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だけれど僕は桃太郎じゃない  作者: pai-poi
第7の酉幕 天に光明あるや否や
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意思表明はヘドロに流され

「ぬわあああぁぁぁぁーーーーーっ!」


 叫んだお陰で、視界があっという間に白ばみホワイトアウトする。そう、ヘルメットの内側が曇って何も見えない。だが叫ばずにいられようか! まさかまたもや落ちるとは! 「落下率ナンバー1」など僕は目指してなど、いない!

だがあれだ! 同じ落ちるでも僕は放り出されているッ! つまり放物線を描いているッ!

曲線を体現しているぅぅぅぅぅっ!!



 ふわっさ



 僕は放物線からの自由落下の果て、優しく抱きしめられる。大きくしっかりとした確かさに。

なんてこった! 大天使降臨か!!

僕は曇ったヘルメットのバイザーを開ける。夕焼けに染まり始めた茜色の空を背景に尊顔が顕れる。


「ぬほおおおぉぉぉぉーーーーーっ!」


 眼前に現れたのは、いかつい顔の白人系の男だった。

大天使にしてはいかつ過ぎる。それに身にまとっているのは白い服ではない。黒いスーツではないか。


 僕は驚きのあまり跳ね上がり、再び自由落下した。地上1mの高さから。



「痛っ、たたたぁ……」


「幌谷さんですね?」


 ヘルメットを脱ぎながら、声のした方を仰ぎ見る。

えっと、誰? お巡りさん?

何だろう、僕は自由落下罪でも犯したか……


「山柴の者です。」


 警察官の制服を着た男に手を差し伸べられ立ち上がる。


「周囲1㎞圏内は我々によって交通統制、封鎖完了されています。

 本作戦は民間には公開されていません。つまり周辺住民の避難等はありません。

 よって被害の拡大防止及び情報統制は、最小限で行われます。」


 山柴家は警察組織も動かすか。

なんと言うかだ。僕は読者に比べて裏事情を知らなくないか?


「変電所は正常稼働中です。鬼の襲撃の兆しも見えてはおりません。

 時間帯から言って所内職員の数は少ないと思われますが、彼等に状況は知らされていません。」


「まだ襲撃されていない?」


「依然、動きはありません。」


 ブラフか? いや()()()()が匂わしたのだ。何もないはずがない。

このタイムラグは何を意味する?


「ここから先の案内は彼が。

 私は現場指揮に戻ります。ご武運を。」


 状況説明を行った警察官が立ち去っていく。

道案内は彼か……。彼ね……。



「えーと、名前は……」


 お馴染みの外人SP、僕を抱きとめた「兄弟」がスーツの内側に手を差し入れ、そして素早く頭頂部へと手を掲げて振り下ろす。


 一瞬ビクッっとなったが、差し出されたのは名刺のようなものだった。

カタカナで「ゴードン」とだけ書かれている。

ゴードンね、ゴードン。背筋は真っ直ぐに腰だけ折った30度程度の礼、顎は上げられ顔はこちらを凝視。そして丁寧に両手で差し出される名刺。

うん、ジャパニーズ・ビジネス・挨拶ね。教育が行き届いてるなぁ。でももう少し笑顔でもいいと思うなぁ。


「えっと、ゴードン。うん、行こうか。」


 外人SPのゴードンは、僕が名刺を受け取る前にそれを再びスーツの内ポケットにしまった。そして僕がそこにいないかのように歩き出す。

むう、様式美以外を徹底的に削るとこうなるのか。感情とかまるで分らん。



『幌谷くんが幌谷くんの為すべきことを為すように、

 ボクはボクの為すべきことをしなくてはなりません。』


 僕が為さねばならないこと、ミスミが為すべきこと。

ミスミの為すべきこととは、いったい何なのか。

共通目的は「変電所の奪還、防衛、人命救助」だ。だが現状どうやら「奪還」は無いっぽい。

ミスミが別行動を取ったということは、「そうする必要があるから」と解釈するほかない。


 僕は……

僕が為すべきことは、最初から一つしかない。


 ゴードンの先導で進むと、変電所らしき建物が見えてきた。

何本もの鉄塔とそこから延びる太いケーブル。それよりも目に留まるのは白く巨大な建物だ。

高さは4~5階ぐらいだろうか。周辺に比較対象がないのと縦にも横にも長いため、大きさの規模がいまいちわからない。ただ大きいとだけしか理解できない。

そしてもっとも特徴的なのは窓が高所にしか見当たらないことだ。まるで巨大な倉庫のように見える。


 正面ゲートだろうか。高いフェンスに囲まれた一箇所。左右に詰所のようなものがあるが、無人監視されているのかそこに人は見当たらない。

その代わりに黒スーツの男達、ゴードンと同じ様相の外人SPが何十人か立ち並んでいた。


「はーい! なぃすちゅーみーちゅぅ!

 あーん、あぁん。

 どぅーゆーすぴーく、いんぐりっしゅ?

 えーと、おぁ、じゃぱにぃーず?」


「……。」


 日本語が喋れるか聞くなら日本語で聞け、という話だが。

そもそも過去の経験上、彼等と会話で意思の疎通を図れるとは思えない。

一定の理解はしているっぽいが。


「おーけーおーけぃ!

 あい、あぃあぃ……、ふぁいと、つぎゃざー!!」


 僕は精一杯の意思表示、いや意思表明を行った!

僕は君らと共に戦うと!!



「いやー、熱いっすなぁ。

 荒渡は暑いのと寒いのだったら暑い方が得意なんすけど、こういう熱いやつ?

 は、苦手っす。」


     キコキコキコキコ


 ゴードン他、外人SPに僕の声明演説を行った後方から、錆びついた音と共に返答が得られる。

返答は目の前の観衆から欲しかったのだが。


「荒渡は思うんすよねぇ。ウザくないすか? そういうの。

 雨早川姉さん、ああ見えて暑苦しいんすよねぇ。そういうの押し付けてくるし。

 あぁ、兵跡パイセンとか一見クールに見えるっしょ? 案外、熱くてうんざりするっすよ。

 垣間見える熱いのとか、マジ何なの? って感じっす。

 桃っちもわかる感じじゃないすか?

 名前は知らんすけど、あの銃を乱発する奴、執拗に攻めてくるあの女。

 正直、ああいうのウザくないすか? 空気読めよ! とか思わないすか?

 あー、そういえば、娘々太郎の眼鏡の子は良い感じすなぁ。

 桃っちはどっちの方が好みの感じ、だったりするっすか?」


「少なくとも、お前が嫌いだってのは確かだ!」



 先手を打てたのだろうか。


 粘着質を持ったパンクファッションな黒ずくめの男、荒渡がその辺で拾ってきたかのような、錆びつき捨てられていたであろう誰からも忘れられて視界に入らなかったであろう、ボロボロの自転車に跨り姿を現す。肌に無数に刺さっている安全ピンが夕日を鈍く反射する。


 振り返り様に柴刈乃大鉈を顕出させて構える。上段へと振りかぶった時、僕の後方から、いや四方八方から銃弾が、魔滅(マメ)が一斉掃射される。

錆びついた自転車を破壊とまではいかなくとも、あらゆる方向へと跳ね飛ばす。

跨っていた荒渡が、不自然な小刻みを踊りながら伸び上がり地に落ちる。


 海岸へ打ち上げられた藻屑のように、地面にへばりつく荒渡。

だが、そんなにやわじゃないはず。上段に太刀を振りかぶったまま、僕はその藻屑へと駆けた。


 振り下ろす直前まで動きが見えない。

振り下ろしきった後にも動きがない。藻屑にその一太刀を浴びせながら僕は深く息を吸った。



「いやほんと。

 荒渡はそういう熱いの苦手っす。」


 吸い込んだ息と共に。その言葉が耳に入ってくる。



「ただまぁ、なんつぅーか。

 自分、打たれ強いことには定評があるんすよ。」


 一太刀浴びせたはずの藻屑が、地面にへばり付いていたはずの荒渡が立体感をもって盛り上がる。

それは片手を地面に付き、ゆっくりと人の形へと成していった。


「先手必勝とか思いました?

 ウケますね、桃っち。」


 完全に、何事も無かったかのように復元された荒渡。

そいつが手を付いているのはマンホール蓋だった。


「ほんとそういう、「やってやったぜ!」みたいな顔。

 下から見上げると笑えてくるっす。」


 荒渡がマンホール蓋を離すと同時に蓋が吹っ飛ぶ。いや触れていたやつだけではない。

視野に入るマンホール蓋が次々に吹き飛んだ。

そしてその開かれた穴から夥しい量の瘴気、液体化した瘴気が間欠泉のように吹き上がる。


「自分、底辺なんで。」


 その吹き上がる瘴気に押し出されるように、ヘドロを纏った鬼が異臭とともに排出される。


 荒渡と共にゆっくりと立ち上がり始める排出された鬼、鬼、鬼。

その光景はまるで、昔見たゾンビ映画の登場シーンのようだった。



「んじゃ、そういうわけで。

 荒渡は帰りまーす。」


 だがその状況を作り出しておきながら、こんなにもゾンビ鬼を出現させておきながら。

荒渡はそう言い残し、開けたマンホールに自ら飛び込み、消え去った。

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