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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
六章

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失ったもの、取り戻したもの

 


 明達は地図を広げて、今後の移動ルートを検討する。

 次の目的地は『世界反転』術式の核となったボスモンスター・イフリートがいる茨城県水戸市だ。横浜から水戸までの直線距離は100キロメートル以上とかなり遠く、ただでさえ移動に時間がかかるのにくわえて、地域を断絶する〝壁〟の影響も考慮しなくてはならない。

 『世界反転』術式の稼働を停止し続けるためにも、街ごとに存在するボスモンスターを討伐しながら進まなくてはならないのだから移動ルートの選定はかなり重要だった。


 奈緒が明が開く地図を覗き込んできた。思案するように眉間に皺を寄せると、彼女は呟く。


「横浜から水戸まで最短距離で進むなら……このまま北上して川崎市を経由し、大田区から東京に戻るのが一番か?」


 奈緒の細い指が地図上をなぞった。横浜から東京へと続く、国道一号線沿いに進むルートだ。

 明は奈緒の指を追いかけるように見つめると、少しだけ考えて首を横に振った。


「いや大田区は止めておきましょう。あそこのボスは、バジリスクというモンスターです。石化の状態異常を与えてくる上に、外皮が硬く攻撃も通りにくい。倒せなくもないですが、遭遇すると厄介なボスモンスターです」


 ()()の記憶を取り戻したおかげで、明は、これまでは実際に訪れないと分からなかった街ごとに出現したモンスターの情報が訪れなくとも事前に分かるようになっていた。東京、埼玉、神奈川の一都二県に出現するモンスターならばほぼ網羅していると言ってもいい。

 断言した明の口調に、奈緒も明が周回で得た知識を元に話していると分かったようだ。特に疑問も挟まず素直に頷いた。


 奈緒が明へと瞳を移して尋ねる。


「水戸までの、おすすめのルートは?」


 明は地図に視線を落として考えた。

 指を横浜に落として、そのまま世田谷から回り込むルートを示しながら言う。


「……川崎市を経由しつつ世田谷区から目黒区に入って、そのまま港区、千代田区、文京区、北区を抜けて埼玉に向かうルートです。そのあたりのボスなら、大した苦労はせずに埼玉方面へと抜けられます」

「埼玉に入ってからはどうするつもりだ?」


 〝壁〟の影響で、千葉県には入れない。

 それが分かっているからだろう、龍一は明へとそう聞いてきた。

 明は少しだけ悩むと、再び地図の上に指を置いてなぞりながら言った。


「川口市からそのまま北上して、越谷、春日部、杉戸町、幸手市を経由して茨城県に入りましょう」


 埼玉県の東部を縦断するルートを明は選択した。出現するモンスターやボスモンスターもまだ弱い。レベルを上げながら進むにはちょうどいいはずだ。


「茨城県に入ってからは真っ直ぐに水戸市へと向かう……と言いたいところですが、その前にちょっとだけ寄り道をします」


 彩夏が不思議そうに首を傾げた。


「寄り道? どこに行くのよ」

「イフリートを倒すための準備をかすみがうら市で整えるんだ」


 ギガントが災害級のボスモンスターだとするなら、これから挑むイフリートは厄災級とも呼べるボスモンスターだ。

 そこに存在するだけで街が焦げ、摂氏100℃に近い空気があたり一帯を覆う。灼けた空気を吸い込んだだけで喉は火傷で爛れるし、対策もなく挑めば炭化するのが関の山だ。

 脅威度だけで言えばギガントの比ではない。対策も無しに向かえば全滅するのが目に見えている。


「具体的に何をするのかはまた現地で説明するけど……。今の俺達がイフリートに勝つためにも欠かせない場所だ。ここは絶対に寄っておきたい」


 念を押すように言った明の言葉に、彩夏は「なるほどね」と得心がいったように頷いて見せた。

 明は言葉を続ける。


「話を戻すぞ。かすみがうら市で準備を済ませた後は一度つくば市に戻って、山越えをしてから水戸市の隣街である笠間市に侵入。そこで最後の準備を整えて、隣の水戸市に向かう……というのが、一番安全なルートになる」

「どうして山越えをするんですか? そのまま北上すれば早いような気もしますが」


 柏葉が地図を見ながら言った。

 明は渋い顔で答える。


「そのあたりはボスモンスターのレベルが高いんです。勝てなくはないと思うけど、イフリートと戦う前に誰かが致命傷を負う可能性だってあります」


 事実、明は過去の周回世界でそのルートを辿り、仲間を失ったことがある。

 レベル上げて進めばどうにかなるが、そうしている間にも『世界反転』術式が進み続けることを考えるとあまり気が乗らないルートだった。

 明がボスモンスターのレベルについて触れたからだろう、それまで黙っていた龍一が口を開いた。


「今の出したルートで遭遇する、ボスモンスターのレベルは大丈夫なのか?」


 明は龍一へと視線を向けた。


「『世界反転率』1%超えの状態で、レベル90から100台が平均かと」

「90から100……。それならどうにか出来そうだな」


 明の言葉に奈緒が頷いた。

 彩夏が苦い笑みを浮かべてみせる。


「そのあたりなら何とかなりそうって思っちゃうあたり、感覚が麻痺してるけどね。普通に考えれば、高レベル帯のはずよ?」


 これがゲームなら確かに彩夏の言う通りだが、相手は世界のルールも命の在り方も違う異世界だ。レベルの基準だって地球の考えとはまるで違う。レベル100は一見高レベル帯に見えるだろうが、異世界の基準で言えばまだ序の口だったりする。

 一条明が取り戻した記憶の中では、過去の周回世界でレベル500を超えるモンスターも存在していた。


(……まあ、あれは『世界反転率』が10%を超えていたっていうのもあるけど)


 明は当時の記憶を思い出して心の中でそう呟いた。

 十四周目で遭遇した、キマイラというボスモンスターだ。レベルやステータスがギガント並みに高く、多くの犠牲を払ってようやく討伐を果たしたが『世界反転』術式の核にもなっていないボスモンスターだと判明して、絶望したことがある。

 明は「そのうちアイツも倒さないとな」と心で呟くと、逸れた思考を戻した。


 彩夏に向けて口を開く。


「確かにレベルは高いけど、今出した場所のボスモンスターのステータスはそうでもない。この辺りで一番厄介なのはギガントだ。アイツに比べれば、この辺りのボスモンスタ―はどれも雑魚といってもいいから安心してくれ」 

「そりゃそうでしょ。あんなのが何匹もいたらあたし達とっくに死んでるって」


 彩夏が呆れたようなため息を吐きだした。

 そんな時だ。ふいに柏葉が「そう言えば」と明を見つめた。


「ギガント戦で一条さんがなってしまった〝魔力漏れ〟って治せるんですか? ひとまず〝魔力回復薬〟でどうにかしてますけど、あれは応急処置です。周回という知識も手に入ったことですし、根本的な治療法も分かったんじゃ……?」


 どうやらギガントという単語で思い出したようだ。

 奈緒もそれは気になっていたようで、心配そうに見つめてきた。

 明はそんな二人の視線を受け止めると、小さく首を横に振った。


「〝魔力漏れ〟に治療法はありません」

「治療法が、ない? どうしてですか?」

「簡単に言えば、これは限界を超えた代償だからです」

「それは、ギガントを倒すために無理をした影響ってことか?」


 奈緒が明に向けて言った。

 明は頷きを返す。


「そうです。俺はあの時、自分が持つスキルとそのレベルの限界を武器に与えられたスキルを使用して無理やり超えました。器がまだ未熟なのに、強い力を詰め込みすぎたんです。結果としてギガントは倒せましたが、その代償で俺の身体に刻み込まれた回路が壊れた……いや、『魔力回路』というスキルそのものが壊れてしまった」


 実は、〝魔力漏れ〟にかかったのはこれが初めてではない。

 過去の周回世界でも、一条明はこの状態に何度も陥ったことがある。その度に様々な手段を講じてどうにかしようとしたのだが、結局どうにもならなかった。

 そうして判明したのは〝魔力漏れ〟は各個人に与えられる『魔力回路』というスキルそのものが故障したことで起こる現象だということだけ。たとえスキルリセットで一度スキルそのものを消したとしても、一条明がポイントで取得するのは故障した『魔力回路』であるから意味がなかった。


 壊れたスキルは元には戻らない。


 元に戻る方法があるとすれば、それは新しく世界をやり直した時だ。

 まだ何も知らない、モンスターが現れる前のあの瞬間まで戻れば、『魔力回路』というスキルも壊れていないから〝魔力漏れ〟は消える。が、同時に明もまた全てを忘れてしまうリスクがある。


 なるほど、と奈緒が息を吐いた。

 何かを考え込んでいるのか、眉間に皺を寄せた彼女は難しい顔で呟いた。


「そうなると一条は今後も魔力回復薬に頼るしかないわけか」

薬中毒者(ジャンキー)一条じゃん」

「もっとマシな言い方があるだろ」


 からかうように言った彩夏の言葉に、明がツッコミを入れた。

 彩夏は明の言葉に悪びれもない謝罪の言葉を口にしていたが、すぐにその顔が険しくなる。


「でも実際問題さ、結構深刻じゃない? 魔力回復薬で確かに魔力は戻るけどあれも一時的でしょ。そんなのでイフリートっていうボスモンスターと戦っても大丈夫なわけ?」

「なんとかなるだろ」

「なんとかって、そんな簡単に―――っ!」


 彩夏がハッとした顔であたりを見渡した。彩夏だけじゃない。『索敵』を持つ奈緒もまた、険しい視線になってあたりを見つめる。


 そんな二人の様子に柏葉が呟いた。


「モンスターですか?」


 奈緒が頷きを返す。


「ああ。あの瓦礫の奥だ」


 明は奈緒が向けた視線の先へと目を向けた。

 魔力が無くとも戦えることを証明する、ちょうどいいタイミングだ。

 明は地図を折りたたむと、腰に携えた〝巨人の短剣〟を手に取った。仲間たちが武器を構え始めるたが、それを制するように一歩前に足を踏み出して止める。

 明は彩夏の言葉に答えるように、口を開いた。


「彩夏。俺は別にイフリートとの戦いが簡単だとは思ってない。けど魔力に頼らなくても今の俺はもう戦えるから、なんとかなるって言ったんだ」

「……どういう意味?」


 彩夏が怪訝な顔で明を見た。

 明は笑う。


「失ったものがあれば、取り戻したものもあるって話だよ。……よく見てろ」


 すらっ!

 剣を抜き、明は構えた。



 その瞬間だった。



「キイイイイイ」



 瓦礫の陰からイビルアイが顔を出した。

 同時に足に力を入れた明が駆け出す。どんっ! と音が鳴ってアスファルトの地面が砕けた。一瞬にして数十メートル以上も離れていたはずの距離をゼロにしたその男は、手にした剣を構えて、


「これが魔力に頼らない戦い方だ」


 呟き、正確無比な二度の剣撃を一瞬にして放ってみせた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 100%になった向こうの世界の低レベルはいったいどうやって生きてるんだろうってくらい大変そうなレベルだ……
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