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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
五章

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二つの魔法

 


「『隠密』」



 続けて呟かれる言葉に、男の姿が陽炎のように揺れる。

 揺れた姿は、空気に溶けるように消えていく。



「ッ、くそ!!」



 慌てて龍一が蹴りを放つが、その攻撃は虚しく空を切った。

 姿の見えない男の声が周囲に響く。



「スキルが使えず不利になるのなら、また、使えるようになれば良いだけのこと」




 その声の方向へと、龍一が裏拳の要領で拳を振り払うが、それも男を捉えられずに空を裂いた。




「どこを見ている。こっちだ」


 言葉と同時に、龍一の背中にナイフが突き立てられた。



「一撃の威力は落ちるが、速度のある相手にはこの方が対処しやすい」


 姿を現したアーサーがニヤリと笑う。




「ぅ、るせェ!」




 その笑顔に向けて龍一が再び拳を振るう。が、その攻撃をアーサーは予想していたようだ。ステップを踏み軽い身動きで拳を躱すと、再び『隠密』スキルを発動させた。



「形勢逆転だな?」



 呟きと同時に、再び龍一の背後にアーサーが現れた。

 首筋を狙い、振るわれたナイフを龍一はしゃがんで躱したが、それも速度に差があるからこそ出来たギリギリの回避行動だった。

 じわり、じわりと。龍一の身体には赤い線が刻まれ始め、その身体から流れる血の量が増え始める。

 今はまだ『疾走』による効果で辛うじて急所への一撃を避けることが出来ているようだが、それも時間の問題だ。『疾走』の効果が切れれば、回避する間もなく龍一は致命傷を負うことになる。



「っ、七瀬!」



 それが分かったのか、すぐに彩夏が奈緒の名前を呼んだ。



「何か、あたし達に出来ることはないの!? あのままだと、あの人死んじゃう!」

「分かってる!」


 奈緒は唇を噛みしめた。


「分かってるけど、あの戦闘に割り入るのは無理だ! 今の私達のステータスじゃあ、下手に手伝えばそれがかえって邪魔になる!!」

「それじゃあこのまま見てることしか出来ないの!?」

「そうは言ってない!! ……きっと、何かあるはずだ。今の私達にも出来る、何かが!!」



 言って、奈緒は自らのステータス画面を開いた。





 ――――――――――――――――――

 七瀬 奈緒 27歳 女 Lv102


 体力:104

 筋力:145

 耐久:143

 速度:144

 魔力:200

 幸運:104


 ポイント:9

 ――――――――――――――――――

 個体情報

 ・現界の人族。

 ・体内魔素率:0%

 ・体内における魔素結晶なし。

 ・体外における魔素結晶なし。

 ・身体状況:正常 

 ――――――――――――――――――

 所持スキル

 ・不滅の聖火

 ・身体強化Lv2

 ・索敵Lv1

 ・解体Lv1

 ・魔力回路Lv2

 ・魔力回復Lv1

 ・魔力操作Lv1

 ・精神強化Lv1

 ・自動再生Lv2

 ・初級魔法Lv4

 ――――――――――――――――――





 一条明がループしていることを知らされ、この三日間で多くのモンスターを狩ってレベルアップに勤しんだが、元々のレベルが高かったこともあってか上げることができたレベルはたったの一つのみだ。

 ポイントは残っているが、そのポイントを使うべきスキルがない。



(『初級魔法』のスキルレベルアップに必要なポイントは10。残り1ポイント足りない……。ステータス補正の働く『疾走』スキルや『隠密』スキルの取得も10ポイントだから、現状を打破できるものが何もない!)



 たった9ポイントを残りのステータス値に割り振ったところで、焼石に水だ。ステータス値に差がない相手ならばまだしも、『ヴィネの寵愛』というスキルを持つ格上のアーサーには致命打を与えることも出来やしない。龍一のように、魔力をステータス値へと変えるスキルが無ければ競ることも出来ない。



(くそ!!)


 心で吐き捨て、奈緒は画面を乱暴に消すと彩夏へと視線を向けた。



「花柳! お前、今の残りポイントは!?」

「…………8!」



 こちらも微妙だ。

 現状を打破する新規スキルを取得するには足りず、スキルレベルを上げることも出来ない。



(何か、何かないのか……。アイツの動きを少しでも止めることが出来る、何か――――)



 硬く、唇を噛みしめる。

 何かヒントは無いかと、これまでに見聞きした知識の全てを思い出す。



「――――――」


 そして奈緒は、ふとその手掛かりを思い出した。



「……花柳。お願いがある」

「お願い?」

「ああ。この方法ならどうにかなるかもしれない。でも、そのためにはお前のポイントを無駄にするかもしれなくて――――」

「分かった。何とればいいの?」



 奈緒の言葉を最後まで聞かず、彩夏はすでにスキルの取得画面を開いていた。



「……いいのか?」

「当たり前じゃん。今さら何言ってんの」


 戸惑う奈緒の言葉に、彩夏が小さく笑った。


「アイツを倒すんでしょ? あたし達で」

「…………ああ」



 彼女の言葉に、奈緒もまた笑った。

 奈緒は、彩夏に取得するべきスキルとこれからの作戦を伝える。

 伝えながらも、奈緒もまた自分のステータス画面を開き新たなスキルを取得する。

 そうして、二人は新たなスキルを取得し終えると顔を見合わせ頷き、同時に画面を払い消して駆け出した。



「アーサー!!」


 駆けながら奈緒が叫んだ。



「お前の相手は私達だろ!!」



 叫び、魔法(チェイン)を発動させる。

 発動した魔力の鎖が、龍一の背後に現れたアーサーを捉えようと襲い掛かった。



「っ、邪魔だ!!」



 だが、その鎖をアーサーが避ける。

 避けたところに、今度は彩夏の『魔力撃』が炸裂した。

 奈緒たちが動き出したことで、龍一も息を整える隙が出来たと勘付いたのだろう。素早く地面を蹴って、アーサーの下から離れると荒々しい声を張り上げた。



「悪い、助かった!」

「感謝するのはアイツを倒してからだ!!」


 叫ぶように言い返し、奈緒が魔導銃をアーサーへと突き付ける。



「『チェイン』!!」



 再び現れる魔力の鎖がアーサーへと襲い掛かる。

 その鎖を、アーサーは舌打ちとともに避けるとギロリとした視線を奈緒たちへと向けた。



「なるほど。よほど早めに死にたいらしい」


 呟き、ナイフを構える。



「『死霊憑依』が無ければ勝てると思ったか?」



 唸るように言って、その男は地面を蹴り奈緒たちへと向けて走り出す。



「どこまでも馬鹿な奴らだ!! そんなに死にたいのなら、殺してやる!! 『隠――――』」

「『沈黙(サイレント)』」



 隠密、と。

 呟かれるはずのアーサーの声は、差し込んだ彩夏の声によって奪われた。



「――――――」



 声が消されて、スキルの発動が中断されたことに気が付いたのだろう。

 アーサーは怒りの形相で彩夏を睨み付けると、その狙いを彩夏へと定めた。



「     」



 声なき怨嗟を吐き出して、アーサーはナイフを彩夏に向けて振りかざす。

 そこに、今度は奈緒の声が差し込んでくる。



「『挑発(タウント)』!!」



 叫ぶ言葉は、奈緒が直前に取得していた新たなスキルだ。

 明達がモンスターハウスを創り上げる際に柏葉薫が取得したという話を聞いたのを思い出して、奈緒は、7ポイントを消費してそのスキルを取得していた。



「私がいることを忘れるな!!」



 相手の意識を奪いヘイトを高めるその声が、アーサーの視線を強制的に奪い取る。

 その数秒の間が、龍一が駆け込む隙を作り出す。



「ぅおぉらァ!!」



 駆け込みと、蹴り技は同時。

 放たれた龍一の右蹴りはアーサーの握るナイフを弾き飛ばした。

 空手となったアーサーは奥歯を噛みしめていたが、すぐに声が出せないだけでスキルが発動できることに気が付いたのだろう。

 『隠密』と、心の中で呟かれた言葉に応じて姿が消えていく男の姿を、彩夏の視線がハッキリと捉えていた。



「『索敵』」


 呟き、彩夏は何もない宙へと指先を向ける。



「『ショックアロー』」



 そして彼女は、奈緒に言われて直前に取得した魔法(スキル)を発動させた。



「ッ!!」



 まさか、居場所がバレるとは思ってもいなかったのだろう。

 驚愕や怒り、痛みや苦しみといった様々な感情で顔を歪ませたアーサーが姿を現した。



 戦場に、異変が起きたのはその時だ。





 ――ふいに、巨大な影が街を襲った。





 それが月明かりを背負う瓦礫の巨人の姿だと気が付くのにはそう長い時間が必要なかった。




 なぜ、あんな巨人がこの街にいる?

 あの巨人はどこから現れた?




 そんな疑問に、アーサーや龍一の思考が否応なしに満たされる。

 そのコンマ数秒にも満たない時間が、彼女たちの一手を決定づける。



「――――」



 その場にいた誰よりも早く、速く、疾く。

 その巨人が味方であることを察した二人は、同時に、最短の動きでアーサーへとその指先を突き付けていた。



「「『ショックアロー』!!」」



 同時に重なり、発動した衝撃がアーサーを吹き飛ばした。

 それが、瀕死でありながらも執念で動き続ける男にとって致命的な一撃となったのは、誰の目から見ても明らかだった。



「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…………」



 魔法の副作用による荒い息を吐き出し、ピクリともしなくなったアーサーを二人は見つめた。

 そこに、事態を把握した龍一が地面に落ちたアーサーのナイフを拾って近づき、その身体を見下ろした。



「…………もう、十分だ」


 ナイフの柄を握りしめたまま、龍一は言った。



「家族のもとに行くんだ、アーサー」



 狙い定めた切先を、アーサーの心臓へと突き立てる。

 びくりと、身体が一度だけ揺れた。

 それを最後に、男はもう二度と起き上がることがなくなった。



「…………あれは、敵か?」



 アーサーの亡骸から目を離し、龍一が瓦礫の巨人を見上げて奈緒たちへと問いかける。

 奈緒は、その言葉にはっきりと首を横に振った。



「味方です」

「そうか、ならいい」



 視線の先で、振り上げた巨人の両手が街へと向けて落とされた。

 凄まじい轟音と衝撃が奈緒たちを襲ったが、誰も口を開く余裕などなかった。


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