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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
六章

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278/351

第六感



 これから私達がどうするかは、ひとまずまた明日にでも考えよう。


 明の前に現れた画面を契機として始まった緊急会議は、そんな奈緒の一言によって場を閉じた。

 みんなの疲労が限界に達していた。

 身体は満身創痍で、気力も振り絞るのがやっと。疲労困憊、という言葉がふさわしい状態の今、これ以上の話し合いを続けたところで良案が浮かぶとは思えなかった。


 とはいえモンスターが当たり前のように徘徊している世の中だ。

 全員が泥のように眠ってしまえば、それこそモンスターから奇襲を受けた際に対応が遅れる可能性がある。

 そこで明達は寝ずの番を立てることを決めると、交代で休息を取ることにした。

 『記録(ログ)』と呼ばれる謎の画面や、十七周目や十八周目という言葉の意味、そしてこの世界に出現していた〝壁〟のことを考えると中々寝付くことは出来なかったが、一度眠りに落ちると身体は正直なもので、空腹であることも忘れて明は昏々と眠り続けた。



 夜も更けた真夜中のことだ。


「明、起きろ。交代だ」


 明は龍一に叩き起こされた。スマホで時刻を確認すると、午前零時を回っている。十二時間以上寝ていたらしい。

 欠伸をしながらテントから出ると、龍一が新しい槍を手にしているのに気が付いた。どうやら明が寝ている間に、柏葉が龍一のために新しい武器を作ったようだ。

 龍一は手に入れたばかりの槍を丁寧にテントの傍に立て掛けると、いそいそとテントの中に入ってしまった。


 焚火を相手にしながら夜が明けるのを待ち続ける。


 ときおり奈緒や柏葉、彩夏が水を飲んだり用を足すために起きてきたが、いくら寝ても疲れが取れないのか、二三回ほど会話のやり取りをするとさっさとテントの中へと潜り込んでしまった。

 コトンッと何かが置かれた音が鳴って、ふと龍一が寝ているはずのテントに目を向ける。と、小さな明かりがテントの中で灯っているのに気が付いた。

 昼間のうちにどこかの店で売っていたキャンプ用品を拝借してきたらしい。

 コトンッと鳴り続ける音を聞いていると、それが机替わりの木の上に置かれるコップの音だと気が付いた。酒好きの彼の事だ。テントの中で酒を煽っているのは間違いなかった。


 穏やかな夜だった。

 人間の作る人工的な明かりを嫌がるようにして隠れていた夜空の星々が、空いっぱいに広がっている。夜行性のモンスター達が騒ぐ声がときおりどこか遠くから聞こえてきたが、こちらに近づいて来る様子もない。ぱちぱちと爆ぜる焚火が、今だけは明の相棒だった。 


(『第六感』か……)


 ぼんやりと炎を見つめていると、奈緒に言われた言葉を思い出した。

 奈緒は言っていた。『第六感』のスキルレベルを上げれば、もしかしたら何かが分かるかもしれないと。


(でも……本当にそうなのか? 『第六感』のスキルレベルを上げれば、本当に何かが分かるのか?)


 明はステータス画面を呼び出すと、『第六感』のスキル説明文を見つめた。




 ――――――――――――――――――

 第六感Lv1

 ・パッシブスキル

 ・スキルの所持者は五感以外の感知能力を有するようになる。また、五感では感じ取ることの出来ない、物事の本質を見極めることが出来るようになる。スキル所持者の第六感の強さは、スキルレベルに依存する。


 ポイントを40消費して、スキルのレベルを上げますか?  Y/N  

 ――――――――――――――――――





 このスキルを獲得したのは、ミノタウロス戦の後だった。

 病院のベッドの上で、獲得した大量のポイントの使い道に悩んでいた時に、このスキルが目に留まった。他にも多くの有能なスキルが画面には並んでいたはずなのに、明は『第六感』スキルが使()()()スキルだと、理屈ではなく自然にそう思っていた。

 ふと、明は考えた。

 それじゃあどうしてあの時の自分は、他のスキルではなく『第六感』スキルを取得したのだろう。


(……分からない)


 そこに理由はなかったはずだ。

 ごく自然に、このスキルは取得しなければならないと、そう思っただけなのだ。

 それはまるで、何かに導かれるかのように。明は自然と、このスキルを取得していた。


「…………」


 明はもう一度、『第六感』スキルの効果説明の画面を見つめた。

 五感以外の感知能力。

 そして物事の本質を見極める力。

 それらの力は明が疑問を浮かべるたびに、常に正しい答えを示してきた。そして、その示された答えに対して、明は〝間違っていない〟と絶対の自信を持って答えることが出来ていた。

 だとすれば、その自信はいったいどこから湧いてきたものなのか。

 ただのスキルの効果だった?

 いいや、違う。

 一条明はもう分かっていた。これ以上、真実から目を背けることなど出来やしない。

 十七周目や十八周目という言葉で、理解してしまった。


(『第六感』スキルの正体は、この世界そのものをやり直してきた俺の記憶と知識か?)


 そう考えると、すべてが腑に落ちた。

 このスキルが一条明にだけしかない意味も、常に明自身の疑問に答えるような形でこの世界の在り方に対する〝正解〟を示してきた意味も。


(ほんと、俺っていったい何なんだろうな)


 心の中で明は呟いた。


(死んでも死ねず、時間を巻き戻して生き返って……。挙句の果てには異世界からきた人間にもその力は神にも等しいなんて言われて。ただあの時、会社帰りにミノタウロスに殺されただけだったはずなのに。そんな男が、この世界そのものを何度もやり直しているかもしれないだなんて……)


 その答えはきっと、『第六感』スキルが知っている。

 しばらくの間、明は考えた。

 それから深いため息にも似た吐息を吐き出すと、覚悟を決めた。


「『第六感』スキルのレベル、上げてみるか」


 声に出して言ってみた。

 そうしなければ、明は不安に押しつぶされそうだった。

 決めた覚悟が揺らがないうちに、と明は再び自分のステータス画面を見つめる。




 ――――――――――――――――――

 一条 明 25歳 男 Lv1(129)


 体力:387

 筋力:1023

 耐久:831

 速度:880

 魔力:0【200】

 幸運:190


 ポイント:15

 ――――――――――――――――――

 固有スキル

 ・黄泉帰り


 システム拡張スキル

 ・インベントリ

 ・シナリオ

 ・スキルリセット

 ・記録

 ――――――――――――――――――

 スキル

 ・身体強化Lv6        ・集中Lv1

 ・解析Lv3(MAX)      ・剛力Lv1

 ・鑑定Lv3(MAX)       ・疾走Lv1

 ・危機察知Lv1        ・軽業Lv1

 ・収納術Lv5         ・魔力撃Lv1

 ・解体Lv1          ・第六感Lv1

 ・魔物料理Lv1        ・斧術Lv1

 ・魔力回路Lv2        ・毒耐性Lv3

 ・魔力感知Lv1        ・火傷耐性Lv1

 ・魔力操作Lv1        ・麻痺耐性Lv1

 ・自動再生Lv2        ・命の覚醒Lv1

 ――――――――――――――――――

 ダメージボーナス

 ・ゴブリン種族 +3%

 ・狼種族 +10%

 ・植物系モンスター +3%

 ・虫系モンスター +3%

 ・獣系モンスター +5%

 ・悪魔種族 +3%

 ――――――――――――――――――




 リリスライラとの戦いでレベルの変動はない。

 ステータス画面に追加されたものと言えば、『記録』の文字ぐらいだ。


(『第六感』のスキルレベルアップに必要なポイントは40だ。今すぐにポイントを増やすには、何かのスキルを消してポイントを戻すしかない)


 日付も変わったことで『スキルリセット』も使えるようになっている。

 明は悩みに悩んで、ポイントに変えるスキルを決めた。


(……となると、現時点ではこれだな)


 明の指が『収納術』を選択した。

 画面の問いかけに『Yes』を選択する。すると『収納術』に割り振られていたポイントが戻って、明が所持する合計ポイントは50ポイントになっていた。

 スキル画面に戻って、『第六感』スキルの効果説明の画面を呼び出す。

 目の前に現れたスキルレベルアップの確認をする画面に、明はやや躊躇いながらも『Yes』を押した。

 瞬間、画面が切り替わった。




 ――――――――――――――――――

 スキル:第六感Lv2を取得しました。


 スキルの進化条件が満たされています

 スキル:第六感 が スキル:超感覚 へ進化します

 ――――――――――――――――――




 スキルが進化した。

 そう思った瞬間、明の目の前がぐにゃりと歪んでいた。

 知らない記憶が一気にフラッシュバックして、流れ込む。

 まるで見ず知らずの誰かの記憶を無理やりに頭の中へと詰め込まれているかのようだった。


「づ、ァ!」


 たまらず、明は両手で自らの頭を抱えて抑え込んだ。そうしなければ、頭が内側から膨れて破裂してしまうと思ったからだ。

 次々と流れ込むそれらの記憶に脳が耐え切れず、悲鳴を上げていた。

 熱なんて感じていないはずなのに、頭の中が灼けるように熱かった。


「ァ…あァッ!!」


 奈緒が笑い、彩夏が泣いた。柏葉が恥ずかしそうに見つめ、龍一が隣に立っていた。その中には今の明も知らない青年が紛れていて、その青年もまた親しみのある笑みを浮かべていた。


 ――知らない。

 知らない知らない知らないッッ! 何も知らないッ、何だその記憶は!? もうやめてくれッッ!!!!

 何も知らないはずなのに、そのどれもに心当たりがあるッッ!!


「ぐ……ゥ、ぁ」


 気持ちが悪い。

 眩暈は酷くなる一方だ。

 その場に座っていることも出来ず、明は地面に倒れて丸くなった。


「あ、あぁッ!」


 そして、明は思い出した。

 それらの記憶の最期がどれも悲惨な結末を迎えていることを。

 その記憶が、かつてこの世界で戦ってきた自分の記憶であることを。


「はぁ……はぁ……はぁ……っ! そう、か……」 


 記憶の流入が終わり、倒れていた明が起き上がった。

 荒い呼吸を整えながら震える掌を見つめて、明は決意を固めるように拳を握りしめる。

 けれど次の瞬間、すぐにその拳は力なく開かれた。

 だらりと腕を下げた格好で、肩を落とした明が再び呟く。


「そういうことだったのか」


 この世界に関する知識を取り戻したその男の表情は、すべてを察して諦めた人間の表情によく似ていた。


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[一言] いったいどれだけの年月を合計で戦い続けてきたのだろうか……
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