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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
六章

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VS セイレーン②



「よし、それじゃあ頼むぞ。みんな」


 明の言葉に仲間たちが綺麗に揃った声でしかと応じた。

 明は仲間たちの声に一つ頷くと、セイレーンを見据える。


(『解析』)


 心で呟く。

 明の意思に応じるように視界にはセイレーンの情報が広がった。



 ――――――――――――――――――

 セイレーン Lv153

 体力:567

 筋力:380

 耐久:532

 速度:280

 魔力:200

 幸運:120

 ――――――――――――――――――

 個体情報

 ・ダンジョン:絶海の古塔2Fに出現する、神獣種亜人系のボスモンスター

 ・体内魔素率:37%

 ・体内における魔素結晶あり。筋肉、骨、内臓に軽度から中度の結晶化

 ・体外における魔素結晶あり。胸部に中度の結晶化。一部変質あり

 ・身体状況:正常

 ――――――――――――――――――

 所持スキル

 ・魔法無効化

 ・状態異常:魅了付与Lv3

 ・刺突耐性Lv2

 ・防音Lv3

 ・水魔法Lv2

 ・歌魔法Lv2

 ――――――――――――――――――



(……相変わらずイカレたスキルばかりだな)



 明は目の前に広がったそれらの項目を見て、心の中で舌打ちをした。

 信じられないことに、これでもまだ数は少ないほうだ。今は『世界反転率』による現実侵食も少ないし、術式によってセイレーン自身も本来の力の大半を封じられている。ここから術式が今よりも進むと、この現実世界が受ける異世界の影響もより強くなり、セイレーン自身も本来ある力を取り戻してくる。



(まだ『広域魔法』や『精神汚染』関連のスキルが出てきてないだけまだマシか。コイツがそれを持つのは……たしか、反転率が10%を超えてからだったか?)



 今はまだ強化一段階目。二段階目に進むともはや手が付けられない。セイレーンを討伐するには長い時間をかけて相応の準備を整える必要がある。



(だからこそ、今ここでコイツは倒しておく必要がある)



 明は目の前に広がった画面を消して、仲間たちに言った。



「龍一さんは右から、刺突ではなく槍柄を使った打撃を中心に攻めてください。彩夏と柏葉さんは左からだ。あくまでも遊撃を中心に一撃離脱を意識で。奈緒さんは後方から戦況の把握と援護。アイツに魔法は効かないけど、気を逸らすことは出来るはずです。タイミングを見計らって魔法を撃ち込み、気を逸らしてください」



 必要最低限の端的な指示だった。詳細な指示を出すにはまだ仲間たちの練度が足りていないからだ。

 訓練を始めてまだ五日目。激しい戦闘中に複雑な指示を実行できるだけの余裕もない。ならば、複雑な指示を出すよりもこうした簡単な指示のほうがまだ龍一たちも動きやすいだろうと考えた上での言葉だった。


(戦闘の合間で起きるミスは俺がカバーする)


 明は集中するようにゆっくりと息を吐き出すと両足に力を籠めて、手にした剣をだらりと下げて下段に構えた。



「あとは〝命を大事に〟を優先で」


 明は呟き、


「それじゃあ―――行きます」


 一気に駆け出した。

 ドンッとした音を響かせながら地面を蹴って空中へと飛び出した男は、一瞬にしてセイレーンとの間に空いた距離をゼロにする。


「っ!!」


 短く気合いの入った息を吐き出して、下段に構えた刃を逆袈裟に振り抜いた。

 ギィンッ!

 明が払った刃とセイレーンが構えた片足の鉤爪がぶつかり、硬い音があたりに響く。明の攻撃を察したセイレーンが即座に身体を翻して迎え撃ったのだ。

 セイレーンが逆の鉤爪を明に振るってくるが、明はその攻撃を即座に構えた両手剣で跳ね返し、次の行動に移り始める。

 空中で落ちていくだけの身体を支えるように、明は手首を返して剣の柄をセイレーンの鉤爪へと引っ掛けた。くんっと明の身体が持ち上がり、『軽業』スキルが発動する。


「ふっ」


 剣を握る両腕に力を籠めて、てこの原理で身体が飛び上がった。

 落ちるだけの身体が再び浮いたことに驚いたのか、セイレーンの目が見開かれる。

 明はそんなセイレーンに向けて不敵な笑みを浮かべて見せると、再び浮いた身体が重力に引き摺られる前にと、腰を捻り右足を振り払った。


 バキャッ!


 明の右足がセイレーンの左腕に直撃した。かと思えば奇妙な音を響かせて、セイレーンの左腕が奇妙な方向へと折れ曲がっていた。

 明の強烈な蹴りが、一撃でセイレーンの耐久を破ったのだ。

 強化一段階目のセイレーンは、耐久値が500を超える化け物だが『黄泉帰り』を繰り返し人間の枠を外れた明もまたある種の化け物だ。ステータス画面に表示される項目では、筋力値が1000を超えている。

 そんな男の一撃を受けて、さすがのセイレーンも脅威を感じたのだろう。

 砕けた左腕を抑えながら悲鳴を上げたセイレーンは、明から距離を取ろうと右へと動いた。



「オラァ!!」



 そこに、右から突撃してきた龍一の槍の柄が払われた。

 明に気を取られ、完全に意識外からの攻撃だったのだろう。まともに攻撃を受けたセイレーンの身体がぐらりと揺れた。

 今度は左から細身の影が飛び込んでくる。



「はぁッ!」



 影の正体は彩夏だった。

 彩夏は空気を切り裂くような甲高い声と共に二本の短剣を振るうと、セイレーンの身体を切り裂いた。

 ガガァンッ!

 生物を斬りつけたとは思えない硬い音が二度あたりに響いて、セイレーンの身体から数枚の鱗が剥がれ落ちた。

 大したダメージを与えることが出来なかったことが悔しいのか、彩夏は悔し気な表情を浮かべると、後に続く仲間へと今しがた自分が攻撃した箇所を教えた。



「左の脇腹! 今ので鱗が数枚剥がれた!」

「了解です!」



 彩夏の言葉に応じたのは柏葉だ。手にはアーサーが使っていた短剣――ヴィネの祭儀刀が握られている。

 柏葉は彩夏に教えられた箇所に狙いを定めると、一気にその刃を振り抜いてセイレーンの身体を斬りつけた。



「ァアッ!」



 短剣の性能が彩夏の持つツインダガーよりも高いからか、柏葉の攻撃はセイレーンにダメージを与えることに成功した。

 痛みに悶えるセイレーンへと再び跳躍してきた龍一が攻撃を仕掛けようとするが、その攻撃は不発に終わる。

 日本語にも似た奇妙な声でセイレーンが叫んだ。



「じゃ……まダ!」



 初めて言語を介するモンスターに遭遇したのだろう。セイレーンの言葉を聞いた龍一が驚いたように目を瞠りながら叫んだ。


「おい、コイツ喋るぞ!?」


 彩夏が言い返す。


「珍しいことじゃないって! それよりも前ッ!」


 ハッとした顔で龍一は前を見た。

 そこには龍一へと、怒りに燃える瞳と指先を突き付けたセイレーンが居た。



「ᚪᛢᚢᚪ ᛈᛖᚾᛖᛏᚱᚪᚱᛖ」



 セイレーンが何かを言った。

 それは人間の言葉のようにも聞こえる奇妙な単語だった。

 異世界特有の言語だ。その言葉の意味は分からないが、その言葉を発した後に発動する魔法の威力が跳ね上がることだけは分かっている。


「奈緒さん!」


 即座に明は彼女の名前を叫んだ。

 その呼びかけに後方から戦場を見ていた彼女が反応する。



「ショックアロー!」



 奈緒は魔法を発動させた。

 魔導銃の銃口から飛んだ光の矢が、セイレーンへと向けて飛来する。矢は衝撃となってセイレーンの身体を揺らすが、ダメージを与えた様子はない。セイレーンには『魔法無効化』スキルがあるからだ。

 それでも、セイレーンの集中を途切れさせることには成功した。セイレーンの指先に広がっていた魔法陣が消え去った。

 魔法の発動に失敗したセイレーンが奥歯を噛みしめ奈緒を睨み付けるが、ヘイトを買った奈緒は余裕の表情だ。

 睨むセイレーンに向けて不敵な笑みを浮かべると、迎え撃つように銃口を突き付けた。


「悪いな。魔法の早撃ちならここ数日ずっとやってるんだ」

「奈緒さん、あまり挑発しないでください。こっちの言葉、理解してるんですから奈緒さんにヘイトが向きます」


 地面へと着地した明が奈緒を窘めるように言った。

 遅れて地面に着地した龍一が額にかいた冷や汗を拭いながら声を上げる。


「あッぶねぇ、死ぬかと思った。何なんだアイツは!? モンスターも俺たちの言葉を喋るのかよ!」

「一部の知能を有したモンスターは喋ります。俺たちの言葉を学んでいるんでしょうね」


 以前倒したウェアウルフやギガントもそうだった。

 傾向としては亜人系のモンスターがこちらの言語を理解していることが多い印象だ。おそらく、亜人系モンスターの方が他のモンスターに比べて頭が良いのだろう。

 そんなことを龍一に向けて言うと、龍一は納得が出来ないかのように眉を寄せて見せた。


「だとしても最後の言葉はありゃ何だ? 聞いたこともない言語だったぞ」

「アレは……異世界特有の言語です。知能を有し、中でも魔法を使うモンスターが発する傾向があります。ああいう言葉を聞いたら即座に回避行動に入ってください。大抵、とんでもない魔法が飛んでくることが多いので」

「かー、マジか。了解」


 ため息を吐きながら龍一が槍を構えた。

 明もまた剣を構えて、途切れた攻撃を再開させようと両足に力を籠める。

 そんな二人へとセイレーンが笑いかけたのはそんな時だった。



「―――、――――」



 セイレーンが何かを言った。

 その言葉は言語にもならない音の連続に過ぎなかったが、彼女が何かを言ったのは確かだった。

 龍一が不審そうに呟く。


「何だ?」


 そんな龍一へと向けて、まるでこちらの行動を試すかのようにセイレーンが右腕を持ち上げ、指先を突き付けて狙いを定め始める。


「また水魔法!?」


 これまで何度も目にしてきた水魔法を放つ寸前の行動を前に、彩夏が叫んだ。


「牽制……のつもりでしょうか。距離も開きましたし」


 柏葉が彩夏の言葉に同意する。

 龍一が槍を構え直しながら言った。


「どちらにせよ、とりあえず避けて距離を詰めるしかねぇ。明が言っていたように、さっきの言葉にだけ気を付けていれば」

「いや違う」


 セイレーンの動きを注視するように見ていた明が龍一の言葉を遮った。


「これは……」


 呟き、明は目を細める。

 セイレーンは記憶の中にあるどのボスモンスターの中でも、特に知能が高い相手だ。こちらの言語を聞いてすぐに理解できる知能は持っているし、モンスターには似合わない戦略だって立ててくる。

 そんなヤツが、こんなにも分かりやすく予備動作を見せるだろうか。



(ありえない。セイレーンらしくない。だとすればこの行動はおそらく)


 ―――ブラフ。

 セイレーンの狙いに気が付いた瞬間、ゾワリと産毛が逆立った。



「『沈黙』!! 早くッ!!」


 半ば叫ぶようにして彩夏へと振り返る。


「え?」


 そんな明の言葉に魔法を警戒し回避行動に専念していた彩夏の反応が数瞬だけ、遅れる。

 その刹那の間がセイレーンにとっての勝機に繋がった。


「~~~~♪」


 すでに紡がれ始めていた音の連続に、リズムと音程が付き始めた。

 音は美しい歌声となって、湖面に反響するようにしてあたりに響き渡り始める。

 それは遥か彼方の古より、船乗りたちを水底に誘い込むとされてきた呪歌の声。



 その歌声に、一瞬にして明達は魅了されてしまった。


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[一言] 賢い敵は駆け引き上手で大変だな
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