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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
六章

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三回に一回の相手



 明が野営の準備を終えたのを見て、奈緒たちが野営の準備に取り掛かり始めた。

 しかし、日課となった訓練の疲れが出ているのかなかなか手が進まない。柏葉にいたっては準備の途中で手が止まり、意識が飛んでしまったかのように呆として宙を眺めている始末だ。

 珠のような汗を額に浮かべ、べったりと前髪を張り付かせた彩夏がうんざりとした口調で言った。


「暑い……暑すぎる。ねえ、なんなのコレ。このあたりの土地だけ、異常に気温が高くない? あたしの気のせい?」


 野営の準備をするためにずっと顔を伏せていたからか、彼女の足元には垂れ落ちた汗がまだらに染みを作っていた。

 奈緒は目に入る汗を鬱陶しそうにぐいっと手で拭うと、げんなりとした目で空を睨みながら呟いた。


「大丈夫、気のせいじゃない。この辺りの気温が他よりも高いのは確かだ。というよりも、埼玉県を抜けて茨城県に入ってから、少しずつ気温が上がってるような気がする」


 女性陣の野営の準備を手伝っていた明が口を開いた。


「イフリートの影響ですよ。この先に進めばさらに気温は上がります」

「イフリートの?」


 向けられた奈緒の視線に明は頷いた。


「イフリートは、いわゆる火の精霊です。火という概念そのものを体現したモンスターなので、アイツがいる場所の周囲の空気は必然的に温度が上がります。街は燃えて火の海になっているし、街中に流れる小さな川ぐらいだったら簡単に干上がらせることだって出来ます。イフリートの周囲は100℃を超えますよ。気温だけで言えば今の比じゃない」

「100℃!? そんなの、この〝火炎払いのローブ〟だけでどうにかなるわけ!?」


 悲鳴をあげるように彩夏は叫んで、身に付けたローブを見せつけるようにして引っ張った。

 明は首を振って言い返す。


「このローブだけじゃ無理だな。『火炎耐性』と『火傷耐性』のスキルレベルが3以上は無いと耐えられない」

「そんな余裕、どこにもないわよ!」

「私もだ」


 彩夏の叫びに同意するように奈緒が頷いた。


「レベルアップしてるからポイントがあるにはあるけど、その二つを取得する余裕なんてどこにも無いぞ」

「あ、分かった。柏葉さんの調合スキルで何か作るんでしょ!」


 リリスライラの戦いを思い出したのだろう。彩夏がピンと閃いたかのように口調を明るくして言った。


「『調合』スキルのレベルが上がっていろいろ作れるようになったもんね!」


 彩夏の向けられた視線に柏葉が言い難そうに口を開いた。


「確かにスキルレベルも上がったことで『耐火水薬』も『耐火傷薬』も作れるようにはなってますが……。残念ながら、材料がありません」

「材料がない?」

「はい。ここに来るまでの間で補充はしていますが、リリスライラとの戦いで予想以上に多くの材料を使ったので在庫がほぼ空です」


 リリスライラとの戦いで、柏葉は人数分の新しい防具に『魔力回復薬』、『変化の水薬』と様々なものを作ってる。そのおかげであの戦いには勝利することが出来たのだが、溜め込んでいたほぼ全ての材料を使用してしまっていた。

 腕を組み考え込んでいた龍一が言った。


「材料集めでもするか?」

「そんな余裕はありません」


 明が即座に首を振った。


「これ以上イフリートの元に辿り着くのが遅くなれば、今度こそ本当に『世界反転率』が動き出します。道中でボスを倒しながら進むのにも限界があるし、これ以上足を止めている余裕はありません」


 現時点で倒せるボスモンスターだって限りがある。今のメンバーが誰ひとり欠けることなく前に進むことを考えるのならなおさらだ。

 そんな明の考えが伝わったのだろう、龍一が難しい顔になった。


「言いたいことは分かるが、このままだとイフリートとも戦えないだろ。スキルを取得する余裕が無ければ『調合』スキルで補うしかない」

「その『調合』スキルでも、今回はどうにも出来ない相手なんですよ。『調合』スキルで作れる『耐火水薬』と『耐火傷薬』の効果は、スキルレベル2相当です。あったとしてもイフリート戦では使えない」


 『調合』スキルも万能じゃない。ありとあらゆる薬が作れるそのスキルは、役立つ場面は確かに多いが、今回はその枠にハマらない相手だ。柏葉には申し訳ないが、今回の『調合』の出番は『魔力回復薬』の製作ぐらいだろう。


「それじゃあ、どうするつもりだ?」


 四人を代表するように龍一が言った。

 明は険しい顔となった仲間の顔を一人ひとり順に見つめると、ゆっくりと言い聞かせるようにして言った。


「ここから東に、湖があります。そこにセイレーンというモンスターがいるので、そいつを討伐して手に入れられるもので、イフリート戦への準備を整えます」

「霞ヶ浦湖だな」


 明の言葉に奈緒が言った。

 彩夏が呟く。


「そう言えば、前にかすみがうら市で準備を整えるって言ってたっけ。もしかして、その準備がセイレーン討伐?」

「そうだ」


 彩夏の言葉に明は頷いた。


「レベルは高いけど、まあ……この五人ならどうにかなる」

「若干、口籠ったのが気になるけど」


 彩夏が大丈夫なの? と言いたげな眼で明を見つめた。


「本当に倒せる相手なんでしょうね?」

「大丈夫だ。厄介なスキルを使ってくるけど、どうにかなる」

「まあ、アンタがそう言うなら信じるけど」


 不承不承といった体で彩夏が頷いた。

 垂れ落ちる汗を拭いながら奈緒が話を纏めるようにして言う。


「それじゃあ、明日はセイレーン討伐に向かおう。一条、明日ぐらいは訓練も無しでいいだろ?」

「そうですね。疲れを引き摺ったまま勝てる相手でもないですし」

「信じられない……。当日の朝の訓練も無しにするだなんて。本当に今のあたし達が勝てる相手なんでしょうね?」


 ちょくちょく引っ掛かる言葉を残す明に、彩夏がげんなりとした顔を向けた。


「今のアンタがそこまで言うってことは相当厄介なモンスターって事でしょ? ギガントみたいに、過去にどうしても勝てなかった経験でもあるの?」

「いや、そこまでじゃない無いな」


 けろりとした顔で明は言った。

 彩夏がほっとした顔になる。


「何だ、じゃあ大丈夫じゃない」

「三回に一回ぐらいの頻度で負けてたぐらいだ」

「本当に今のあたしたちでも勝てる相手なんでしょうね!?」


 不安な言葉を残す明に、彩夏が頭を抱えていた。


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