表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だけれど僕は桃太郎じゃない  作者: pai-poi
第7の申幕 人に智慧あるや否や
154/205

一斉掃射からのデートのお誘い

 飛びのき横転した状態から身を反転させ、迫ってきているであろう紙吹雪の竜巻、つまり紙竜巻に備え太刀を構える。


「なんてな。

 どうもあの骨の間の肉が上手く食えなくてなぁ。旨いには旨いんだがよ。」


 背後からの声を聞きつつも、眼前の紙竜巻への対処に頭をフル回転させる。だが、どういう訳か紙竜巻は僕へと届く前に軌道を変え、ウズウズがいる方向へと飛んでいく。


「こんな所で! 何をしてるんですか壇之浦さん!」


 紙竜巻が去ったとはいえ、ウズウズが討ち漏らした鬼共が次々に迫ってきていた。


「お? んまぁ、日常的な見回りだな。それが仕事だしな。」


 壇之浦の出現に多少なりとも動揺した僕は、眼前の餓鬼への対応に遅れる。



 タンッ



 短い発砲音。

餓鬼が額を穿たれ、のけ反る。すかさず鬼門をめがけて僕は袈裟斬りにする。


「そんなもので倒せるわけないでしょうが! こいつらは鬼なんだよ! 鬼っ!!」


「あぁそっか、(はら)撃たんと駄目なんだっけか?」


 タンッ タンッ タンッ


 僕の背後から射撃音が聞こえ、迫ってきていた餓鬼、半鬼が倒れ伏す。


「はぁ?」


「おーおーおー、チャカはあんまし好きじゃねぇが、この豆鉄砲は効果覿面(てきめん)なのな?」


 鬼共は壇之浦の弾丸によって確実に鬼門を穿たれていた。

いやいやいや! どういうこと? 豆鉄砲? マジでどういうこと?

僕は眼前の鬼が倒れた隙に、壇之浦の横へと後退し並ぶ。確かに壇之浦の銃弾に鬼は鬼門を穿たれ、瘴気を発しながら葬られていた。


「どういう経緯でここにいて豆鉄砲撃ってるか知らないけど、こいつらはヤバイんだよ!

 街に流れ込む気だ!」


 全くもって壇之浦が豆鉄砲、いや千条家とどういう繋がりを持ったのかはわからないが、そんな鉄砲一丁だけでこいつらを押し留められるとは思えなかった。

僕が鬼を二体立て続けに斬り伏せたのを尻目に、壇之浦はそんなことは意に介さず、といように内ポケットから煙草を取り出し、一本口に咥えるとマッチを擦る。伏見がちに目を細めてゆっくりと煙を吐く。



「全くだな。俺の街で好き勝手やってくれるもんだぜ。」


 壇之浦の口元から吐き出された紫煙が、ゆらりと立ち上る。


「それにしても何ださっきの面を付けた奴は? あれが元締めか?

 色鬼とはまぁ、なんというか懐かしいこったな。」


「色鬼?」


「なんだビャクヤ、知らんで遊んでたのか?」


 依然、僕は迫ってくる鬼を捌いていたが壇之浦は煙草の煙を吐きながら、僕のその必死さなど無いかのように呆れ顔で尋ねてくる。そもそも僕は遊んでいるわけではない!


「どういう、こと、だよッ!」


 並列に来た鬼を5~6体ほど横一閃し押しのける。鬼門に届いたのは半分ぐらいか。


「面を付けたあいつが「白」って言ったから白い服のマネキンに飛んだんじゃねぇのか?」


 壇之浦が白いハンカチーフをヒラヒラさせ、無造作に胸ポケットに納め、言葉を続ける。


「やれやれ、色鬼知らんのか。俺がガキの頃は鬼ごっこなんてよくやったもんだけどよ、テレビゲームばっかしてっからだよ。身体動かせ、身体ぁ。」


 壇之浦が僕の仕損じた鬼へ発砲しとどめを刺す。咥え煙草で。

そうなのか? あの自動追尾の紙吹雪のカラクリはそうなのか? 山羊女が色の名前を言う、聞いた者に自動追尾で攻撃する、防ぐ手立ては紙吹雪の全てを封じるか、指定された色を触る?


 ウズウズもそのことは知らないはずだ。急いで助けに行かねば。

しかし、この状況では僕は動くことが出来ない。今でさえ抑えるのがやっとだ。


「そこまで僕はッ! ゲームっ子じゃない!

 そんなことよりッ! ここはそんなもんじゃ抑えきれないッ!!」


 壇之浦が残りわずかになった煙草を深く吸い、そして「フーッ」と声に出して煙を吐く。


「いっぱいいっぱいか? ビャクヤ。

 んま、こりゃ数の暴力だわな。でもよぅ、安心しとけや。

 ヤクザにはヤクザの戦い方ってもんがあんだよ。」


 後方から空気を裂くような激しい音が聞こえ、僕は反射的に振り返った。

突如タイヤを鳴らしながらトレーラーが脇道から現れ、向かい側の壁に突っ込みながら停車する。アーケード街を城壁か何かの様に塞ぐ。

いやいやいや、確かに鬼の侵攻はある程度は防げるかもしれないけれども? そして必然的に僕らの退路も塞がれましたが?



 トレーラーの荷台が横に開かれる。横面が上に跳ね上がっていく。ガルウイングとかいうやつだろうか。

開かれた荷台の上には巨大な固定式ガトリングガンが設置されていた。そしてその周りにもマシンガンを手に、立派なタトゥーをした強面な方々が狙い定めている。


「おーし、お前ら。

 こいつらは俺らの街をハチャメチャにしようっていう不逞の輩だ。そういう奴らにはお仕置きが必要だな?

 遠慮することは無ぇ。豆喰わせて大人しくお帰り願え。」


 吸い終わった煙草を鬼に向って、指で弾き飛ばす。


「やれ。」


 壇之浦が静かに、そして太く号令をかけた。

その号令と共に激しく奏でられる射撃音。ガトリングの回転する機械音。重複する音が爆撃の様にアーケード街に響き渡る。圧倒的な弾幕。いや豆幕か……

数秒間の第一射。鬼門を狙うとか狙わないとかではなく、物量で前線を制圧する。

いやちょっと待て。そんな一斉射撃って! いくら豆だからといって流れ弾どころじゃないだろ! それは!!


「ウズウ……ズ?」


 僕の叫びかけた声が疑問符に尻つぼみ、すぐさま射撃音でかき消された。

ウズウズにしては珍しく地から離れ、鬼の間を飛び回っている姿が見える。その背中から伸びた手には二丁のフライパンが……。飛んできた流れ弾を跳弾させて鬼を狙撃していた。器用すぎる!

その上、追尾してくる紙吹雪をザルで絡め取り、猿面の一つがモシャモシャと食べていた。

生け捕りからのダイレクト踊り食い。いや、あれは魚どころか食料ですらはないのだが。



「さて息子、この場は任せろ。街に一匹たりとも出すつもりはねぇ。

 お前は嬢ちゃんとデートに行ってこい。上手くエスコートしてやれよ?」


 弾幕で鬼の前線を後退させた隙に、豆マシンガンをもった強面な方々がトレーラーから降り左右へ配置につく。先程の弾幕の一斉射撃と違い、前進してくる鬼共一体一体を狙撃している。


「この状況下で……、先に進めるわけないだろ?」


「ばーか。相変わらず何でも自分でしたがり君か、お前は。

 親でも何でも頼れるもんは頼っとけ。じゃねぇとな、お前の進む道は俺と同じ道だ。」


 壇之浦が視線を外し、遠くを見るかのように鬼共を見据える。


「それともなんだ? 嬢ちゃんのとこまで花道開けてくれって話か?」


 壇之浦が正面を指さすと、後方のガトリングガンが掃射され鬼共の中央が割れた。

これは壇之浦なりの僕に対しての戦力誇示か。それとも先に進めという意思表示か。


「……、んなわけねぇ。」


 僕は「何でも自分でしたがり」を否定したのか、それとも「進む道が俺と同じ道」を否定したのか。曖昧に「花道を開けてくれ」を遠慮したのか。壇之浦の隣りで僕は、倒れていく鬼共を見る。

トレーラーの運転席から降りてきた大柄の男が無言で跪き、壇之浦に日本刀を差し出した。


「チャカよりこっちの方がしっくりくらぁな。

 行けよ、ビャクヤ。」


 壇之浦が抜刀したのを横目に見届け、僕は中央へと進む。


「ヒビカは……、お前の母さんは最高の女だった。

 そしてカナデもお前も最高の子供だ。ただま、親父が最高じゃなかったってだけの話だ。

 頼りたくねぇのはわかるが、今日は勝手に頼られるぜ。」


 僕が進むに合わせ壇之浦が数歩前進したのが、背後からの声でわかる。

僕が離れたあとは、壇之浦が撃ち漏らしを斬り伏せるということか。有言実行か。


「そういうの、死亡フラグって言うんだぜ、……親父。」


「ハハッ、死亡遊戯の間違いだろ、そりゃ。

 島ぁ、派手にやれ!」


 背後からの援護射撃というよりは、目の前の敵を一掃するというような弾丸の中、僕は駆け出す。

僕は進むに邪魔な鬼だけ蹴散らす。討ち漏らした鬼共は全て背後に預ける。



「ウズウズッ! 山羊女を追うぞ!」


 僕は手を差し伸べる代わりに傍らの花壇に咲いていた白い花を失敬し、太刀で切り上げウズウズの方へと飛ばした。それはデートのお誘いにしてはあまりに色気が無い。だが僕の声に呼応したウズウズがその花をキャッチし、舞うようにして僕の側へと降りる。僕とウズウズは駆ける。


 目指すは山羊女。この鬼の暴徒を止めるべくやつの首を取ることだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ