表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
六章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

317/351

一条明 -0- ⑫



 三日後、明は森の中で目を覚ました。


 冷たい夜風が頬を撫でていく。体を起こすと、湿った土の感触が手のひらに伝わった。周囲には物音ひとつなく、不気味な静寂があたりを支配していた。


 そしてすぐに、異変に気がついた。


 森全体の空気が変わっている。


 三日前までは、空から降り注ぐ赤い月光に反応しているかのように、森に自生する植物はみな、おどろおどろしい姿となっていた。


 しかし、今回の目覚めでは違う。


 植物の種類や数に大きな変化はないものの、木々の葉は所々で紅と蒼の光を反射し、まるで宝石のように煌めいている。


 例えるならそれは、本来あるべき姿を取り戻したかのような、歓喜に満ちた光景だった。


 森に息づく植物たちが、ようやくまともな呼吸を取り戻したと喜んでいるかのような、そんな印象すらあった。


「なんだ……?」


 空を見上げて、明は息を呑む。


 赤い月の隣に、新たな天体が浮かんでいた。穏やかな海の色を湛えたような、三日月状の青い月だった。


 満月となっていた赤い月はすでに欠け始め、その対を成すように、新たな月は満ちつつある


 紅と蒼、二つの月の光が夜空で混じり合った結果、森全体が幻想的な色彩で包み込まれていた。


「また、変わったな……」


 明は呟きながら立ち上がった。


 世界反転率の進行による変化であることは明らかだった。この世界は、さらに異質なものへと変貌を続けている。


「『進行度』」


 明は、現在の世界反転率を確かめるため、呟いた。


 視界に画面が開かれる。




 ――――――――――――――――――

 現在の世界反転率:20.16%

 ――――――――――――――――――




「―――…ッ」


 画面に記されたその数値に、言葉が出なかった。


 たった十日で、この世界の五分の一が失われていたのだ。その衝撃と事態の深刻さが明の胸をきつく締めあげた。


「……もう、俺以外には誰も生きてはいないのかもな」


 知らずに漏れた諦めの言葉が、静かな森の中に響いて、消えていく。


 明はじっと画面を見つめていたが、やがて小さなため息を吐き出して、画面を消した。


「ひとまず、この森から出ないと」


 このまま、ここに居ても意味がない。三回死んで分かったことだが、どうやら、この森の付近はあの怪物(ミノタウロス)の縄張りらしい。どこで出会うのかも分からない以上、ほんの少しでも森から離れて、距離をとったほうが良さそうだ。


「ステータス」


 明は赤い月の効果を確かめるために、自らのステータス画面を開いた。




 ――――――――――――――――――

 一条明 25歳 男 Lv18

 体力:22(+35)

 筋力:18(+35)

 耐久:14(+35)

 速度:20(+35)

 魔力:0(+5)

 幸運:12

 ――――――――――――――――――

 固有スキル

 ・黄泉帰り

 ――――――――――――――――――




 前回から三日が経ち、その間に赤い月が欠けた影響からか、その恩恵である能力値の上昇が大幅に減少していた。


 代わりに、新たな項目が追加されている。


(魔力……。魔力って、なんだ? あの魔力か?)


 魔力といえば、ゲームやファンタジー作品なんかでは、マナやMPなどといった形で例えられることが多い。

 筋力や速度のように身体そのものの性能を示す値とは異なり、マナやMPは基本的に有限のリソースとして、力を発揮する際に消費される存在だ。


 問題は、ここに記された魔力値とやらが、今の自分にどんな影響を及ぼしているのかが分からないということ。


(そもそも、どうしてこんなものが俺の能力に……)


 心の中で呟いた瞬間、明は気づいた。


 身体の表面に、何か青白い光がまとわりついている。


「これが魔力なのか?」


 明は呟きながら光に触れた。途端に、光は弾けるように消えてしまう。


 身体に吸収されたのではなく、むしろ自然に還っていったかのような反応だった。


(もしかして)


 明は再び、自分のステータス画面を開く。




 ――――――――――――――――――

 一条明 25歳 男 Lv18

 体力:22(+35)

 筋力:18(+35)

 耐久:14(+35)

 速度:20(+35)

 幸運:12

 ――――――――――――――――――

 固有スキル

 ・黄泉帰り

 ――――――――――――――――――




 画面から、魔力の項目が消えていた。


 だが、しばらく見つめていると、魔力値の欄がゆっくりと浮かび上がる。


 基礎能力値は依然として0だったが、その横に+5の補正値がついていた。身体にはまた、淡く青白い光がまとわりついている。


「なるほど」


 と、明は静かに呟く。


 どうやら、魔力の正体はこの光で間違いないようだ。そしておそらく、その源は夜空から降り注ぐ青い月光だろう。


(つまり……基礎能力値が0ってことは、今の魔力は〝俺自身の力〟じゃないってことだ)


 明は、ステータス画面に表示された新たな数値をじっと見つめた。


(俺の魔力の基礎値は0。でも補正で+5がついていた。赤い月のときと同じなら、この+補正は〝月の影響〟ってことか)


 赤い月が満ちると身体能力が上がり、青い月が満ちると魔力が上がる――。


 月の満ち欠けの様子からして、二つの月が同時に満月になることはなさそうだ。


 少しずつ、異世界の法則が見え始めていた。


 その世界に生きる人たちが、どのように暮らしているのかは分からない。が、月の影響によって能力が変化するというなら、それを利用している可能性は十分にある。


(今後、この世界で生き残るためには……環境要因も考慮しなきゃならないってことか)


 明は目の前に浮かぶ画面を消して、息を吐いた。


 それから、復活による影響が他に残っていないかを確認し始める。『黄泉帰り』による蘇生は相変わらず完璧で、身体には傷一つ残っていなかった。


 だが――心の傷はまた別だ。


 田村への怒り。そして、自分の愚かさへの悔恨。


 彩夏が警告してくれていたのに、結局、まんまと罠に嵌ってしまったのだ。


「もう誰も信用するものか……」


 明は彩夏の短剣を握りしめると、森の出口へ向かって歩き出した。






 しばらく歩くうちに、明はさらなる異変に気がついた。


 森の範囲が、拡大している――。


 前回までは異世界と現実の境界線だった街の駅前も、完全に森に呑み込まれて消えていた。


 すでに駅前があったはずの地点を超えているはずなのに、一向に森の出口が見当たらない。


「異世界の影響が、こんなにも……」


 明は周囲を警戒しながら歩みを進める。魔物の気配は感じるが、以前ほど活発ではない。まるで、昼と夜で行動パターンが変わったかのようだった。


(これも、あの月の影響か……?)


 明は、頭上に浮かぶ二つの月を見上げた。


 もしかすれば、赤い月は魔物を興奮させる効果があるのに対して、青い月には逆に鎮静化させる効果があるのかもしれない。


 そんなことを考えながら歩いていると、ふいに魔物の鳴き声があたりに響いた。


「げぎゃぎゃぎゃぎゃ」


 生い茂る木々の上から、数匹のゴブリンが襲いかかってくる。手にはそれぞれ自作の棍棒らしき木の棒を握りしめていて、嫌らしい笑みを浮かべていた。


(……っ、クソ! 赤い月の恩恵が薄れているっていうのに!)


 心で呟き、奥歯を噛みしめる。


 少なからず攻撃を受けることを覚悟して、短剣を構えたが――意外にも、そうはならなかった。


(……あれ?)


 ゴブリンたちの動きが前回と変わらない。


 襲いかかって来るゴブリンたちの動きが、目に見える。


(そうかッ! 前回、赤い月が満ちていた時にレベルを上げていたから……!)


 レベルアップに伴う肉体の成長。赤い月が満ちていた期間に、懸命にレベルを上げていた成果があったのだ。基礎能力値が成長していたおかげで、補正の減少を打ち消すことができていた。


 さらに幸いなことに、世界反転率が進行しているにもかかわらず、出現する魔物の強さは前回と大きく変わっていないようだった。


「これなら!」


 見慣れた動きで飛びかかってくるゴブリンたちに向かって、明は声を張り上げた。


 手にした短剣を突き出す。


 切っ先は一体のゴブリンの胸を正確に貫き、そいつは血の泡を吐きながら地面に崩れ落ちた。


 そのまま、押し寄せる数体のゴブリンたちと、明は数分にわたって格闘を繰り広げた。




 ―――――――――――――――――――

 レベルアップしました

 Lv18 → Lv19

 筋力:18(+35)→20(+35)

 速度:20(+35)→21(+35)

 ―――――――――――――――――――



 ゴブリンとの戦いに無事に勝利したあと、目の前にレベルアップを知らせる画面が現れた。


 明は目の前に表示された画面を見つめた。


(レベルが上がったか)


 魔物を倒し、何度もレベルアップを繰り返しながら分かったことがある。どうやら、レベルアップに伴う能力値の上昇は、完全にランダムらしい。


(生存力を高めるには、体力や耐久が伸びてほしいところなんだけど……)


 今回上昇したのは、いずれも直接的な防御や持久には関係しない能力だった。


(いや、筋力が上がれば攻撃力も増す。与えるダメージが増えれば、それだけ魔物に対抗する力を得たということだ)


 速度に関しても同じだ。速度値が高ければそれだけ、魔物から逃げることも、攻撃を避けることも出来るようになる。


 無駄な能力値など一つもないはずだ。


 そんなことを考えながらしばらく歩いていると、遠くから煙が上がっているのが見えた。


(人がいるのか?)


 明は慎重に煙の方向へ向かった。


 煙の正体は、燃え尽きた建物の残り火だった。


 明が到着した時、そこには既に誰もいなかった。しかし、人が住んでいた痕跡は明らかにあった。


 仮設のテントの残骸、散らばった缶詰の空き缶、そして血痕。


 魔物に襲われたのだろう。それほど時間は経っていないようだった。


「この様子だと、生きてはいないだろうな……」


 明は呟き、あたりをさらに調べる。


 すると、崩れたテントのそばに、メモのような紙片が落ちているのを見つけた。



『北の学校に避難所があるという情報。明日、様子を見に行く』



 日付は、二日前になっていた。


 明はメモを拾い上げ、じっと見つめる。


「避難所……。彩夏が言っていたところかもしれない」


 その可能性は高い。


 しかし、避難所があるというその情報も、今となっては随分と古い。少なくとも最新の情報からは二日が経っている。魔物が蠢くこの世界で、果たして本当に、いまだ避難所などというものが形を保っているだろうか。


「それでも……行ってみなくちゃ分からないか」


 明はぽつりと呟いた。


 生存者を探しているわけではない。


 ただ、この異様な世界で、自分が本当にたった一人きりなのか――それを確かめたかった。


 現場をさらに詳しく調べたが、生存者の手がかりは見つからなかった。血痕の量から判断すると、襲撃は徹底的だったようだ。 テントの中に残された所持品も、すでに魔物に荒らされた形跡がある。


 明は深いため息をつき、その場を後にした。


 また一つ、人の痕跡が消えた。


 この調子では本当に、自分一人だけが残されることになるのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ゴブリンも受けてた恩恵はでかかったか退化したっぽさを感じるw 明は2回目でミノタウロスが追いかけてきてると感じてるのに今回は奴のテリトリーなのかと現実逃避に走ってるねぇそりゃ周りがこれだし現実逃避くら…
ん?黄泉返りの説明に書いてないけど死んだ時持ってた武器は残る仕様…?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ