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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
六章

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一条明 -0- ⑪



 それから数時間、二人は連携して魔物狩りを続けた。田村の『生還者』スキルで安全な獲物を見つけ、明の戦闘能力で確実に仕留める。効率的なコンビネーションだった。


 ゴブリンの群れを次々と撃破し、明はレベル18に、田村はレベル14まで上がっていた。


「いい感じだね〜」


 田村が満足そうに呟く。戦闘に慣れたのか、表情にも余裕が出てきていた。


 明は田村の戦い方を観察していた。確かに戦闘経験は少ないが、持ち前の要領の良さで着実に成長している。そして何より、危険な場面では必ず明をフォローしてくれる。


 信頼できる仲間だと、明は思い始めていた。


「ねえ、明」


 休憩中、田村が軽い調子で話しかけてきた。


「もうちょっと強い魔物に挑戦してみない?」


「強い魔物?」


「そう。今のペースだと、レベル上げに時間がかかりすぎる。もっと効率よく強くなれれば、生存率も上がるしさ。それに、赤い月の効果があるのは今夜だけだから、この機会を逃すのはもったいないよ」


 明は慎重な表情を浮かべた。


「無謀すぎないか?」


「大丈夫だよ〜。実は、他の覚醒者から聞いた話があるんだ。この近くに、経験値効率の良い狩り場があるらしい」


「狩り場?」


「駅前に出来た森の奥にある廃村なんだけど、そこには巨大蝙蝠や巨大蜘蛛が住み着いてるらしいんだ。こいつらは結構強いけど、倒せばかなりの経験値が手に入るって話」


 田村の説明に、明は興味を示した。


「そんな話、誰から聞いたんだ?」


「ちょっと前に出会った人だよ。今はもう別れちゃったんだけど、その人からいろいろと話しを聞いてたんだ」


「なるほど」


 明は田村の提案を吟味した。確かに危険はあるが、メリットも大きい。赤い月の効果が今夜だけであることを考えると、田村の言うように、今のうちに戦力を整えておくべきだろう。


「なんで今まで行かなかったんだ?」


「一人で行くには危険すぎるからね。でも、あんたと一緒なら大丈夫だと思う」


 田村の『生還者』スキルがあれば、危険は回避できる。


 明は頷いた。


「分かった。行ってみよう」


「やった! じゃあ、こっちだよ」


 田村が軽やかに歩き出す。


 駅前へと近づいていくうちに、周囲の景色は徐々に変化した。


 最初は見慣れた廃墟の街並みだったが、徐々に緑が増えていく。アスファルトの隙間から顔を出すのは普通の雑草ではない。青白く光る苔や見たこともない奇妙なキノコが増え始めた。


 やがて、建物が完全に消え、代わりに異様な森が広がった。


 明にとっては見覚えのある光景だった。駅前で目にした、鉄骨を呑み込みながら成長する巨大な樹木。幹は鉄のように黒く硬く、枝は空へとねじれるように伸びている。葉は青白く、夜の闇に光を放っていた。


「ここ、ライラ森林って名前がついてるみたいなんだ」


 田村があたりの木々を見渡しながらそう答えた。


「ライラ森林?」


「うん、異世界にある森の名前だろうね」


「どうしてその名前を知っているんだ?」


「ここにいる魔物をよくよく観察するとね、解析画面っていうのかな。そう言う画面が見えるようになるんだよ。その画面の中に、この場所の名前が書いてあった。明は何かスキルは持ってるの?」


「……まあ。それなりに」


 明は答えを濁した。持っているスキルなんて、未だに固有スキルの『黄泉帰り』だけだ。彩夏や田村は固有スキル以外にもなんらかのスキルを持っているようにも思えるが、明には、そうしたスキルの入手方法が分からなかった。


 二人は慎重に森の中を進んだ。田村が『生還者』スキルで安全なルートを見つけながら、危険な魔物を避けて歩いていく。


 森の奥は深い闇に包まれており、時折、得体の知れない鳴き声が響いてくる。足元の土は湿っており、踏むたびにぺちゃ、という不快な音がした。


 しばらく森を進むと、景色が再び変わった。


 木々が途切れ、代わりに現れたのは古い村だった。石造りの家々が立ち並び、屋根は赤い瓦で葺かれている。中世ヨーロッパの村を思わせる佇まいだが、建物の至る所に異様な装飾が施されていた。


 魔除けなのか、それとも別の意味があるのか、壁には奇怪な文様が刻まれている。窓には鉄格子が嵌められ、扉は重厚な木材で作られていた。


 しかし、村に人の気配はない。完全に廃墟と化している。


「ここが、その廃村か」


「そう。巨大蝙蝠や巨大蜘蛛は、こういう建物の中に巣を作るらしい」


 田村の説明に、明は改めてこの世界の異常さを痛感した。


 まるで、RPGゲームの中にあるダンジョンと呼ばれる場所に足を踏み入れたみたいだ。空想の世界が現実になれば、まさにこんな光景になるのかもしれない。


 二人は慎重に村の中を進んだ。石畳の道は苔に覆われ、滑りやすくなっている。建物の影からは、時折見たこともない小さな魔物が顔を覗かせたが、すぐに姿を隠してしまっていた。


 村の中央には小さな広場があり、そこには古い井戸が設置されていた。井戸の周りには、人が座れるような石のベンチが並んでいる。


 田村はそのベンチに近づくと、明へと振り返った。


「ここが、この村の中心部みたいだね。ここなら視界も開けてるし、魔物に襲われても逃げやすいと思う。ここを拠点にして、レベルを上げるのはどうかな」


「そうだな。それがいいと思う――」


 その時だった。


 村の奥から、低い唸り声が響いてきた。


 それは明がこれまでに聞いたことのない、野獣じみた声だった。だが、単純な獣の声ではない。どこか知性を感じさせる、不気味な響きがあった。


「何だ……?」


 明が警戒していると、建物の影から巨大な影が現れた。


 それは人のような体型をした、全身が灰色の毛に覆われた化け物だった。頭部は完全に狼のもので、鋭い牙を剥き出しにしている。身長は二メートルを超え、筋骨隆々とした肉体は人間のそれを遥かに凌駕していた。手には鋭い爪が伸び、月光を反射して銀色に光っている。


 見たこともない化け物だった。しかし明は、その正体が何であるかをすぐに理解した。


「……まさか、ウェアウルフ……なのか?」


 明は震える声で呟いた。


「そんな……なんだよアイツは! 話が違うじゃないか!」


 明は田村に向けて抗議した。


 しかし田村もまた、ウェアウルフの登場に驚いていた。顔を青ざめ、手と唇を小刻みに震わせながらも、田村は低い声で呟く。


「なんで……ありえない……。ここにいるのは巨大蝙蝠と巨大蜘蛛だけだって、聞いていたのに……」


 ウェアウルフは二人を見つけると、喉の奥から威嚇するような唸り声を上げた。その赤い目には、明確な殺意が宿っている。


 明は短剣を構えた。が、相手の威圧感は今まで戦ってきた魔物とは一線を画している。


「田村、逃げるぞ!」


「ああ!」


 二人は慌てて踵を返し、来た道を駆け戻った。


 背後からウェアウルフの重い足音が響く。石畳を蹴る音が、じりじりと間隔を詰めてくる。その音は規則正しく、まるで巨大な太鼓を叩いているようだった。


「くそっ、速い!」


 田村が息を切らしながら叫んだ。明も必死に走ったが、ウェアウルフとの距離は確実に縮まっている。


 村の入り口まで、あと少し。そこまで辿り着けば、ライラ森林に逃げ込める。


 その時、田村が急に立ち止まった。


「待て! こっちだ!」


 田村が指差したのは、村の外れにある古い教会だった。石造りの建物で、尖塔には十字架が立っている。扉が半開きになっており、中は真っ暗だった。


「あそこに隠れよう!」


 明は一瞬躊躇した。暗い建物の中に逃げ込むのは危険ではないか。しかし、ウェアウルフの足音はすぐ後ろまで迫っている。


「急げ!」


 田村に急かされ、明は教会に駆け込んだ。田村も続いて入り、重い木の扉を閉める。内側から太い木の棒で扉を固定した。


 教会の中は静寂に包まれていた。高い天井には木製の梁が渡され、壁には色褪せたステンドグラスが嵌められている。祭壇の上には、朽ちかけた十字架が立っていた。


 二人は息を殺して、外の様子をうかがった。


 しばらくして、外からウェアウルフの足音が聞こえた。ドスン、ドスンという重い音が教会の周りを巡っている。


 明の心臓が激しく鼓動した。見つからないでくれ、と心の中で祈る。


 ウェアウルフは教会の扉の前で立ち止まった。鼻をひくひくと動かし、匂いを嗅いでいるようだった。


 クンクンという音が扉越しに聞こえる。明は息を止めた。


 数分間の緊張した時間が過ぎた後、ウェアウルフの足音は徐々に遠ざかっていった。村の奥へと去っていったようだ。


「……助かった」


 明が安堵の息を吐く。全身から力が抜け、その場にへたり込んだ。


「俺のスキルで、ぎりぎり逃げ道が見えたんだ」


 田村が得意げに言った。その顔には危機を乗り越えた達成感が浮かんでいる。


「お前がいなかったら死んでいた。本当にありがとう」


 明は心から感謝した。田村の機転がなければ、確実にウェアウルフに殺されていただろう。あの瞬間の判断力と、『生還者』スキルの的確さに、明は改めて感心した。


 この男は、やはり信頼できる。


 教会の中で休憩しながら、二人は今後の行動について話し合った。


「巨大蝙蝠や巨大蜘蛛はどこにいるんだろうな」


「分からない。でも、ウェアウルフがいるってことは、この村で安全にレベルアップをすることは出来ないと思う」


 田村は考え込むような表情を浮かべた。


「さっきは本当に危なかった。もし俺たちのどちらかが死んでいたら……」


 田村の表情に、わずかな不安が浮かんだ。


「この世界じゃ、死んだらそれで終わりだからな」


「そうだな……」


 明は田村の言葉を聞きながら、ふと思った。


 この男は仲間として、対等な関係で自分のことを本気で心配してくれている。


 そう思うと、胸の奥が温かくなった。彩夏を失ってから、明は一人で戦い続けてきた。しかし、田村と出会って、再び誰かと協力する喜びを感じている。


 明は少し考えた後、決心したように言った。


「実は、田村。俺にも隠していることがある」


「隠していること?」


 田村が興味深そうに身を乗り出した。


「お前に言うかどうか迷ってたんだが……さっき、お前が俺を助けてくれたのを見て、決心がついた」


 明は田村の目を真っ直ぐに見つめた。


「俺は……死んでも三日後に生き返ることができるんだ」


 田村の目が見開かれた。しばらく言葉が出ないようだった。


「固有スキルを持ってるんだ。そのスキルのおかげで、俺は不死身だ。だから、危険な任務でも引き受けられる」


「それって……」


 田村の声が震えた。


「すごいじゃないか。そんな力があるなら……」


 田村の表情には、純粋な驚きが込められていた。


「でも、なんで俺に教えてくれるんだ?」


「お前を信頼してるからだ」


 明は真っ直ぐに田村を見つめた。


「佐藤さんや、ウェアウルフから俺を助けてくれたお前の姿を見て、確信した。お前は信頼できる仲間だ」


 田村は複雑な表情を浮かべた。明には、それが感激の表情に見えた。


「ありがとう……信頼してくれて」


 田村の声には、わずかに震えがあった。明にはそれが感動によるものに聞こえた。


 しばらく沈黙が続いた後、田村が立ち上がった。


「そろそろ戻ろうか。ウェアウルフももういないだろうし」


 明も立ち上がり、教会の扉を開けた。外の空気は冷たく、夜風が頬を撫でていく。


 二人は教会を出て、慎重に廃村を抜けた。ウェアウルフの姿は見えず、他の魔物も現れなかった。


 やがて二人はライラ森林へと戻った。青白く光る木々の間を縫うように歩きながら、森の出口を目指す。


 しかし、森の入り口近くまで来た時、異変が起きた。


 地面が微かに振動し始めたのだ。最初は小さな振動だったが、徐々に強くなっていく。



 ドスン、ドスン。



 規則正しい、重い足音。それは明にとって聞き覚えのある音だった。


「まさか……」


 明の顔が青ざめる。


 木々の向こうから、巨大な影が現れた。


 人間の胴体に牛の頭を持つ、異形の存在。筋骨隆々とした身体は三メートルを超え、手には巨大な戦斧を握っている。小さな目が赤く光り、鼻息が白く立ち上っていた。月光を浴びたその姿は、まさに悪夢そのものだった。


「ミノタウロス……」


 明の声が震えた。彩夏を殺し、自分も二度殺したあの化け物が、目の前に立っていた。


 ミノタウロスは明を見つけると、その目にまた明確な認識の光を宿した。まるで、以前に殺した獲物がまた生きていたことを不快に思っているかのように、その眉間には皺が寄っている。


「やばい……こいつは本当にヤバい」


 田村の顔が血の気を失った。震え声でそう呟いている。


 ミノタウロスは二人を見つめたまま、ゆっくりと戦斧を構えた。その動作には迷いがなく、確実に殺すという意志が込められていた。


 そして——


「ブモォォォォォォッッ!!」


 耳をつんざくような咆哮が森に響いた。鳥たちが一斉に飛び立ち、小動物たちが慌てて逃げ惑う。


「逃げるぞ!」


 明が叫んだ瞬間、ミノタウロスが突進を始めた。


 その速度は、巨体に似合わず俊敏だった。地面を蹴る度に土煙が舞い上がり、木の枝が折れる音が響く。


 二人は必死に走った。だが、ミノタウロスの速度は圧倒的だった。距離は見る間に縮まっていく。


「こっちだ!」


 田村が別の方向を指差したが、明にもそちらに魔物の気配があるのが感じられた。


「ダメだ、囲まれてる!」


 明が叫んだ時、自分の足がもつれた。木の根に引っかかり、バランスを崩してしまったのだ。


 明は前のめりに倒れ、地面に手をついた。すぐに立ち上がろうとするが、足首に鈍い痛みが走る。捻挫したようだった。


「明!」


 田村が振り返る。だが、ミノタウロスはすでに十メートル先まで迫っていた。


 巨大な戦斧が月光を反射し、銀色に光る。その刃は、明の首を狙って振り上げられていた。



 ――絶体絶命。



 明は覚悟を決めた。また死ぬのか、と思った。


 その瞬間、田村の表情が変わった。


 最初は明を助けようとする表情だった。しかし、次の瞬間、その顔に何かが閃いたように見えた。


 恐怖から、躊躇いへ。そして——冷たい何かへ。


 田村の足が、わずかに速くなった。明から離れるように、彼は遠くに駆け出していく。


「田村!」


 明が叫んだが、田村は振り返らなかった。


 代わりに、軽やかな口調で言った。


「それじゃあ、明。俺が生きていたら、三日後にまた会おうね♪」


 その言葉を最後に、田村は森の奥へと消えていった。


 一人残された明は、振り下ろされるミノタウロスの戦斧を見上げた。


「……そういうことか」


 すべてを理解した。


 田村は最初から、明を利用するつもりだったのだ。


 今日の親切も、信頼関係も、すべては明の秘密を聞き出すための演技だった。


 そして今、その秘密を知った田村は、躊躇なく明を見捨てた。


 三日後に生き返ることを知っているから、罪悪感もない。


「畜生……」


 明の唇から、苦い言葉が漏れた。


 騙された。


 利用されてしまった。


 彩夏からあれだけキツく忠告を受けていたのに、結局は信じて、裏切られてしまった。


「チクショウ!!」


 彩夏のような純粋な仲間は、もうこの世界には存在しないのか。


 ミノタウロスの戦斧が、明の身体を真っ二つに切り裂いた。


 鋭い痛みが全身を駆け巡り、意識が急速に薄れていく。


 最後に明が感じたのは、田村への怒りと、自分の愚かさへの後悔だった。


 そして、彩夏に対する申し訳なさ。


 君が警告してくれていたのに、と。


 そんな思いを胸に、明の意識は再び闇に沈んでいった。


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― 新着の感想 ―
でもそこまで馬鹿だろうか?3日後に今度は狙いに来るかもと思うだろうしなぁ 生き帰えれるから囮になってくれるんだったら殿はいつだってこういう奴の仕事みたいなもんやし……アキラスレイヤーさんことミノタウロ…
パワーレベリングさせてくれって言われてる時点で気づいてくれ0号… リリスライラの情報が手に入ったのは一応プラスだけどマイナスがでかすぎる
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