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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第4章 痾裡栖─アリス
61/63

#1 第3節

3/

  

 流石の八敷先生も、病院内に湧いた全ての眷属を七分で処理するのを汗一つ垂らさずに行うことはできなかった。

 途切れ途切れに漏れる呼吸音。額から流れる汗を袖で拭き取り、再び河奈のいる病室へと戻った。

 

「これで病院内にいる怪異はお前だけだ」

 

 明確な殺意を持った目で睨まれても、幼き河奈の姿をした怪異は少しも恐怖を見せなかった。


「そろそろ拘束を外せるわね」

 

 鎖を引きちぎるかのように魔力の縄でできた結界を解く。

 砂埃を手で払い少女の瞳は高く、八敷意を見上げた。

 

「ここでやってもいいけど、狭いわよね。場所を変えましょ」

 

「いらん、どうせすぐに大元と同化するつもりなのだろう? ならここでやり合おうが意味はない。先に行った二人とも合流して最終対決としよう」

 

「くふふっ、そういうのなら望み通りにしてあげるわ。あなたたち三人で向かってきても怖くないもの。あと三分耐えれば勝ちなんだから」

 

  ◇

 

 煌めく紅眸、轟く一閃。

 金髪の少女を前に梁山浄は攻めあぐねていた。

 

「クソ……キリがねェッ」

 

 アリスと名乗った怪異の少女が召喚する眷属たちに『牙』を振い続けること五、六分。タイムリミットまでもう半分と言ったところか。

 だがそのタイミングで異変が起きた。

 

「『蛇目(かがめ)』——ッ⁈」

 

 能力を発動しようとすると、激痛が走った。

 

 片目を覆った手についたのは血の涙。そして頬にそれが伝っているのが肌の感触を通して理解できた。

 

(どうして、いきなり——⁈)

 

 今までどんなに蛇目を行使してもこのような現象は起きなかった。故にこれは外部による反応——あの怪異の能力によるものだと推察する。

 

 ——だが、なにをした?

 

 力の()()()も感じられない。すでに術は敷かれていた?

 

「動きを止められねェ……!」

 

 予想外の出来事に対応が遅れる。

 攻撃を躱すことができず、得物である『牙』を駆使して受け流すのが精一杯だった。

 

「叶えられなかった願い、それはあなたにだってあるはずよ。なのに捨てられてしまうなんて可哀想だと思わない? 夢は叶わなきゃガラクタになってしまうなんて、理不尽でしょ?」

 

 息を切らし片膝をつく浄のもとにアリスが天使のように舞い降りた。

 しかしその瞳は天使の慈悲深さとは程遠く、どちらかといえば悪魔のような恐怖を感じさせるものだった。

 

「何が言いたいテメェ……」

 

「これがあなたの願いってことよ」

 

「は、何を言って…………まさか⁈」

 

「よかったわね。これでやっと呪いから解放されるのよ。ま、どうせここで死ぬのだけども」

 

 嘲笑うアリス、天上に集約されるは憎悪の渦————。

 

「これで終いにしてあげる。何十もの捨てられた願いの怨嗟に耐えられるかしら?」

 

 なぜ、今なんだ——。

 

 忌まわしいこの目だが、それでも浄によって強力な武器でもあった。

 二つある怪異の力のうちの半分が使えないというだけで、容易に近付いても脅威だとは思われないその無様さに、今はただ歯噛みするしかなかった。

 

 収束し、照準を合わせ——放たれる。

 避けられず、能力によるキャンセルも効かない。そしてこの威力では鉈ほどの大きさのものではで受け切ることはできないだろう。

 だがその結果は直撃には至らなかった——。

 

「すまない。もう少し余裕があるうちに迎えればよかったのだが」

 

 黒き波動を弾く呪符。

 風に吹き上げられた赤銅の髪と外套。

 我らが師、八敷意がそこに立っていた。

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