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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
五章

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変化の代償

 ――――――――――――――――――

 ボスモンスターの討伐が確認されました。

 世界反転の進行度が減少します。

 ――――――――――――――――――




 その画面は唐突に、柏葉薫の目の前に現れた。



「……ぇ?」



 あまりにも予想外だったその画面の表示に、一瞬だけ柏葉の視線が奪われる。

 いや柏葉だけじゃない。その場に集まる信者たちの一部の人間――おそらく、柏葉と同じく現実側の人間だ。その中の何人かがイビルアイと戦う際に『疾走』スキルを発動していたのを柏葉は聞いていた――の視線もまた宙に向いて止まっていた。



(ボスモンスターの討伐!? このタイミングで!? いったい誰が――――)



 明の仕業だろうか?

 そんな、まさか。ありえない。

 ボスモンスターを討伐することで彼の回帰地点が変更されることを誰よりも知っているのは彼自身だ。にもかかわらず、今この瞬間、このタイミングで、彼自身の回帰地点を変更するメリットなんてあるはずがない。



(だとしたら誰が……ッ!)


 

 奪われた意識が強制的に戻される。気が抜けた柏葉に向けて、信者の1人が矢を射ってきたからだ。

 柏葉は、半ば反射的に迫る矢を短剣で叩き落とすと、お返しとばかりに奪ったばかりの長剣を投げつけた。



「どこを狙って……!?」



 クルクルと回りながら飛んでくる長剣に矢を射った女がせせら笑う。が、その笑みもすぐに消えた。


 柏葉が、飛ぶ長剣の陰で駆けていたのだ。


 飛び出した柏葉は女の側面から力強い蹴りを叩き込み、女の体勢を崩す。女は倒れないように必死で両足を踏みしめていたが、それが致命的な隙に繋がったのは誰が見ても明らかだった。



「ハァッ!」



 気合いの掛け声とともに柏葉が短剣を振るう。

 袈裟懸けに振るわれた刃は深々と女の身体を切り裂いて、真っ赤な血があたりに飛んだ。



「く、ぅ……ッ!」



 苦痛の声を漏らしながらよろめく彼女に、柏葉は追い討ちとばかりに短剣を突き出した。刃は吸い込まれるように女の心臓を貫いて、その命を刈り取る。

 柏葉は、いまだに息のある女を盛大に蹴り飛ばしてトドメを刺すと、大きく息を吐き出した。



「『隠密』」



 もう一度、スキルを発動させる。

 姿が滲み、消えて。気配さえも無くした柏葉の様子に埒が明かないと判断したようだ。信者のうちの一人が言った。



「ッ、これ以上あの女の相手はやめろ! 女が俺たちの相手をしているならガキのお守りはいないはずだ!! ガキを狙え!!」

「させない! 『挑発(タウント)』!!」



 柏葉がスキルを発動させた。

 魔力を伴う叫びが波紋のようにあたりへと広がり、蒼汰を狙おうと動き出した信者たちの足をすかさず止める。

 


「いたぞ!!」



 相反するスキルが発動したからだろう。姿を消していたはずの柏葉の姿が再び信者たちの前に現れていた。



(下手に『隠密』を発動させ続けると、蒼汰くんが狙われるっ!)


 

 ある種の洗脳なのか。瞳を血走らせながら柏葉へとめがけて一斉に動き出してくる信者たちを前に、柏葉はフッと息を吐き出すと地面を駆け出した。



「ッ!」


 

 近くにいた斧を手に持つ男の元へと駆け寄り、その勢いのまま手にした短剣を突き出す。



「遅いわ!!」



 突き出した刃を男がひらりと避ける。

 反撃とばかりに男は突き出した柏葉の腕へと目掛けて手にした斧を下段から振り上げた。



(さすがに、コレは腕が飛ぶッ!)


 その刃を避けようと、柏葉はステップを踏んだ。その時だった。



 ――ズキリ。



 額に痛みが走った。普段ならば気にすることのないほどの、小さな痛みだ。

 しかしその痛みが僅かの間、柏葉の身体を止めてしまった。



「しまッ――――」



 あっと思った時には何もかもが遅かった。逃げ遅れた左腕が男の振るった斧刃に捕まった。

 刃と皮膚がぶつかり、わずかな抵抗が生まれるがそれも一瞬のこと。

  男の筋力値が高いのか、男の持つ斧の攻撃力が高いのか。それとも、その両方か。いずれにせよ男の一撃はギガントの耐久値の半分をも持つ柏葉の耐久値を破り、一気にその腕を切断した。



「ッ、づぁ!!」



 燃えるような痛みで、視界が一瞬ブラックアウトする。

 その隙を狙われた。

 ゴッとした衝撃が頬を襲う。それが殴られた衝撃だと気が付いた時には、柏葉の頭は男に鷲掴みにされていて、力任せに地面に叩きつけられていた。



「――ッ!!」



 視界が再び暗くなる。

 抵抗することも出来ず、ハッと気がついた時には残る片腕を掴まれて、柏葉は男の手によって組み伏せられていた。



「く、そ……! 離せ、離して!!」

「くっ、この! 馬鹿力が!! コイツ、どこにこんな力が!! 仕方、ねぇ……『剛力』ッ!!」



 バタバタと暴れる柏葉を拘束する男の力が一気に増した。掴まれた右腕が徐々にあらぬ方向へと折れ曲がり、メキメキと骨が割れる音があたりに響き出す。



「ぃ、ぁああああああッッ!!」



 激痛に声が上がった。

 すかさず『再生』スキルが発動し痛みが和らぐが、それも一瞬だ。折れた骨が繋がると同時に、男はまた、柏葉の腕をあらぬ方向へとへし折った。



「ぎ、ッッ!!」



 繰り返される痛みで悲鳴が上がりそうになる。

 その痛みも、すぐに『再生』スキルが治してくる。

 何度も、何度も。

 『再生』スキルによる治療と、腕をへし折り砕かれる痛み。男の拘束から抜け出そうにも力の差がありすぎる。

 『再生』スキルがある限り命を落とすことは無いが、それが逆に柏葉薫を苦しめていた。



(抵抗、すればするだけ……痛みが増す。それ、なら……)



 息を吐いて、柏葉は力を抜いた。

 諦めたわけではない。拘束から逃れるために、隙を伺うことに徹しようと決めたからだ。


 柏葉が力を抜いたのを見て、男はようやく柏葉が観念したと思ったのだろう。骨をへし折る行為を止めると、荒い息を吐き出した。



「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……。く、そ! 化け物め!! なんなんだ、コイツは!! 変な紋様が出てから、別人じゃねぇか!」

「当たり前だ。コイツは今、モンスターの力を借りている状況だからな」



 男の疑問に別の男が答える。柏葉の全身に浮かぶ紋様を見て、それが〝変化の水薬〟だと看破した男だ。

 その男は異世界から来た人間なのか、目を細めるようにして柏葉の全身をジッと見つめると、訳知り顔で言葉を続けた。



「変化の水薬……。メタモルフォシスと呼ばれる、禁忌の魔薬だ。素材に使ったモンスターの力を一時的に借り受ける代わりに、その身を魔性へと堕としていくものだ」



 男は、組み伏せられた柏葉の正面へと座り込むと、柏葉の前髪を掴んで持ち上げた。



「その紋様……素材はギガントか? なるほど、巨人を倒した男の仲間だったか。どうりで現界の人間にしては動けるわけだ。よほど修羅場を潜ってきたようだな」

「だったら、何だって言うんですか?」



 ギロリと柏葉は男を睨み付けた。

 その視線に、男は薄く笑い返す。



「現界の女。どこでその薬を手に入れた? それは我々の世界――アルムストリアのものだ。この地域における世界反転はまだ僅か。お前が手に入れたものは、今はまだこの世界にも現れていないはずだが?」

「それ、じゃあ……。私が飲んだのは、あなた達の言う〝変化の水薬〟とは違うものなんでしょうね? この世の中にないものは、何をどうしたって飲むことが出来ませんから」

「それは無いな。現に、お前はその代償を身に受けている」



 言って、男は冷めた瞳で柏葉の額を見つめた。



「魔素の結晶化……。モンスターどもと同じ、肉体変異が起きている」



 そこには、いったいいつからだろうか。小さな白色の結晶体が、柏葉の額に浮かび上がっていた。

 男は、柏葉の額に出来た結晶体を見つめながら言葉を続ける。



「一度取り込んだ魔素は取り除くことが出来ない。分かるか? お前は今、一時的な力を得る代償に人間をやめたのだ」

「…………そんな、話。私が信じると?」

「信じようが信じまいが、事実だ」



 男は薄く笑い、掴んでいた柏葉の前髪を離すとくるりと背を向ける。



「身体に浮かんだ紋様が消えるまで、その女を拘束しておけ。女が口にしたのは、巨人(ギガント)変化の水薬(メタモルフォシス)だ。今、その女には『再生』の恩恵(スキル)が与えられている。殺そうとしても今は簡単には死なないだろう」

「マルコ、アンタはどうするんだ」



 柏葉を拘束する男が尋ねた。

 その言葉に、マルコと呼ばれた異世界人が答える。



「ガキを捕まえるに決まってるだろ」



 その言葉に柏葉の心臓が大きく跳ねた。



「ッ……!!」



 拘束からどうにか逃れようと身体を激しく捩り、暴れる。その行為に男の拘束がさらに増したが、その痛みも今はどうでも良かった。



「やめて! やめなさい!! あの子を、あなた達の言う依代に使ったって意味はない!! ヴィネはこの世界に現れない!!」



 叫びは、誰の耳にも届いていなかった。

 マルコと呼ばれた異世界人は柏葉の言葉に鼻で笑い、柏葉を拘束する男もまた柏葉の叫びに呆れたように笑うだけだった。



「あなた達の企みは失敗する! すでにその結末を見てきた人が言ってるんだから間違いない!」

「うるせぇぞ!」



 柏葉の口を塞ぐように、男の拘束がさらに強くなった。

 再び鳴り響く骨が折れる音に、柏葉の口から悲鳴が漏れそうになる。



(やっぱり、私一人じゃ無理だ)



 何も出来ず、ただただ痛みに耐えながら声をあげることしか出来ない自分がもどかしい。



(誰でもいい。誰でもいいから)



 涙が溢れた。

 無力な自分がただただ悔しかった。

 理不尽にこの世界を蹂躙する異世界の全てが憎らしかった。



「あの子を、助けて」



 絞り出すように、声を漏らす。

 空気を切り裂く疾風が起きたのはその時だ。



「―――……悪い。柏葉さん」



 柏葉を押さえつける男の拘束が緩んだ。



「もう少しだけ、頑張れますか?」


 男を蹴り飛ばした青年が呟く。

 その青年の姿に、柏葉は心からの安堵の息を吐き出した。



「一条、さん」


 柏葉の呼び掛けにその青年は――一条明は、小さく頷いた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >させない! 『挑発≪タウント≫』!! この挑発のところ 後に記載される表現ではタウントがルビ表現になっていますが こちらもルビ表現だったのでしょうか
[良い点] ナッパの前に絶望していた所に、悟空登場!! そんな感じでしょうか。。
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