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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
五章

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VS ニコライ②

 


「『魔力』」

 構えた刃へと魔力が収束し、

「『連撃』!!」

 振るわれた刃の連撃によって解き放たれた魔力の渦が、斬撃を飲み込んで爆発した。



「『防護(プロテクション)』ッ!!」



 咄嗟にニコライが叫んだ。明の一撃を受け止めた、あの防御スキルだ。放出された魔力が瞬時にニコライを覆って防護の膜を形成する。



「ぉおおおおおおおおッッ!!」



 だがそのスキルを見ても龍一は止まらない。

 まるで、振るう刃の一筋一筋に己の命を賭しているかのように。彼は雄叫びを上げながら全ての魔力を出し切るように連撃を重ねていく。


「ぐぅううう……っ!」


 龍一の連撃を受け止めるニコライが呻いた。

 ニコライの『防護(スキル)』に龍一の放った『魔力連撃(スキル)』がぶつかり、ピシリ、ピシリと魔力の膜にヒビが広がった。彼の決死の攻撃が、妻を奪い息子を変えた男を追い詰めていた。


「うらぁああああああああッッ!!」


 雄叫びをあげて、龍一が最後の刃を振り払う。




 ――バキン。




 膜が割れた。ニコライの驚愕した顔が、飛び散る破片を見つめていた。

 直後、その顔は龍一の放った魔力に飲まれ立ち上る土埃の中に消えていく。



「はぁ、はぁ、はぁ……ぅッ」


 ふらりと龍一が揺れた。その身体を、慌てて駆け寄った彩夏が支える。



「おじさん! 大丈夫!?」

「俺のことはいい。それよりもアイツは?」

「アイツなら」



 ちらりと彩夏が目を向ける。

 土埃が晴れた後には、身体を袈裟懸けに裂かれて横たわるニコライが居た。立ち上がる体力さえも無いのか、ヒューヒューとした息を吐きながら口の端で血の泡を作っている。



「良かった。ちゃんと生きてるな」



 龍一が安堵の息を吐き出した。

 『魔力連撃』ですべての魔力を使い果たしたのか、龍一は身体を震わせながらニコライの元へと歩みを進めると、虫の息となったニコライへと短剣の切っ先を突き付ける。



「さあニコライ、教えてもらおうか。蒼汰を元に戻す方法は何だ」


 龍一の言葉にニコライが笑った。



「ふ、ふふふ……教えるのは、元に戻す方法だけでいいんですか?」

「何?」

「あなたが大事にされていた、あの女……。あなたの、奥様の居場所は知りたくないんですか?」

「ッ、どういう意味だ!!」

「言葉通りの意味ですよ」



 ニコライが龍一を見つめてニヤリと嗤う。



「私は、あの女性の居場所を知っています」

「なッ!! ありえない……ッッ!! アイツは、沙耶は死んだ。お前が殺したのを、俺はハッキリとこの目で見ている!!」

「死体は確認しましたか? あなたはあの時、依り代を逃がすことで必死だったでしょう。あなたの女性が、もしかしたら生きてるんじゃないかと一度でも考えたことはないんですか?」

「…………っ」



 ニコライの言葉に、龍一の瞳が大きく揺れた。



「生きてる……のか?」


 龍一が問いかける。


「アイツは……沙耶は、まだ生きてるのか?」

「生きています」


 ニコライが口元に笑みを湛えて頷いた。


「もし、あなたが望むのでしたら、今すぐにでも会わせてあげましょう」

「ッ!」

「ダメだ龍一さん!!」


 龍一とニコライの会話を遮るように、明が叫んだ。


「明らかに罠だ!! 知ってるだろ!? 死んだ人間は生き返らないっ! どんな奇跡でも、それだけは不可能なんだよ!!」

「っ」

「どうしてそう言い切れるのです? 私達は、あなた方の言うところの異世界人。あなた方の常識と、私の常識が違うのは分かり切ったことでしょう?」

「そう……だよな?」

「龍一さん!!」


 ガタガタと檻を揺らし、明が彼の名を呼んだ。


「どうやら、外野が五月蠅いようだ」


 ニコライはそんな明へと目を向けると、最後の力を振り絞るように腕を持ち上げた。

 瞬間、明の周囲の影が蠢いた。

 影は一瞬にして明の口へと纏わりつくと、その口を塞ぎに掛かる。


「んーッ!! んんーッッ!!!」


 声さえも封じられた明が唸りを上げて檻を揺らした。が、ニコライは気にしちゃいない。それどころか明に向けて冷たい笑みを浮かべると、ついで奈緒たちへと目を向けた。


「あなた達も、邪魔をしないでください」


 呟きと同時にニコライの影が蠢いた。影は触手のような腕を伸ばしながら奈緒たちに纏わりつくと、その動きを封じてしまう。


「くそ……!」

「うごけ……ない」

「大人しくしていてください。騒げば、そこの男と同様に口も塞ぎますよ」


 ニコライはそんな奈緒たちへ向けて言い放つと、龍一へと視線を戻した。優しい声音で続きを問いかける。


「さあ、どうします。会いますか? 会いませんか?」


 狼狽えるように龍一が明とニコライを交互に見つめた。

 男は何度も口を開き、その度に決意が揺らいで口を閉じて、それからぎゅっと瞼を閉じるとようやく呟いた。





「…………会いたい」





 龍一の声は震えていた。




「会えるなら、会わせてほしい」

「その願い、聞き入れましょう」




 ニコライが嗤った。

 それからの行動は一瞬だった。

 ニコライは自らの顔に持ち上げた指を這わせると、そこにある右目を一気にくり抜いたのだ。


「―――…え?」


 突然の蛮行に龍一の動きが止まる。

 そんな龍一へ向けて、ニコライが取り出した目玉を転がしながら口を開く。




「あなた~、やっと会えたわね~」




 ニコライの声は、女性を模したかのような裏声だった。




「私もあなたに会いたかったわ~」




 人をバカにしたかのような裏声が続く。

 いや事実、バカにしているのだろう。

 未だ理解が及ばず呆然としている龍一の顔を見て、ゲラゲラとした声を漏らして笑い始めていた。


「ほら、あなたの大好きな奥様ですよ。いやぁ良かったですねぇ~……感動の再会だ」


 ニコライが手にした目玉をブチュリと潰した。ゲラゲラとした笑い声が大きくなる。



「…………嘘だ」


 龍一が静かに呟いた。



「お前の力は……『強奪』だろ? スキルを奪う力のはずだろ。スキルを奪えても、沙耶の眼を奪うなんて、出来るはずがない」


 だから、嘘だ。と。

 龍一は縋るような顔でニコライに向けて笑った。

 そんな龍一の顔を見て、ニコライがぽっかりと虚の空いた片目を歪めて嗤う。


「私、あなたの前で自分の能力を披露したことはありましたが、その時に一言でもスキルを奪う力だって言いましたっけ?」

「……………え?」

「奪う対象は、何でもアリなんですよ。力も、肉体も」



 ニコライが龍一へと腕を伸ばす。



「その生命力でさえも」



 ニコライの手が怪しく輝いた。



「ぁ、あぁ……ッッ!」


 直後、光に掴まれた龍一の顔が老け始めた。

 まるで十年以上もの時間が一気に経過したかのようだ。放たれた光とともに衰弱した龍一は、ふらりと身体を揺らすとその場に倒れてしまった。



「あなたの奥様が死に際で手に入れた固有スキル――『慧眼』。スキルだけ手に入れても面白くないので、目玉ごと奪ってみたんですが」


 龍一の寿命を奪い、自らの傷の治療に当てたニコライが起き上がった。

 細胞が活性化した影響だろうか。一気に伸びた髪をニコライは煩わしそうに後ろに撫でつけると、ニコリとした笑みを浮かべた。



「どうやら正解だったみたいですね。おかげでいい顔を見ることが出来ました」


 ニコライが倒れた龍一を踏みつける。



「私は大満足です」


 もうこれ以上、お前に用はないと。

 ニコライはそう言い放つと龍一を蹴り飛ばす。



「ああ、そうだ。最期にあの女が何を言っていたか教えてあげましょうか? 『夫と息子だけは助けてください』ですって。あははははッッ! そんなわけがないでしょう!!」



 愛した女性を守れなかった男の尊厳を踏みにじり、



「あなた達は殺しますよ。息子はヴィネ様の器として、あなた方はヴィネ様の生贄として」


 その女性の最後の願いさえも、吐き捨てる。





「う、ァ、ぁあああああああああ!!」

「あははははははははは!!」


 全てを奪われた男の慟哭を、神父の嘲笑が掻き消していた。






 怒りに震える男の声が聞こえたのは、その時だ。






「もういい。黙れよお前」






 バキンと音が鳴った。

 影の拘束を力任せに解いた男が、地面を蹴って駆けていた。


「あ? ――ッ!!」


 ニコライが音に振り向くのと、明がニコライの顔を全力で殴りつけるのはほぼ同時。

 明は、地面を転がり起き上がったニコライを見据えると、冷たく言い放つ。



「もうお前の顔は見たくない」

 明が懐から小瓶を取り出した。



「三十秒だ」

 怒りに燃える瞳がニコライを睨んだ。

 小瓶の中身を一気に飲み干し、投げ捨てる。



「三十秒でケリをつけてやる」

 明の全身から、大量の魔力が焔のように漏れ始めていた。



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― 新着の感想 ―
魔王とか呼び出そうとしてる人に言うことじゃないのかもしれませんが…なんでそんな酷い事するの?(素直)
[良い点] めっちゃくちゃ面白いです! ここ数日で一気読みしました。 [気になる点] 続きが気になります! [一言] 女性キャラがみんなさっぱりした性格だからか、ハーレムっぽさが全然ない所が個人的に良…
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