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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
五章

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やってみろ

 


「出掛けるにはもう遅い時間です。このまま、ここでゆっくりと休まれればいいじゃないですか」

「お前はッ!」


 明は唸るような声を出して、素早く〝巨人の短剣〟を鞘から抜くと構えた。そんな明に釣られるようにして、奈緒もまた魔導銃を構える。


「知り合いか?」

「……ニコライ。前に話していた、リリスライラの神父です」

「なるほど、アイツが」


 奈緒が警戒するように目を細めた。


「間違いないのか?」

「はい、以前のループでも見た顔です。……けど」

「けど?」

「何かがおかしい」


 明は眉間に皺を寄せながらそう呟くと、ニコライの姿をジッと見つめた。



(何だこの違和感……)



 『第六感』の影響だろうか。見つめれば見つめるほど、現れたニコライに対して感じた違和が大きくなっていく。

 顔、背丈、服装、両腕、両足……。

 明は違和感の正体を探るために、記憶の中で見たニコライと目の前に現れたニコライの違いを一つ一つ確かめていく。



 答えはすぐに見つかった。



(違う。コイツはニコライじゃない!)



 明が心でそう叫ぶのと、明の傍を獰猛な獣を思わせる何かが通り過ぎたのはほぼ同時だった。




「ニコラァアアイッッ!!」




 獣の正体は龍一だった。

 龍一は両手に持つ短剣を構えてニコライへと襲い掛かると、まるで二対の牙を突き立てるようにニコライの身体へと刃を突き刺し、一気に腕を引いて身体を切り裂いた。


「なっ!?」


 奈緒の口から驚きの声が漏れる。

 龍一の突然の行動に驚いたからではない。龍一が切り裂いたニコライの身体が、原型をとどめずにドロリと溶け始めたからだ。

 首が崩れて、支えを失った頭がボトリと地面に落ちた。

 ぐずぐずに溶けながらも表情を残した顔は、薄気味の悪い笑みを作りだす。


「誰かと思えば……妻を囮にして逃げた腰抜けじゃないですか」

「偽物!?」


 ニコライの身体が崩れるのを見て龍一が叫んだ。柏葉が本物を探すように周囲を見渡し始める。


「まさか、今のも異世界人だけが使えるスキルなんですか!?」

「その通りです」


 暗闇の中から声が響いた。ニコライだ。

 闇の中から滲むように現れたニコライは、素早く柏葉を左手で拘束すると、その首筋に右手で持つナイフの刃を押し当てた。


「っ!?」

「『黒泥の人形兵』というスキルでして、私そっくりの模倣体を作ることが出来るんですよ。本物と見分けがつかないほど、出来が良いでしょ? 私のお気に入りのスキルの一つです」

「柏葉さん!」

「おっと、動かないでくださいね。余計な動きをすれば、すぐに首を斬りますよ」

「っ!」


 動き出そうとした明がピタリと止まる。動きを止めたのは明だけじゃない。奈緒や彩夏、龍一もまた柏葉を人質に取られて動きを止めていた。

 ニコライはそんな明達を見て満足そうに笑うと言葉を続けた。


「随分と手荒な歓迎だ。こちらの人間は礼儀というものが欠けているようですね」

「ニコライ! その子を放せ!!」


 龍一が凄んだ。

 その言葉を薄く笑ってニコライが受け流す。


「放せ? 元はといえばあなたが襲いかかって来たからでしょう? 私はただ、彼と話がしたかっただけなんです」


 ニコライの視線を受け止めた明が怪訝そうに言った。


「俺と? こっちはお前と話すことは何もない。話し合いがしたいなら、まずは柏葉さんを放してもらおうか」

「それはダメです。放せばまた襲われるでしょう?」


 ニコライの視線が龍一に向いて、龍一が小さく舌を打った。ニコライに気付かれないようジリジリと足を動かして距離を詰めていたからだ。

 ニコライはそんな龍一の行動がお見通しだとでも言いたそうな顔で笑うと、明へとその瞳を戻した。


「まずは自己紹介をしましょうか。私はニコライ。ヴィネ様の寵愛を受ける者です、以後お見知りおきを」

「挨拶はいらない。お前のことは知ってる」


 明は会話を拒否するように剣を構えた。

 そんな明の言葉が面白かったのだろう。ニコライは喉を鳴らすように笑い声をあげる。


「ふふふ……なるほどなるほど。どうやら、アーサーの言っていたことは本当だったようだ。私はあなたと初めて会うのに、あなたは私を一方的に知っている。なんともまあ、奇妙な感覚です。気持ちが悪いとすら言えますね。死をきっかけに過去に戻る力だなんて……神も恐れる冒涜だ」



 ジロリとニコライは明を見つめた。



「答えなさい。一条明、あなたは一体何者ですか? ただの人間が、その力を手に入れられるはずがない。どうやってその力を手に入れた?」


「…………さぁな」


 『慧眼』のスキルで、明のステータス画面を見たのだろう。当たり前のように名前を告げられた自分の名前に、明は小さく笑った。

 自分が何者であるかなんて分からない。興味もない。死ぬ度に過去に戻る力が、どうして自分に与えられたのかなんて聞かれても、今の一条明に答えられるはずがない。

 そんな明の答えが気に入らなかったのだろう。ニコライはつまらなさそうに鼻を鳴らしてみせた。



「答えたくないのなら、まあいいでしょう。私もあなたの正体に興味はない。……ですが、あなたの持つその力は、非常に厄介だと言わざるを得ません」


 明は乾いた唇を舐めると、わざとらしく口元に余裕のある笑みを浮かべてみせた。


「俺の力が分かってるなら、このまま戦ってもテメェに勝ち目がないことぐらい分かるだろ? 回数を重ねれば重ねるだけ、不利になるのはお前たちだ。今は無理でも、次の俺がお前を必ず倒す」



 もしも今この瞬間に殺されても、試行回数さえあれば勝つことが出来る。

 そんな意味を込めて言った言葉に、ニコライは小さなため息を吐き出した。



「なるほど。確かにそうかもしれません。過去に戻れば戻るだけ、私はあなたに手の内を晒し続ける。そうなればきっと、いつかは負けるでしょうね」


 ですが、とニコライは嗤った。


「それは、あなたが死ねばのお話です。殺さずにあなたを無力化すれば、何も問題はない」



 小さな舌打ちを明は返した。


 確かにこの男の言う通りだ。死をトリガーに発動する力である以上、死ぬことが出来なければ『黄泉帰り』は発動しない。

 これまではモンスターが相手だっただけに、()()()()()()()()()()()()必要は無かったが、相手が『黄泉帰り』を知る人間ともなれば話は別だ。



(いざとなれば自害してやり直すことも視野に入れてたけど……。それさえも防がれる可能性もあるな)



 厄介な相手だ。固有スキルが把握されてしまっている以上、慎重にならざるを得ない。

 だがそれは、ニコライも同じことを感じているはずだろう。

 何せ一条明を殺さずに無力化しなくてはならないのだ。ただただ全力を出して相手をすればいいわけではない。人を殺すよりも遥かに高い能力が求められる。



「依り代を渡しなさい。今なら、あなた方が犯した全ての罪を許しましょう」

「蒼汰は渡さない。お前こそ、大人しく蒼汰を元に戻す方法を教えろよ」

「その質問に意味はありますか? 聞かれたところで答えるはずがないでしょう」

「……ああ。そりゃそうだ」



 互いの殺気が高まっていく。これ以上の会話は必要ないと、両者ともに察していた。

 ごくり、と。一触即発の空気に気圧された誰かが固唾を飲み込んだ。

 それが開戦の合図だった。



「ふっ!!」



 最初に動きだしたのは明だった。

 一気に駆け出して間合いを詰めた明は、柏葉の拘束を解くように剣を振るった。



「ッ!」



 刃がニコライの腕を捉えて斬り落とす。ニコライは痛みを感じたかのような表情を一瞬だけ浮かべたが、すぐにその顔が笑みへと変わった。



「残念、偽物です」



 身体が泥に変わり、溶け始める。

 明は泥に囚われそうになった柏葉を引き寄せると、叫ぶように言い返した。



「知ってるよッ! 俺が知ってるお前は隻腕だ!! 両腕がある時点で偽物なんだよ!!」

「……なるほど。過去に戻る力は、そんな使い方も出来るのですか」


 別の闇の中からニコライが現れる。隻腕だ。どうやら今度こそ本物らしい。


「その力の前では、下手に小細工しても見破られそうですね」

「だったら、どうするんだ?」

「正面から正々堂々、叩き潰すだけです」

「やってみろ」

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