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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
六章

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「壁、ですか」


 明は龍一の言葉に戸惑った。

 そんな情報、これまで一度たりとも耳にしたことが無かったからだ。

 その疑問は他の三人も感じたらしい。柏葉が首を傾げて龍一に質問する。


「壁って、あの壁ですよね? コンクリートとか、何かで仕切られているってことですか?」

「いや、そうじゃない。〝壁〟は目には見えない境界線のことだ。例えるなら、そうだな。お前らはオープンワールドっていう種類のゲームをやったことがあるか?」


 その言葉に、明と彩夏の二人が頷いた。

 柏葉や奈緒はあまり馴染みがなかったようで不思議な顔をしている。

 彩夏が説明した。


「ここ最近のゲームで増えてきている、移動制限のないタイプのゲームのことだよ。よくあるゲームだと、マップを移動するときにロードが入って画面が切り替わるでしょ? オープンワールドだとそういった場面の切り替わりが無いんだ」


 その説明を明が引き継ぐ。


「どこに行くのも自由、何をするのも自由ってタイプのゲームが多いですね。とにかく、プレイヤーの自由度が高いのが特徴的です」

「ここ最近だとスマホのゲームでも増えてきてるよ。って言っても、そう数は多くないけどね。私だってたまたまやってたゲームがそんなやつだったから知ってただけだし」

「それじゃあ、そのゲームの中だとどこにでも行けるのか?」


 彩夏や明の説明に奈緒が疑問を投げかけた。

 その疑問に龍一が首を振る。


「いや……どこにも行けるが、どこにでも行けるわけじゃない」

「どういうことですか?」

 柏葉が首を捻る。

「移動制限がないゲームなんですよね?」

「移動制限がないだけで、ゲーム内で移動できる範囲には限りがあるんですよ」


 明が龍一の言葉を補足した。

 龍一が頷き、言葉を続ける。


「いわゆるゲーム内マップの限界地点というやつだ。ゲーム作品にもよるが、その限界地点に到達するとプレイヤーが操作するキャラが前に進めなくなる」

「それって……」


 ようやく、奈緒や柏葉も龍一が何を言いたいのか察したらしい。

 龍一はこくりと頷くと言った。


「ああ、それと同じだ。その〝境界線〟に近づくと、目には見えない壁のようなものが現れて先に進むことが出来なくなるんだ」

「そんなの、まるでゲームの中みたいじゃないですか!」

「それこそ今さらだろ。レベルやステータスってものが現れた時点で、俺達はゲームの中にいるようなものなんだ。……最も、そのゲームってのは敵の強さも何もかもがアンバランスな、バグ取りもされてない質の悪いゲームそのものだがな」


 声を荒げた柏葉の言葉に龍一が笑った。

 明が尋ねた。


「その〝境界線〟はどこにあるんですか?」

「東京と神奈川の西――ちょうど、静岡や山梨の県境あたりだな」

「いつ頃から現れたのか分かりますか?」

「この世界にモンスターが現れてから、ちょうど丸一日が経ってからだって話だ。俺はその時には県境に居なかったから実際に、どんな風にその境界線が出来たのかは知らないが、リリスライラの信者になったやつがそんなことを言っていたのを聞いたことがある」

「二日目か……」


 龍一の言葉に明は考え込んだ。

 二日目と言えば、ちょうどミノタウロスを倒して寝込んでいた時だ。そのあたりの出来事についてはあまり詳しくない。


「二日目なら俺じゃなくて奈緒さんたちの方が詳しそうですね」


 明はそう言うと、奈緒たちの顔を見渡した。

 そこで奈緒の様子に気が付いた。

 奈緒が龍一の言葉に難しい顔となって考え込んでいた。

 明が声をかけるが、その声に気付いた様子もない。

 ブツブツと何かを呟き、それから何かに気付いたようにハッとした顔になると、ゆるゆるとした息を吐き出した。


「……なるほど。そういうことか」

「何か分かったんですか?」


 柏葉が問いかける。

 奈緒は小さく頷くと、自分の荷物の中から電源の切れたスマホを取り出して言った。


「コレが使えなくなったことについてだ」

「スマホ?」

「ネット回線だよ」


 首を傾げた明に奈緒が呆れた顔になった。


「ずっとおかしいと思ってたんだ。ひと昔前ならまだしも、今や重要インフラの一つになったのがネットだ。サーバーにアクセスが集中していてネットに繋がらなくなることや、サーバーそのものがダウンしていて繋がらないなんてことなら話は分かる。けど、実際にはそうじゃなかった。ありとあらゆるネット回線が、モンスターが現れてから使えなくなった」


 奈緒が険しい顔で言った。

 その表情には疲れが滲んでいる。


「携帯各社のネット回線だけじゃない。パソコンからのネット回線も、なんだったら自衛隊が使う衛星通信網もすべてダメになったと聞いている。それは、現実的にはありえないんだ。すべての通信網が同時に使えなくなるなんて、普通はありえない」


 奈緒が首を横に振る。


「それこそ、この世界にモンスターが現れた影響だと思ってましたけど……」


 柏葉が奈緒の言葉に戸惑いながらも言った。

 すると奈緒が同意を示すように頷いてくる。


「ああ、私も最初はそう思ったよ。レベルやステータスなんかが現れて、この世界の在り方そのものが変化したから使えなくなったと、そう思ってた。でも地域を分断する〝壁〟が出来ていたんだったら話が変わる」


 奈緒は一度、言葉を区切るとため息を吐き出した。


「私達がネットを使えなくなったのは二日目。〝壁〟と呼ばれてる目には見えない〝境界線〟がこの世界に現れたのも二日目だ。この二つが関係ないなんてありえないだろ」


 なるほど、確かに奈緒の言う通りだった。

 今のこの状況で、その二つを無関係だと言い切るのは難しい。

  龍一の話によると、この世界に現れた見えない〝境界線〟は、訪れた人間がその境界を越えることが出来なくなるようにすることが可能な壁だ。物理的にも、概念的にも干渉することが可能ならば、ネット回線の遮断ぐらいは可能なように思える。

 奈緒の説明で状況が飲み込めたのだろう。彩夏が慌てたように口を開く。


「ちょ、ちょっと待ってよ! それってつまり、私達は最初からずっと箱の中に閉じ込められていたってこと!?」

「それは〝壁〟をどう捉えるかだな」


 彩夏の言葉に明が難しい顔で言った。


「『世界反転』なんて名前が付けられているぐらいだ。どちらかと言えば、地域と地域を断絶する結界が張られてるって表現したほうが近いような気もする。龍一さん、地域を分断する〝壁〟はどこまであるんですか?」

「それは俺も分からない」


 龍一が明の言葉に首を振った。


「〝壁〟があるのは知っているし、神奈川の西側には確かに〝壁〟があるのは自分でも確かめたけど、出来た〝壁〟がどこまで伸びているのかは確かめてないからな」

「そうなると、ずっと出来た〝壁〟沿いに歩いて私達が閉じ込められている地域がどこまでなのかを確かめる必要があるわけですか」


 柏葉が眉根を寄せた。自分で口に出しておいて、途方もない作業だと感じたのだろう。同じことを考えていたのか、彩夏がゲッとした顔で天を仰いでいた。

 けれど、その言葉に待ったをかける人もいた。声の主へと全員の視線が向く。


「……いや、そうとも限らない」


 奈緒だ。

 奈緒は全員から向けられる視線を浴びながらも、ただ一人だけを見据えていた。


「そんな手間をかけなくても、壁の詳細を知る方法は残ってる。一条、お前が持っている『第六感』だ。お前にだけ与えられているそのスキル……。そのスキルレベルを上げれば、何かが分かるかもしれない」


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