の一番深いところに閉じ込めてしまいました。


 それからは、神様たちと人間たちは、新しい世界で末永く幸せに暮らしましたとさ。おしまい』」




 明は読み終えて、複雑な表情を浮かべた。


「童話にしては、妙にリアルな内容だな」


「まさか、これって……」


 田村が呟いた。


「この世界で起きてることと関係があるのか?」


「他にも何かないか?」


 田村が机の引き出しを開けて調べ始めた。


「あった、これ見てくれ」


 田村が取り出したのは、革表紙の分厚い本だった。


「中身は……日記帳かな。この街の出来事が何か書いてあるかも」


「それだ!」


 明は童話を置いて、日記を受け取った。ページを開くと、そこには几帳面な文字で記録が綴られている。


「最後の記述は……『収穫祭前日』となってる」


 明は声に出して、最初のページから読み始めた。



「『フレリア様がお隠れになって、もう三年になる。フレリア様がお姿を現してくれないからか、我が領内では麦の収穫量が減っている』」



「フレリア様?」


 田村が首を傾げた。


「この街の守護神みたいなものかな」


 明は続きを読んだ。



「『住人達のアイデアで収穫祭を催すことになった。フレリア様は祭り好きだったから、きっとお姿を現してくれるだろう』


 『……よくない噂だ。聖皇国のヘムダル様もお隠れになったという。獣王国やその他の国でも、神々がお隠れになっているらしい。一体何が起きているのだろうか』」



「神々が姿を消してる……」


 田村が呟いた。


「さっきの童話と関係があるのかもしれない」


 明はページを捲りながら読み続けた。



「『神々がお隠れになったことで、各地で異変が起きている。魔物の活動が活発化しているとの話だ。我が領内でも、ゴブリンをはじめとする魔物たちを見かける報告が多くなってきた。特に、ライラ森林ではミノタウロスを見かけたという話も聞く。住人達を安心させるため、騎士たちには周辺の巡回を強化するよう命じた』」



「ライラ森林……俺たちがいた森の名前と同じだ」


 田村が気づいた。


「それに、ミノタウロスの話も出てる」


 明は次のページを捲った。



「『今年も収穫祭の季節がやってきた。これで三回目だ。フレリア様はまだお姿を現していない』


 『ライラ森林が魔物たちの棲み処となった。森林の中には小さな村があったが、そこにウェアウルフが住み着いているという報告があがってきた。騎士たちを派遣したが、生き残りはいなかったと聞く。犠牲になった住人達を手厚く葬るよう命じた』」



「ウェアウルフ……!! 俺たちが遭遇した魔物じゃないか」


 田村が明の声を遮り、驚いたように声をあげた。


 明はその言葉に頷き、続きを口にした。



「『魔物たちの活動範囲が広がり、縄張り争いも起きているようだ。現在、騎士たちの協力のもと街の周囲に出現する魔物たちを駆除しているが、日を追うごとに数が増えている。このままでは対処しきれない』


『今日、街の有力者たちとの会合があった。会合の結果、活発になる魔物たちに対抗するため、住人達の中でも実力のある者を集めて治安部隊を結成することになった。治安部隊の指揮には、騎士たちの中でも実力のある者が当たるよう命じた』」



 明は深刻な表情になった。


「神様が消えたことで、この世界のバランスが崩れたんだな」


「その影響で、魔物も増えてるってことか」


 明は小さく頷いた。ページを捲り、続きを口にする。



「『五回目の収穫祭が迫っている。報告では、今年の麦の収穫量は去年よりも少ないとの見通しだ。住人達の飢えも限界に近づいている。最近では魔物を調理する方法も編み出されたらしい。魔物たちを食べるなど考えたくもないことだが、これで食料事情が解決すればいいが……』」



 その一文に、表情が曇った。


「魔物を食べてたのか……」


「相当追い詰められてたんだな」


 田村もまた、表情を暗くしていた。


「続きはあるか?」



「ある。えっと……『邪教が大陸全土に蔓延している。神々がお隠れになったからといって、魔王を信仰するなど言語道断だ。住民には邪教に関わらぬよう命じた』」



「魔王?」


 田村の顔が青ざめた。


「まさか、童話に出てきた悪い神様のことか?」


「可能性はある」


 明は緊張しながら読み続けた。



「『危険な知らせだ。聖皇国の預言者が、世界の寿命が迫っていると予言した。領内でも不安に駆られた住人達の暴動が起きている。他の住人の安全を確保するために、騎士たちには暴動を鎮めるよう命じたが、騎士たちの間でも不信が広がっていると聞く。何か手を打たねば……。』」



「世界の寿命……」


「『自由都市の空が割れた。灰が降り始め、街を覆っているという。灰の正体は世界の欠片だと、ルブロス王国の賢者たちが答えを示した』」



 明と田村は顔を見合わせた。


「世界の欠片……あの青い灰のことか」



「『最悪だ。南東の丘陵地にギガントが住み着いた。あの魔物を駆除する手練れは、我が領内にも残っていない。あの魔物がこの街に向かってくるようなことがあれば、この街はもうおしまいだ』」



 明は声を震わせながら最後の記述を読んだ。



「『最悪な出来事は重なるものだ……。我が領内でも灰が降り始めた。残り少なかった食料が、灰に変わり始めている。ここも、自由都市のようになるかもしれない。……フレリア様、あなたは一体、どこにいらっしゃるのか……』」



 明は日記を閉じた。


「これで終わりだ。収穫祭当日の記録はない」


「つまり、収穫祭の最中に何かが起きて、それ以降記録を書けなくなったってことか」


 田村が眉を寄せながら言った。


「…………」


 沈黙が、書斎を支配する。


 明と田村は互いに顔を見合わせて、難しい顔になった。


 神々の失踪、魔物の跋扈、食料不足、邪教の蔓延、そして世界の崩壊——残された領主の日記には、この世界に訪れた危機と絶望的な状況が克明に記されていた。


 そしてそんな状況の中でも、街の住人達は最後の希望に縋るようにして収穫祭を迎えていたのだ。


 明は小さな吐息を漏らすと、日記を机の上に置いた。


「これで状況がある程度分かった。この街で起きたのは、神々の失踪に伴う世界の崩壊現象の一部だ」


「街の住人がアンデット化しているのも、その影響か?」


「可能性はある」


 こくりと明は頷いた。


「あの灰が崩壊した世界の欠片なのだとしたら、それを吸い込んだ住人達の身体に異変が起きたと考えるのが自然だ。魔物たちには何の影響もないことを考えると、あの灰には人間を魔物化させる成分が含まれているのかも」


「いやいや、だとしてもそれはおかしいって! この街の規模に対して、俺たちが出会ったアンデットの数が少ないじゃん。あの灰が人間を魔物化させるのだとしたら、もっとこの街の中にはアンデッドがいるはずだろ!?」


 田村が声を荒げて反論した。否定というよりかは、信じたくないと言っているかのような声だった。


 そんな田村に向けて、明は冷静な口調で言葉を続ける。


「……俺たちの中でもこの世界に適応出来なかった人がいたみたいに、この世界の住人の中にも、灰の成分に適応できなかった人間がいたのかもしれない。そういう人は、もしかすれば……灰になって消えてしまったのかも。日記の中では食糧難が記されてただろ? 食糧難だったにしては、この街にある灰の量が多い気がする。もしも、あの灰がすべて食料ではなく、元が人間だったとしたら説明がつく」


「……マジかよ」


 田村が絶望的な声で顔を覆った。


「ありえないって……。俺、普通に触ってたぞ。それが本当なら、俺たちもヤバいってことじゃん」


「安心しろよ。俺なんて、小瓶に入れて持ち歩いてる」


 明はそう言って、小さなため息を吐き出した。


「……とにかく。これ以上、この街にいるのは危険だ。早く出よう」


「そうだね。賛成だ」


 と田村が言ったその時だ。ズズゥゥゥン……と、遠くから低い地響きが聞こえてきた。


「な、何だ?」


 体勢を崩した田村が、壁に手を突きながらあたりを見渡した。


 規則的な振動は足元から伝わり、次第に強くなっていく。


「地震?」


 明が呟いた瞬間、館全体が大きく揺れた。本棚から本が落ち、机の上のインク壺が転がる。


「違う……これは足音だ」


 田村の顔が青ざめた。


 二人は慌てて窓に駆け寄り、外を見た。


 街の向こうから、信じられないほど巨大な影が立ち上がっていた。周囲の建物がまるで子供の積み木のように小さく見えるほどの大きさだ。高さは軽く八十メートルを超えている。


「あれは……」


 明が息を呑んだ。同じ光景を見ていた田村が、呟くようにして言った。


「ギガントだ」


 ギガントが、足を一歩、大きく踏み出した。


 ドォォォォォォンッ!!


 大地が激しく震動し、館の窓ガラスがびりびりと震える。石造りの壁にもヒビが入り始めた。


「ギガント!? あれが日記に書いてあった『ギガント』だって!?」


「そうだよ! 俺の『解析』画面にはそう出てる!! あれが領主の日記にあった『ギガント』だ!」


「あんなの……どうやって倒せって言うんだよ!」


「それこそ無理でしょ! 日記にも書いてあったじゃん!! 『あの魔物を駆除する手練れは、我が領内にも残っていない』って!!」


 ギガントが街の外縁に到達した。その足元では、石造りの家々が踏み潰されて粉々になっていく。一歩踏み出すだけで、複数の建物が瓦礫の山と化した。


「うそだろ……」


 明は絶句して、ギガントを見つめた。


 そんな視線を感じ取ったかのように、ギガントの巨大な頭部が、ゆっくりとこちらに向いた。まるで神話の巨人に睨まれているような圧迫感だ。その巨大な目が、領主の館を捉えたのがすぐに分かった。


「見つかった!」


 ギガントが歩みを速めた。


 ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!


 連続する地響きで、館の中にいることが困難になる。本棚が倒れ、机が滑り、二人は立っていることすら難しくなった。


「逃げよう!」


 田村が叫んだ。


「『生還者』のスキルが、『ここは危険』って警告を出してる!」


 二人は慌てて書斎を出て、館の裏口に向かった。しかし、ギガントの足音がどんどん近づいてくる。


 ドォォォォンッ!!


 今度の振動で、館の一部が崩れ始めた。石造りの壁が砕け、天井が軋む音が響く。


「急げ!」


 明が叫んだ瞬間、ギガントが館の前に到達した。


 その影が館全体を覆い尽くす。八十メートルの巨体が放つ影は、まるで巨大な雲に覆われたかのような暗闇を作り出した。


 ギガントがゆっくりと手を伸ばし、館の屋根に触れた。三階建ての建物が、その手の中では小さな模型のように見える。


 そして——


 バキバキバキィィィ!!


 館の上半分が、まるで紙の箱のように引き剥がされた。石と木材が砕け散り、破片が雨のように降り注ぐ。


「うわあああああ!!」


 田村が悲鳴を上げながら裏口の扉を開けた。


 ギガントの巨大な目が、崩れた館の中を覗き込んだ。建物の規模からすれば豆粒のような二人の人影を、しっかりと捉えている。


「グォォォォォォォォ……」


 低い唸り声が響いた。館全体を粉砕するつもりなのか、ギガントが拳を振り上げる。巨大なハンマーのように空中で静止した拳が、日の光を遮り暗い影を館に落とした。


「走れ!」


 明と田村は裏口から飛び出し、街の奥へ向かって全速力で駆け出した。


 背後で、領主の館が完全に破壊される音が響いた。


 ドガァァァァァン!!


 石と木材が砕ける轟音、そして大地を揺るがす振動。まるで爆弾が爆発したかのような破壊音が、街全体に響き渡った。


 ギガントが雄叫びを上げる。


「グォォォォォォォォォォ!!」


 その声は雷鳴を超える音量で、街の建物の窓ガラスを一斉に割った。


「どこに逃げる?」


 田村が息を切らしながら叫んだ。地響きが後を追ってくる。


 ドォンッ! ドォンッ!


 ギガントが歩くたびに、街の建物が振動で崩れていた。


 明は街の出口を指さした。


「森だ! まずは姿を隠そう!!」


「そうだねッ!」


 二人は必死に、街の出口に向けて走った。しかし、ギガントの歩幅は凄まじく、一歩で数十メートルを移動する。距離は縮まる一方だ。


「やばい、追いつかれる!」


 明が振り返ると、ギガントの巨大な足が頭上に迫っていた。このままでは踏み潰される。


「こっちだ!」


 田村が横の路地に飛び込んだ。


 ドォォォォォンッ!!


 ギガントの足が、二人がいた場所を踏み潰した。石畳が粉々に砕け、建物の破片が激しく飛び散る。まるで土石流のように頭上から降り注ぐその破片をなんとか掻い潜り、街の出口に到達した二人は、ライラ森林に向けて一直線に駆け出した。


 いつの間にか、街の外には見たこともない街道が出来ていた。人の往来と馬車の車輪によって出来た、あぜ道のような街道だった。おそらく、世界反転率の進行によって出現した異世界の一部だろう。

 

 普段であれば気を取られるそれらの変化も、今は気にしていられない。二人は息を切らしながら街の外に出来た馬車道を走り、なんとかライラ森林に駆け込むことに成功した。


「ハァ……ハァ……助かった……」


 田村が木に寄りかかって息を整えた。


「あの化け物、でかすぎるよ……」


 明も疲労困憊だったが、振り返って街を確認した。ギガントは街の入り口で立ち止まり、森を見つめている。どうやら二人を見失ったらしい。


 しかし、ギガントは諦めていなかった。


 ドォォォォオンッ、とした足音を響かせながら森へと近づいてくると、森の入り口の木々を手で掴み、根こそぎ引き抜き始めた。


 バキバキバキィィィ!!


 巨大な木が、まるで雑草のように抜かれていく。


「嘘だろ……道を作ってる」


 明の顔が青ざめた。


「このままじゃ、森に入ってくる!」


「もっと奥に逃げよう!」


 二人は森の奥へ向かって駆け出した。背後で木々が倒される音が響き続けている。


 巨人から逃れるには、まだまだ距離が必要だった。



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― 新着の感想 ―
むこうの世界の住人が邪教以外現れないなぁという不思議がこれですか 灰が世界の欠片ならばなんらかの価値もありそうですが危険性も高そうなのが怖いところ あっちの世界ではギガント普通に倒せるくらいが手練れク…
うっすらと異世界がこの世界を侵食してきたからくりがわかってきましたね… わかった所で人一人でどうにかなる内容ではないですが。特に以前の仲間もいない0号… 人間の生存数も反転率も絶望的なこの周回で打開策…
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