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『祈現の碧』Prevalent Providence Paradigm  作者: 宇喜杉ともこ
第3章 華隷彌─カレイド
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#4 第2節

 

 美佳がやられた。荒志郎もやられた。残っているのは僕だけだ——。

 

 あの二人が不意を突かれたとはいえ一瞬で地面に臥せられるだなんて信じられるはずがなかった。二人は僕より実力も戦闘経験だって上回っている存在だ。

 

 まずい——。

 

 正面から戦ってもまず負ける。しかし能力の扱いに長けていない僕に小手先の搦手が通せるはずがない。ここは一旦逃げるべきだろうか————。

 

「もしかしてこっから逃げれると思ってる? キミってばホントにかわいいね。それでこそ飼い甲斐があるってモンだよ。さあ、抵抗してみせて?」


 

 見え透いた挑発だ。正面から立ち向かっても勝ち目はない。だが背を向けて逃げてもあの神出鬼没の鏡には意味がない。

 そして悩んでる余裕もなかった。

 

 眼前に迫る美那萌。下手に攻めに行くことはしない。相手を視界の外から外さないよう慎重に立ち回ることが大切だ。

 

 あの鏡によるワープ——脅威ではあるが、入っている一瞬は無防備だ。

 注意深く観察していればその隙を叩くことができるかもしれない。

 

「ふーん、向かってこないんだ。じゃあアタシからいこっかな? どっちにしたって結果は同じだと思うけどねっ!」

 

 鏡を展開しながら美那萌が向かってきた。展開された鏡は左右二枚ずつ。

 放たれる光が視界を塞ぐが、決して彼女から目を離してはいけない。

 

「おまえの手法はもうわかっているぞっ!」

 

 相手はこちらが視線を外していないことを察すると、鏡での転移をしなかった。

 だが荒志郎に対して行った光の柱による視界妨害——あれだけは対処のしようがない。それは僕もわかっている。

 

「ちっ、そう簡単にはいかないか——でもこっちはどう?」

 

 やはり、きた。天上から降ろされる断頭台の刃が如し光。これを避ける間に彼女は姿を眩ます。

 

「碧水よ——」

 

 だがこちらはまだ手の内を見せてはいない。そこにこちらの優位性がある。だからチャンスは一回だ。

 

 右手を翳して、力を込める。

 光の柱で視界が遮られているのは相手だって同じ——だったらこっちが先手を取ればいい。

 身を退きながら右手の照準を定め、碧水を放つ。精度は鋭く、勢いを殺さぬように。光の柱という遮蔽物を貫通させて、そのまま美那萌の鏡をブチ破る——!

 

「喰らえっ!」

 

 放たれた碧水の放射はいつも以上に圧縮され、かなりの威力を増した。これもだいぶ力の扱いに慣れてきたからだろう。

 

「————っ⁈」

 

 手応えを感じた。確実に命中したであろう。——光の柱が霞んでいく。その奥に見えるのは蜘蛛の巣のようにに砕けた鏡だった。

 

 やった——。

 

 否、それは違う。何かがおかしい。確かに鏡は砕けた。だが肝心の美那萌はどこにいる——?


「狙いは、悪くなかったよ」

 

 どこだ——? 鏡は囮で、本当はコンクリートの柱の裏に逃げたのか? いやそれだったら見えていたはずだ。

 

「アタシに直撃したら、ひとたまりもなかっただろうね」

 

 崩れた鏡が浮かびあがる。そしてその割れた鏡の一つ一つから美那萌の姿が映った。

 

「でも残念。鏡の中ではアタシは無敵なの」

 

 無数の目と口が嘲笑うかのようだった。

 

「そしてキミが割ってくれたおかげでぇ……こんなこともできるようになっちゃった」

 

 割れた鏡から光線が発射される。一つ一つは小さいが、あまりにも数が多すぎる。避けることはできない。ならばここは防御するに他はない。

 碧水で自身の周囲を覆い、防御壁とする。攻撃は耐えれる。だが、それは悪手だった。

 

 攻撃が止んだあと、僕は急いで周囲に警戒する。

 当然の如く美那萌の姿はない。あの割れた鏡も無くなっていた。いつ、どこから来る——?

 

「あ——」

 

 チェックメイトだ。もう、すでに近づかれていた。

 

「はーい。これで、お・し・ま・い♡」

 

 驚きで口を閉めることも忘れたまま天井を見る。そこにあったのは黒い影。自分の姿を模った虚像だった。

 

 一瞬の出来事がまるで時が止まったかのようにゆっくりと、その終わりを告げてくる。

 黒い影の手がこちらを掴んで鏡の中に引き摺りこもうとしてくる。

 必死に身体を揺さぶるも意味はない。それもそのはずだ。あの影が掴んでいるのは僕の身体ではなく精神なのだから。

 僕はただただ深い、遠い、黒い影を見つめながら美那萌の鏡の世界に閉じ込められていくのだった。

 

 

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