似た者②
「私達は生き残れますか?」
それは、まるで独り言のように吐き出された小さな言葉だった。
「これで、私達は無事に明日を終えることが出来ますか?」
一心不乱に動き続けていた柏葉の手がいつの間にか止まっていた。
その瞳がいつの間にか明へと向けられていた。
「蒼汰くんも、私達も。みんな、みんなで……。私達は生き残ることが出来るのでしょうか」
きっと、彼女も返事なんて期待していなかったに違いない。けれど確かに零れたその言葉は、彼女が心の奥で感じている不安そのものだった。
だから明は、そっと目の前の画面を消して彼女へと向き合う。
その独り言に対して、はっきりとした返事をする。
「生き残ります。絶対に」
「でも、一条さんはまだ、この結末を知らない。ループしていない。この作戦が上手くいくのかどうかも、分かっていない」
確かにその通りだ。
柏葉の言う通り、今の一条明はこの先を知らない。無事に明日を終えることが出来るのかどうかも分かっちゃいない。
「もしもこれで無理だったら、どうするつもりですか?」
「また繰り返すだけです。俺たち全員が笑って過ごせるように。何度も、何度も繰り返すだけだ」
静かに問いかけられる言葉に、明ははっきりとした返事をした。
それが今の明に出来る答えの全てだった。
「…………そう、ですよね。一条さんならきっと、そう言うと思っていました」
困ったように柏葉は笑った。
「七瀬さんがよく愚痴を溢していました。一条さんは、自分の命を軽視しているって。だから、私達が一条さんのストッパーにならないと、またあの人は無茶をするからって」
「俺は子供ですか」
「それだけ、みんな心配しているんですよ」
柏葉は小さく笑う。
笑って、その顔を真剣なものへと変えて明を見つめる。
「――……一条さん。正直に教えてください。一条さんが、どうすればリリスライラの人達に勝つことが出来るのかを。今のあなたに必要なものを。そして、今の私にも出来ることを」
明は、じっと彼女の瞳を見つめた。
その瞳の奥にある、強さと確かな不安を覗き込んだ。
(柏葉さんの不安を取り除くなら、『大丈夫』だって言って、嘘を吐くのが一番……なんだろうな)
勝てるかどうかも分からない戦いに挑むのは誰だって不安だ。士気を上げることを考えるのならば、この場は嘘を吐くのが一番だ。
……だけど、その嘘はきっと彼女に伝わる。
隠した本心を、間違いなく彼女は見抜く。
一条明と柏葉薫は似ている。
似た者同士だからこそ、今の状況で隠し事をすればすぐに伝わる。
だから――。
「……仮に、作戦が上手くいったとして。それでも、俺が勝てる可能性はないのかもしれません」
正直に、明は龍一の話を聞いてから漠然と感じていることを初めて口に出した。
「今の俺は、魔力のない身体だ。以前のような強さもない。そりゃあ確かに、柏葉さん達に比べれば強いし、そこらのモンスター相手にも負けない自信はありますけど……。連中が、異世界の人間だと知って、その自信は崩れました」
『第六感』が囁いている。
今の自分では敵わない存在を相手にしようとしていることを。今の作戦を用いて、ようやくニコライとは五分五分の戦いになることを。
それだけの戦力差が今、彼らとの間にはあることを『第六感』が教えてくれている。
「魔力があれば……。『魔力回路』スキルが壊れていなければ、あるいは……。そう、感じているのは確かです」
「どうすれば、魔力は戻りますか?」
「分かりません。けど、可能性として、今のこの場で出来る方法があるとすれば一つだけ」
「あるんですか?」
驚くように柏葉は明を見つめた。
明はその瞳を静かに見つめ返して頷いた。
「賭け、ですけどね。『第六感』もその方法が〝正しい〟だなんて教えてくれない。もしかすれば、間違っているかもしれない」
「でも、試してみる価値はある」
言われた言葉に明はもう一度頷く。
そんな彼の表情に、柏葉はようやく明が何を言いたいのか察した。
「――――……私が、必要なんですね?」
「はい。というよりも、今この場でそれが出来るのは柏葉さんだけです」
「だったらやります」
即答だった。
そう言うと思った、と明は呟かずにはいられなかった。
だって、自分と彼女はあまりにも似ているから。
誰かのためになるのなら、と躊躇うことがないから。
だから、言えば必ず柏葉薫は素直に頷くだろうと、簡単に予想することが出来た。
「…………はぁ。分かりました」
そして、彼女の優しさを利用しようとしている自分がいる。
一条明は、自分の理想のために彼女を使おうとしている。
ココではないどこか遠く。
誰もがみんなで笑い合える世界に辿り着くために。
彼女の想いも、覚悟さえも、次に繋がる材料になるのなら、と既に割り切っている。
「言っておきますけど、その方法で俺の魔力が戻る確証は本当にないですよ。もしかしたら、ただただ無駄骨に終わるかもしれない」
「でも、上手くいけば一条さんがまた全力で戦えるようになるんですよね? そうなれば、もう、どうにでも出来ます。断る理由がないです」
まるで、一条明に魔力が戻れば状況が好転することを確信したかのような口調だ。
いや、事実。彼女は確信しているのだろう。明ならば、この状況でもどうにかしてくれると。
蒼汰も、みんなも。この先に続く不確かな未来でさえも、一条明ならば救ってくれると彼女は信じている。
――ならば。
「…………ありがとうございます」
その信頼に応えねばならない。
彼女の期待を裏切るわけにはいかない。
それが、今の自分に出来ることだから。
そんな想いを胸に、明は静かに深く頭を下げ続けた。
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